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Chapter.43
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帰宅して、冷蔵庫内を整理しつつ買ったものを冷蔵庫に詰める。明日は昼間から下準備まつりだ。
「さて」
と、リビングでお互いが愛用の手帳を広げ、生活費のことやスケジュールの共有についてミーティングする。さながらそれは仕事のようだと同時に気付いて、二人で少し笑ってしまう。
恋人や同棲期間を経ていればその間に話すことなのだろうが、そのあたりの段階をすっとばして婚姻関係を結んだ二人は、やっと考えが及んだように思案の時間を作る。
生活費は全額自分が出すと言う攷斗にひぃなが難色を示したが、家事全般を担当するというひぃなに今度は攷斗が異論を唱えたので、生活費は全て攷斗が担当し、家事全般はひぃなが担当するということで折り合いをつけた。
「家事全部やってもらうのに生活費まで出してもらうとか、俺甲斐性なさすぎでしょ」
「そんなことないと思うけど……でもありがとう。助かります」
実際、前の同棲生活では家事のほとんどをひぃながやって、生活費は折半だった。実家に居ても同じような生活だっただろうなぁ、と思って受け入れていたが、まぁ人それぞれの考え方があるか、と、そこは攷斗の意見を尊重する。
趣味や交際・外食費は各自。衣服類も自分で買うものとして分類した。
要は、二人のことは攷斗の、各自のことは各自の財布から出そう、ということだ。
「ま、この先変化もあるだろうし、その辺は臨機応変でね」
ここまで決めて身も蓋もないことを言うが、確かにそれもその通りとひぃなは納得する。
「ファミリーカード申し込んでおくか。さすがに俺のクレカ貸すわけにもいかないし」
とスマホを持った。
「ほとんど引き落としだけど、新規で登録するサイトとか店で買う場合はそれで払ってね」
専用アプリを立ち上げて順を追って操作していくと、小さな画面に【申し込み完了】の文字が表示される。
「よし、おっけー。届いたら使っていいから、それまでになんか支払いあったらレシートちょうだい」
「うん」
ちょっとした買い物なら自分で払うつもりだが、ひぃなは言わない。
「そうだ、風呂。機能説明しとくわ。今日入るよね」
「あっ、うん……そうだね……」
深い意味はないその質問が、何故だか気恥ずかしい。
「…………こっち」
攷斗が口を開いて言葉を探し、出そうとした言葉を飲み込んで経路案内のそれに変えた。
(「なにもしないから、大丈夫」……かな……)
そこの心配はしていないし、そうなったらそうなったでいいんだけどなぁ、と思いつつ、少しうつむきながら攷斗のあとを着いていく。
(返答に躊躇したからこんな空気になっちゃったんだよね……)
と反省もする。
案内された浴室で、パネルの使い方を教わる。どこのシステムもそう変わらないので特に問題なさそうだ。
「ついでにお湯入れとく?」
「今日はシャワーだけでいいかな…。棚井が入るならセットしてもらったほうがいいかも」
「んー、いや。俺も今日はいいや」
浴室から出て、併設された洗面所の説明を受ける。
「タオル、ここから自由に使ってね」
「うん」
白いタオルがホテル並みの正確さで畳まれ、積まれている。攷斗の正確な性格が垣間見えた気がして、洗濯と掃除に対しての意識を強めることにした。
洗濯機や洗面台が設置されている洗面所の一角に、玄関ドア同様、内カギとドアチェーンの付いた鉄扉がある。その向こう側はルーフバルコニーだそうだ。
「照明器具は設置されてるんだけど、夜だと危ないから、出るのは昼間だけのがいいかな」
「はーい」
「一応、上の階の構造的に、ドア側には屋根があるけど、完全に雨が防げるわけじゃなくてさ」
「そうなんだ。晴れてたら洗濯物干してもいいんだよね?」
「うん。手前側にスペースあるよ。夏は日光浴とかできるんじゃないかな。俺もまだここで夏過ごしてないからわかんないけど」
「へー、いいね。広いんだ」
「まぁまぁ。洗濯は自分でやったほうがいいかな?」
「棚井が嫌じゃなきゃ一緒にやるけど」
「じゃあ、お願いしようかな」
「はーい。明日、やるね」
「うん」
「じゃあ、お風呂お先にどうぞ」
「いやいいよ、ひなが先に入りなよ」
「悪いよ」
「悪くないよ」
引かない相手に「「んー」」と二人が唸り、「「じゃーんけんっ」」二人で同時に腕を引いた。
* * *
「さて」
と、リビングでお互いが愛用の手帳を広げ、生活費のことやスケジュールの共有についてミーティングする。さながらそれは仕事のようだと同時に気付いて、二人で少し笑ってしまう。
恋人や同棲期間を経ていればその間に話すことなのだろうが、そのあたりの段階をすっとばして婚姻関係を結んだ二人は、やっと考えが及んだように思案の時間を作る。
生活費は全額自分が出すと言う攷斗にひぃなが難色を示したが、家事全般を担当するというひぃなに今度は攷斗が異論を唱えたので、生活費は全て攷斗が担当し、家事全般はひぃなが担当するということで折り合いをつけた。
「家事全部やってもらうのに生活費まで出してもらうとか、俺甲斐性なさすぎでしょ」
「そんなことないと思うけど……でもありがとう。助かります」
実際、前の同棲生活では家事のほとんどをひぃながやって、生活費は折半だった。実家に居ても同じような生活だっただろうなぁ、と思って受け入れていたが、まぁ人それぞれの考え方があるか、と、そこは攷斗の意見を尊重する。
趣味や交際・外食費は各自。衣服類も自分で買うものとして分類した。
要は、二人のことは攷斗の、各自のことは各自の財布から出そう、ということだ。
「ま、この先変化もあるだろうし、その辺は臨機応変でね」
ここまで決めて身も蓋もないことを言うが、確かにそれもその通りとひぃなは納得する。
「ファミリーカード申し込んでおくか。さすがに俺のクレカ貸すわけにもいかないし」
とスマホを持った。
「ほとんど引き落としだけど、新規で登録するサイトとか店で買う場合はそれで払ってね」
専用アプリを立ち上げて順を追って操作していくと、小さな画面に【申し込み完了】の文字が表示される。
「よし、おっけー。届いたら使っていいから、それまでになんか支払いあったらレシートちょうだい」
「うん」
ちょっとした買い物なら自分で払うつもりだが、ひぃなは言わない。
「そうだ、風呂。機能説明しとくわ。今日入るよね」
「あっ、うん……そうだね……」
深い意味はないその質問が、何故だか気恥ずかしい。
「…………こっち」
攷斗が口を開いて言葉を探し、出そうとした言葉を飲み込んで経路案内のそれに変えた。
(「なにもしないから、大丈夫」……かな……)
そこの心配はしていないし、そうなったらそうなったでいいんだけどなぁ、と思いつつ、少しうつむきながら攷斗のあとを着いていく。
(返答に躊躇したからこんな空気になっちゃったんだよね……)
と反省もする。
案内された浴室で、パネルの使い方を教わる。どこのシステムもそう変わらないので特に問題なさそうだ。
「ついでにお湯入れとく?」
「今日はシャワーだけでいいかな…。棚井が入るならセットしてもらったほうがいいかも」
「んー、いや。俺も今日はいいや」
浴室から出て、併設された洗面所の説明を受ける。
「タオル、ここから自由に使ってね」
「うん」
白いタオルがホテル並みの正確さで畳まれ、積まれている。攷斗の正確な性格が垣間見えた気がして、洗濯と掃除に対しての意識を強めることにした。
洗濯機や洗面台が設置されている洗面所の一角に、玄関ドア同様、内カギとドアチェーンの付いた鉄扉がある。その向こう側はルーフバルコニーだそうだ。
「照明器具は設置されてるんだけど、夜だと危ないから、出るのは昼間だけのがいいかな」
「はーい」
「一応、上の階の構造的に、ドア側には屋根があるけど、完全に雨が防げるわけじゃなくてさ」
「そうなんだ。晴れてたら洗濯物干してもいいんだよね?」
「うん。手前側にスペースあるよ。夏は日光浴とかできるんじゃないかな。俺もまだここで夏過ごしてないからわかんないけど」
「へー、いいね。広いんだ」
「まぁまぁ。洗濯は自分でやったほうがいいかな?」
「棚井が嫌じゃなきゃ一緒にやるけど」
「じゃあ、お願いしようかな」
「はーい。明日、やるね」
「うん」
「じゃあ、お風呂お先にどうぞ」
「いやいいよ、ひなが先に入りなよ」
「悪いよ」
「悪くないよ」
引かない相手に「「んー」」と二人が唸り、「「じゃーんけんっ」」二人で同時に腕を引いた。
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