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Chapter.33

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「どーもー」
 外間が挨拶をして
「あ、一人で行けそやわ」
 桐谷が受け取る。
「ありがとう、今度メシ行こう。なんか食べたいモノ考えておいてね」
「あざっす!」
 段ボールを抱えて桐谷が元気よく礼を言う。
「またなにか手伝えることあったら呼んでください」
 外間は攷斗とひぃなに笑いかけた。
「うん、頼りにしてる」
「ありがとうございました。助かりました」
 遅れて到着したひぃなが二人に頭を下げる。
「棚井さんをよろしくお願いします!」
「お前が言うことちゃうやろ」
 コンビのような間で桐谷に突っ込みを入れる外間。ひぃなは思わず笑ってしまう。
「梱包材は積んだままでうちの会社の駐車場に入れておいてくれれば、あとうちの人たちがやってくれるから、鍵だけ返してもらえるかな。受付には話、通してあるから」
「「了解っす!」」
 二者二様のニュアンスで承諾して、それじゃ。と帰っていった。
 さて、と攷斗がひぃなに向き直り
「ラック作ろうよ。どこにどう置く?」
 問いかけた。
「えーっと……」
 元の部屋の配置を思い出しながら位置を指定して、二人で一緒に組み立てる。
 攷斗がテレビとHDDデッキを手際よく配線している間に、ひぃなが衣類や服飾小物類をウォークインクローゼットに収納していく。組みあがったラックや本棚には、前の部屋と同じように配置して中身を収納する。
「調理器具って勝手にキッチンに置いちゃっていいの?」
「うん。二人の家なんだから、どこでも好きにいじっていいよ」
「ありがとう」
 キッチン用品と洗面・浴室用品を持って部屋を出る。それぞれのスペースに赴いて、とりあえず物を置いていく。使っているうちに使い勝手がいい場所に収納し直せばいい。
「ん?」
 キッチンツールがかかっている壁沿いのフックに、見覚えのある鍋つかみがぶら下がっている。
(結婚情報誌の付録のやつだよね?)
 タグを見ると、やはり誌名がプリントされていた。
(取っておいたんだ)
 少し意外な気がして、でも攷斗が使っていたら可愛いな~なんて想像しながらキッチンをあとにする。
 下見のときには入らなかった浴室は、足を伸ばして入れる大きさのバスタブとシャワースペース。温風乾燥機が付いていた。
(雨降った時に便利だな)
 元の自宅にはなかった機能の活用方法を考えつつ部屋に戻る。
「付録のやつ、使ってるの?」
 ラックを組み立てる攷斗に聞いてみる。
「付録?」
 すぐには思い当たらなかったようで、しばし考えてから
「あぁ、鍋つかみ?」
 正解にたどり着いた。
「そう」
「使ってはないけど捨てるのもなんだし、ひなが来たら使うかなーと思って」
「そうなんだ、ありがとう」
「まぁ、使うかどうかはお任せします」
「はぁい」
 なければないでなんとかなるが、あったらあったで使う、くらいのスタンスで考えておく。
 とりとめのない雑談をしながら作業を続け、夕方に差し掛かったあたりで生活出来るレベルの部屋になった。
「すごい…早い……」
 一人暮らしを始めたときのおぼろげな記憶では、レイアウトと収納に夜までかかった記憶がある。
「二人だとね、単純に二倍になるからね」
「そうだけど、やっぱり棚井、作業早いよね」
「褒められるの嬉しいけど、照れるね」
 へへっと攷斗が笑う。
「そろそろ休憩しようか」
「うん。お茶淹れるね? キッチン使っていい?」
「もちろん。とはいえ、あんまり自炊しないから必要なものがあるかどうか……」
 首筋をさすりながらひぃなと一緒にキッチンへ向かう。
 元々あった食器や調理器具の場所を教えながら、棚に眠っていた贈答品と思しきセット品のティーバッグで紅茶を淹れた。
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