37 / 120
Chapter.37
しおりを挟む
せっかくなので店内を見回ってみる。
男性女性問わず普段使い出来るデザインで手に取りやすい。ゴールドやシルバー製のものをメインとしていて、一角にステンレスやプラチナ素材のコーナーも設けられている。
ネックレスやリングだけではなく、耳や髪用、ボディピアスなんかもあって、かなり多彩な品ぞろえだ。
テイストの違うコーナー毎にブランド名と思われる小さな看板が掲出されているのを見つけて、レンタルスペースやセレクトショップのような経営方法も採っているのかな? と推測する。
一通り店内を見て回り、手持ち無沙汰になったので、先ほど勧められた椅子に座る。
カウンターの内側は机状になっていて、手入れの途中だったのかシルバーアクセサリー数点と専用クロスが置かれていた。簡易ラッピング用の小さな紙袋やシール、リボンには【alquimia】と印刷されていた。スペイン語で【錬金術】を意味するそれは、この店の名前。それらがまとめて入れられたケースは、高級洋菓子店の空き缶を再利用したものだ。
(かわいい)
誰かが便利なように持ってきたんだろうな、と思う。ひぃなの職場でもちょくちょく見かける光景に微笑んでしまう。
客側から見えない位置に電話の子機とメモセット、カタログや注文票が置かれている。電話が鳴ったら反射でうっかり出てしまわないようにしないと…と、事務業病の発症を未然に防ぐよう意識する。
カウンターの背後、仕切りの向こうに恐らくスタッフ用のバックヤードや事務所スペースがあるのだろう。電話の親機がそこに設置されているなら、万が一電話が来ても対応可能なはずだ。
そのバックヤードに移動した攷斗の瞳は、何か思いついたように輝いていた。
何を思い浮かべたのか、何をスケッチブックに描いたのか。それは予想もつかないが
(きっと素敵なんだろうな)
それだけはわかる。
社内コンペが行われるとき、デザイナーの名前が伏せられた状態で数点のデザイン画が掲出される。従業者が自由に投票出来るシステムなので、事務部でも毎回参加していた。ひぃなも好みのものに投票し、結果が出てデザイナー名が開示されると、それは決まって攷斗が描いたものだった。
テーマや目的に沿って考えられたそれらと、ある程度は枠から外れることが出来るであろう自社デザインはテイストが違っているかもしれず、攷斗の退社後のデザインがどんなものかひぃなは知らない。
ましてや、出来ることすら知らなかったジュエリーのデザインは、予想もつかない。
小さなスケッチブックに描かれた、攷斗の脳内から反映された結婚指輪のデザインがどんなものか気になるが、あの様子だと教えてくれそうにない。
数日後には実物が手元に届いて謎は解ける。それまではあれやこれやと想像を楽しもうと思う。
しばらく思考を巡らせていると、バックヤードから二人が戻ってきた。
男性女性問わず普段使い出来るデザインで手に取りやすい。ゴールドやシルバー製のものをメインとしていて、一角にステンレスやプラチナ素材のコーナーも設けられている。
ネックレスやリングだけではなく、耳や髪用、ボディピアスなんかもあって、かなり多彩な品ぞろえだ。
テイストの違うコーナー毎にブランド名と思われる小さな看板が掲出されているのを見つけて、レンタルスペースやセレクトショップのような経営方法も採っているのかな? と推測する。
一通り店内を見て回り、手持ち無沙汰になったので、先ほど勧められた椅子に座る。
カウンターの内側は机状になっていて、手入れの途中だったのかシルバーアクセサリー数点と専用クロスが置かれていた。簡易ラッピング用の小さな紙袋やシール、リボンには【alquimia】と印刷されていた。スペイン語で【錬金術】を意味するそれは、この店の名前。それらがまとめて入れられたケースは、高級洋菓子店の空き缶を再利用したものだ。
(かわいい)
誰かが便利なように持ってきたんだろうな、と思う。ひぃなの職場でもちょくちょく見かける光景に微笑んでしまう。
客側から見えない位置に電話の子機とメモセット、カタログや注文票が置かれている。電話が鳴ったら反射でうっかり出てしまわないようにしないと…と、事務業病の発症を未然に防ぐよう意識する。
カウンターの背後、仕切りの向こうに恐らくスタッフ用のバックヤードや事務所スペースがあるのだろう。電話の親機がそこに設置されているなら、万が一電話が来ても対応可能なはずだ。
そのバックヤードに移動した攷斗の瞳は、何か思いついたように輝いていた。
何を思い浮かべたのか、何をスケッチブックに描いたのか。それは予想もつかないが
(きっと素敵なんだろうな)
それだけはわかる。
社内コンペが行われるとき、デザイナーの名前が伏せられた状態で数点のデザイン画が掲出される。従業者が自由に投票出来るシステムなので、事務部でも毎回参加していた。ひぃなも好みのものに投票し、結果が出てデザイナー名が開示されると、それは決まって攷斗が描いたものだった。
テーマや目的に沿って考えられたそれらと、ある程度は枠から外れることが出来るであろう自社デザインはテイストが違っているかもしれず、攷斗の退社後のデザインがどんなものかひぃなは知らない。
ましてや、出来ることすら知らなかったジュエリーのデザインは、予想もつかない。
小さなスケッチブックに描かれた、攷斗の脳内から反映された結婚指輪のデザインがどんなものか気になるが、あの様子だと教えてくれそうにない。
数日後には実物が手元に届いて謎は解ける。それまではあれやこれやと想像を楽しもうと思う。
しばらく思考を巡らせていると、バックヤードから二人が戻ってきた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
お前を誰にも渡さない〜俺様御曹司の独占欲
ラヴ KAZU
恋愛
「ごめんねチビちゃん、ママを許してあなたにパパはいないの」
現在妊娠三ヶ月、一夜の過ちで妊娠してしまった
雨宮 雫(あめみや しずく)四十二歳 独身
「俺の婚約者になってくれ今日からその子は俺の子供な」
私の目の前に現れた彼の突然の申し出
冴木 峻(さえき しゅん)三十歳 独身
突然始まった契約生活、愛の無い婚約者のはずが
彼の独占欲はエスカレートしていく
冴木コーポレーション御曹司の彼には秘密があり
そしてどうしても手に入らないものがあった、それは・・・
雨宮雫はある男性と一夜を共にし、その場を逃げ出した、暫くして妊娠に気づく。
そんなある日雫の前に冴木コーポレーション御曹司、冴木峻が現れ、「俺の婚約者になってくれ、今日からその子は俺の子供な」突然の申し出に困惑する雫。
だが仕事も無い妊婦の雫にとってありがたい申し出に契約婚約者を引き受ける事になった。
愛の無い生活のはずが峻の独占欲はエスカレートしていく。そんな彼には実は秘密があった。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる