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Chapter.63

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 夕飯というよりディナーと形容したほうが似合う食事を終えて、スーパーで買い出しを済ませてから家路に着く。
「あー、楽しかった」
 ジャケットを脱いで攷斗がソファに座った。
「もうこのまま寝たい」
「せめて着替えたら?」
 同じ気持ちを抱くひぃなが、自分にも言い聞かせるかのように笑いながら言った。
「うーん…。あ。お風呂先どうぞ。いま入ると風呂の中で寝そう」
「ありがとう。ほんとに寝るなら、お部屋戻ったほうがいいよ?」
「うん」
 とろんとした目付きで攷斗が返事をする。
 仕事帰りに長く運転させて申し訳なかったなと思いつつ、やはりひぃなも楽しかったので十二分に感謝した。
 買ってきたものを冷蔵庫や保管棚に格納し、
(ツリーは明日飾ろうかな)
 自室に置いた大きな紙袋の中身に思いを馳せる。
 攷斗が興味を持ったら一緒に飾り付けるのも悪くない。
「お風呂行ってきます」
「いってらっしゃい」
 いまにも寝そうな表情で手を振り、攷斗がひぃなを見送る。
(確かにこれは寝ちゃいそう……)
 湯船に浸かると長くなりそうなので、サッとシャワーを浴びてリビングに戻ると、攷斗はソファに座ったまま寝息を立てていた。
(子供みたい)
 そっと隣に座ってみる。前かがみになって顔を覗き込む。
「……風邪ひくよ~」
 小さく呼び掛けるが反応はない。
「コウトー」
 名前を呼んでも、規則正しい寝息が返ってくるだけ。
(ほんとに寝てる……)
 座面に置かれた攷斗の手を少し触ってみるが、反応はない。
(起きない…よね……?)
 そのまま指を滑らせて、手のひらを重ねてみる。
(大きい…。やわらかいし、あったかい……)
 少しだけ指に力を入れて握ってみる。初めて繋ぐ攷斗の手。感触も、体温も、心地が良く離れがたい。
(…カッコカリって……いつ、取れるんだろう……)
 繋いだ手を眺めながら思う。
 ……すき。
 とつぶやこうとして口を開いた瞬間、攷斗の指先に力がこもって、ひぃなの手を握った。
「!!」
 思いがけない動作に驚き、手を離そうとするが適わない。
「ひな……?」
 寝ぼけた声で攷斗が名前を呼ぶ。
「……はい……」
 ひぃなはそれに小さく返事をするが、攷斗の意識は夢と現実の狭間にいるようだ。
 ピントが合わない目線で、攷斗がひぃなを見つめる。
「……たない、さん……?」
 次の瞬間、攷斗の身体がひぃなをゆっくり押し倒した。
(ひょえ?!)
 脳内で変な声を上げて、ひぃながソファに倒れこむ。
「た、棚井……?」
「ひな……」
 ひぃなの胸に、攷斗の声は埋もれて、くぐもっている。
 攷斗はひぃなに覆いかぶさったまま、再度寝息を立てた。
(寝ちゃった……?)
 着痩せするようで気付かなかったが、筋肉質で意外に重い。完全に力の抜けた攷斗の下から這い出すのは難しそうだ。
 エアコンが付いているので寒くはないが、乾燥しそうなので風邪は心配だ。
 とはいえ、攷斗が起きるか動くかしないとひぃなも身動きが取れない。
 明日は土曜。休日出勤があるという話も聞いていない。明日が仕事なら無理にでも起こしてベッドへ連れていくところだが……
(潰れそうなほど重いわけでもないし…いっか……)
 ソファに置かれていたクッションを枕替わりにする。
 攷斗の暖かさと重みが心地良い。規則正しい寝息に同調して呼吸をすると、ひぃなにも眠気が襲ってくる。
(起きたとき…驚くかな……)
 攷斗が自分にそうするように、そっと頭を撫でる。セットされていない髪は案外猫っ毛でやわらかい。
(ほんとの猫も、こんな感じかな……)
 ぼんやりとそんなことを考えていると、ひぃなの意識が緩やかに消えてゆき、やがて眠りに落ちた。
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