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Chapter.37

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 せっかくなので店内を見回ってみる。
 男性女性問わず普段使い出来るデザインで手に取りやすい。ゴールドやシルバー製のものをメインとしていて、一角にステンレスやプラチナ素材のコーナーも設けられている。
 ネックレスやリングだけではなく、耳や髪用、ボディピアスなんかもあって、かなり多彩な品ぞろえだ。
 テイストの違うコーナー毎にブランド名と思われる小さな看板が掲出されているのを見つけて、レンタルスペースやセレクトショップのような経営方法も採っているのかな? と推測する。
 一通り店内を見て回り、手持ち無沙汰になったので、先ほど勧められた椅子に座る。
 カウンターの内側は机状になっていて、手入れの途中だったのかシルバーアクセサリー数点と専用クロスが置かれていた。簡易ラッピング用の小さな紙袋やシール、リボンには【alquimiaアルキミア】と印刷されていた。スペイン語で【錬金術】を意味するそれは、この店の名前。それらがまとめて入れられたケースは、高級洋菓子店の空き缶を再利用したものだ。
(かわいい)
 誰かが便利なように持ってきたんだろうな、と思う。ひぃなの職場でもちょくちょく見かける光景に微笑んでしまう。
 客側から見えない位置に電話の子機とメモセット、カタログや注文票が置かれている。電話が鳴ったら反射でうっかり出てしまわないようにしないと…と、事務業病の発症を未然に防ぐよう意識する。
 カウンターの背後、仕切りの向こうに恐らくスタッフ用のバックヤードや事務所スペースがあるのだろう。電話の親機がそこに設置されているなら、万が一電話が来ても対応可能なはずだ。
 そのバックヤードに移動した攷斗の瞳は、何か思いついたように輝いていた。
 何を思い浮かべたのか、何をスケッチブックに描いたのか。それは予想もつかないが
(きっと素敵なんだろうな)
 それだけはわかる。
 社内コンペが行われるとき、デザイナーの名前が伏せられた状態で数点のデザイン画が掲出される。従業者が自由に投票出来るシステムなので、事務部でも毎回参加していた。ひぃなも好みのものに投票し、結果が出てデザイナー名が開示されると、それは決まって攷斗が描いたものだった。
 テーマや目的に沿って考えられたそれらと、ある程度は枠から外れることが出来るであろう自社デザインはテイストが違っているかもしれず、攷斗の退社後のデザインがどんなものかひぃなは知らない。
 ましてや、出来ることすら知らなかったジュエリーのデザインは、予想もつかない。
 小さなスケッチブックに描かれた、攷斗の脳内から反映された結婚指輪のデザインがどんなものか気になるが、あの様子だと教えてくれそうにない。
 数日後には実物が手元に届いて謎は解ける。それまではあれやこれやと想像を楽しもうと思う。
 しばらく思考を巡らせていると、バックヤードから二人が戻ってきた。
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