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Chapter.39
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「ここでご飯にしよう」
「…おうち……?」
「を改築したお店。和食屋さん」
(びっくりした)
前置きなしに攷斗の実家に連れてこられたのかと思って焦る。地元とは離れた土地だから可能性としては低いが、ありえない話ではない。
「こんにちはー」
引き戸を開けて中に声をかける。
「あら、棚井さん。いらっしゃいませ」
和服に身を包んだ女将らしき女性が攷斗を招き入れた。
「今日は二人です」
「はーい」
行きつけの店なのか、それ以上何も言わずとも女将が店の中を誘導した。
「はい、こちらどうぞ」
座面が畳になった椅子の個室に案内される。
「ありがとうございます」
「お世話になります」
「ごゆっくりどうぞー」
女将が言い残して、ふすまを閉め退室した。
二人は上着を脱いで壁面のハンガーにかけ、向かい合わせに席に座った。
勝手知ったる動作で革表紙のメニューを広げて
「何がいい?」
攷斗がひぃなに聞いた。
(わぁ、いいお値段……)
思わず意味ありげな微笑を浮かべてしまう。
「一応言っておくけど、ここ、ご褒美メシだから。いつもこんないいもん食ってないからね?」
「うん。ちょっと安心した」
家事を担当するということは食事の用意も含まれている。高級で美味しい料理ばかり食べている肥えた舌に、下手なものは出せないという危惧はいまの言葉で払拭された。
攷斗はメニューを見るひぃなをニコニコと眺めている。それに気付いて
「たな……コウトは、なに頼むの?」
顔をあげた。
「んー? ひなが決めたら決める」
「えぇー、焦る」
「いいよ、ゆっくりで」
頬杖をつきながら攷斗が笑う。
「食べきれなさそうだったらシェアしよう。俺わりとハラ減ってる」
「ほんと? じゃあねぇ」
と、鴨南蛮そばと出汁巻き玉子を提案してみる。
「いいね。じゃあ俺こっちのセットにしよ」
と、希望が決まったところで呼び出しボタンを押した。ほどなくして
「はーい、失礼いたします~」
女将がオーダーを取りに来た。
攷斗がメニューを指し示しながら
「えーと、鴨南蛮そばと、天ぷらそば定食と、出汁巻き玉子、お願いします」
「はーい。鴨南蛮~、天定~、出汁巻きですね~。かしこまりました。少々お時間いただきますね~」
「はい、お願いします」
女将が伝票にオーダーを記載して、「ごゆっくりどうぞ~」と退室した。
「ひなって卵焼き好きだよね、俺ここのやつ食べたことないや」
メニューを元の位置に戻しながら、攷斗が言う。
「うん。手軽に美味しくたんぱく質を摂取したい」
「え、そういう理由?」
「割と」
「それは意外」
攷斗が笑った。
「卵料理全般が好きなんだけどね? お店だと、卵焼きくらいしか選択肢ないからさ」
「確かに。十年付き合ってきて初めて知ったわ」
“付き合う”と言ったって恋人関係だったわけではなくて。やはりどうしたって知っている部分は限られてくる。
「まだまだお互い、知らないことたくさんあるでしょ」
「うん。先は長いし、ちょっとずつでいいから教えてほしいな」
「可能な限りね」
全部を知ればいい、ということではない。知らないほうが良いことだってあるはずだ。
果たして本当に先は長く続いているのかな、なんて少し不安に思っていることだって、いまは秘密にしておいたほうがきっといい。
ふと、ひぃなが自分の服に視線を落とした。
(ウタナのワンピ、ほんとに優秀だな)
思わず微笑んでしまう。
和テイストの少しかしこまったこの場にもしっくりきている。
バスト下あたりに適度な絞りが入っていて、着痩せ効果も抜群だ(と思いたい)。
これから着まわしていくのが楽しみだな、と手持ちの服との合わせ方を考えていると
「似合ってるね、それ」
向かいに座った攷斗がワンピースを指して言った。
「そう? ありがとう」
攷斗とは服の好みも合うので、趣味の話をしていても楽しい。
「それに合う小物、今度一緒に見に行こうか」
「あっ、行きたい」
思わず声が弾む。
「今日でもいいけど、遅くなっちゃうもんね」
「そうだね。楽しみだなー」
「行きたいお店あったらリスト作っておいてよ、車で回ろう」
「いいの?」
「いいよ? いいから言ってるんだけど」
「嬉しい。今度見つけたら聞いてもらう」
「うん、待ってる」
しばらく雑談していると個室のドアがノックされ、女将が姿を現した。
「…おうち……?」
「を改築したお店。和食屋さん」
(びっくりした)
前置きなしに攷斗の実家に連れてこられたのかと思って焦る。地元とは離れた土地だから可能性としては低いが、ありえない話ではない。
「こんにちはー」
引き戸を開けて中に声をかける。
「あら、棚井さん。いらっしゃいませ」
和服に身を包んだ女将らしき女性が攷斗を招き入れた。
「今日は二人です」
「はーい」
行きつけの店なのか、それ以上何も言わずとも女将が店の中を誘導した。
「はい、こちらどうぞ」
座面が畳になった椅子の個室に案内される。
「ありがとうございます」
「お世話になります」
「ごゆっくりどうぞー」
女将が言い残して、ふすまを閉め退室した。
二人は上着を脱いで壁面のハンガーにかけ、向かい合わせに席に座った。
勝手知ったる動作で革表紙のメニューを広げて
「何がいい?」
攷斗がひぃなに聞いた。
(わぁ、いいお値段……)
思わず意味ありげな微笑を浮かべてしまう。
「一応言っておくけど、ここ、ご褒美メシだから。いつもこんないいもん食ってないからね?」
「うん。ちょっと安心した」
家事を担当するということは食事の用意も含まれている。高級で美味しい料理ばかり食べている肥えた舌に、下手なものは出せないという危惧はいまの言葉で払拭された。
攷斗はメニューを見るひぃなをニコニコと眺めている。それに気付いて
「たな……コウトは、なに頼むの?」
顔をあげた。
「んー? ひなが決めたら決める」
「えぇー、焦る」
「いいよ、ゆっくりで」
頬杖をつきながら攷斗が笑う。
「食べきれなさそうだったらシェアしよう。俺わりとハラ減ってる」
「ほんと? じゃあねぇ」
と、鴨南蛮そばと出汁巻き玉子を提案してみる。
「いいね。じゃあ俺こっちのセットにしよ」
と、希望が決まったところで呼び出しボタンを押した。ほどなくして
「はーい、失礼いたします~」
女将がオーダーを取りに来た。
攷斗がメニューを指し示しながら
「えーと、鴨南蛮そばと、天ぷらそば定食と、出汁巻き玉子、お願いします」
「はーい。鴨南蛮~、天定~、出汁巻きですね~。かしこまりました。少々お時間いただきますね~」
「はい、お願いします」
女将が伝票にオーダーを記載して、「ごゆっくりどうぞ~」と退室した。
「ひなって卵焼き好きだよね、俺ここのやつ食べたことないや」
メニューを元の位置に戻しながら、攷斗が言う。
「うん。手軽に美味しくたんぱく質を摂取したい」
「え、そういう理由?」
「割と」
「それは意外」
攷斗が笑った。
「卵料理全般が好きなんだけどね? お店だと、卵焼きくらいしか選択肢ないからさ」
「確かに。十年付き合ってきて初めて知ったわ」
“付き合う”と言ったって恋人関係だったわけではなくて。やはりどうしたって知っている部分は限られてくる。
「まだまだお互い、知らないことたくさんあるでしょ」
「うん。先は長いし、ちょっとずつでいいから教えてほしいな」
「可能な限りね」
全部を知ればいい、ということではない。知らないほうが良いことだってあるはずだ。
果たして本当に先は長く続いているのかな、なんて少し不安に思っていることだって、いまは秘密にしておいたほうがきっといい。
ふと、ひぃなが自分の服に視線を落とした。
(ウタナのワンピ、ほんとに優秀だな)
思わず微笑んでしまう。
和テイストの少しかしこまったこの場にもしっくりきている。
バスト下あたりに適度な絞りが入っていて、着痩せ効果も抜群だ(と思いたい)。
これから着まわしていくのが楽しみだな、と手持ちの服との合わせ方を考えていると
「似合ってるね、それ」
向かいに座った攷斗がワンピースを指して言った。
「そう? ありがとう」
攷斗とは服の好みも合うので、趣味の話をしていても楽しい。
「それに合う小物、今度一緒に見に行こうか」
「あっ、行きたい」
思わず声が弾む。
「今日でもいいけど、遅くなっちゃうもんね」
「そうだね。楽しみだなー」
「行きたいお店あったらリスト作っておいてよ、車で回ろう」
「いいの?」
「いいよ? いいから言ってるんだけど」
「嬉しい。今度見つけたら聞いてもらう」
「うん、待ってる」
しばらく雑談していると個室のドアがノックされ、女将が姿を現した。
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