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Chapter.32
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地下駐車場に入ると、来客用の駐車スペースにトラックが見えた。外間と桐谷が台車に家具を積んでいるところだ。
「ごめん、お待たせ」
攷斗が車を降りて二人へ歩み寄る。
「いえいえ全然」
外間が笑顔で返答する脇で、桐谷が台車に大型の荷物を載せていく。
あとに続くひぃなに、
「先に家にいてくれる? 階数とか覚えてる?」
攷斗が問いかけた。
「うん、大丈夫だよ」
攷斗から差し出された一本の鍵をひぃなが両手で受け取る。
「家の中にいてくれるなら、鍵閉めなくていいから」
「うん、わかった」
よろしくお願いします、と三人に挨拶をして、先に部屋へ向かう。
至れり尽くせりだなー、なんて思う。
六年前は堀河が軽トラックを出して荷物の運搬を手伝ってくれたので、それはそれで楽だった。それ以外のことは正直あまり覚えていない。忘れたいという意識もそんなになかったが、思い出す必要ももうないのだしそれでいい。人間の脳は良く出来ているなと思う。
渡された鍵を使ってドアを開け、室内に入る。
リビングへ続く廊下にはブルーシートが敷かれ、壁には養生用のプラダンが貼られている。
たまに手伝う荷物搬入の光景を思い出す。そういえば攷斗はこういう作業も人一倍手際よく、上手にやっていた。
リビングの一部、ひぃなの部屋に続く経路にもビニールシートが敷かれている。部屋の中まで、靴を脱がずに荷物を運び入れられるようにしているのだろう。
持っていたサブバッグから花瓶を取り出して、リビングのテーブルの上に置く。バッグはソファの横に一時置きした。
ほどなくして玄関ドアが開く音がする。出迎えるひぃなに気付き
「おぉ。荷物運びは俺らでやるから、ひなは配置の指示出ししてくれる?」
攷斗がドアストッパーを下げて言った。
「うん、ありがとう。ベッドとテレビは置いて欲しいけど、ラックは組み立てなきゃだし、運び入れるだけで大丈夫だよ」
「そっか。じゃあそうするか」
「うん」
「桐谷~、外間~」
二人に呼びかけ廊下へ出て行った。
まずはベッドとテレビ。そして大型家具。そのあとに段ボール数箱。
慣れた様子で指示を出す攷斗と、それに応える桐谷、外間は、本職の引っ越し業者のようなスムーズさで作業を進める。
荷物を全て運び入れたところで、今度は敷いていたビニールシートと壁に貼られたプラダン板を外して、桐谷と外間に渡す。
「使った段ボールどうします?」
「できれば回収してほしいけど~」
まだ開梱していないが、箱数はそんなに多くない。
「あ、じゃあ一旦これ車に持っていくんで、もっかい来ていいですか? 終わったときにご連絡いただくんでもいいですけど」
桐谷の提案に攷斗がパッと笑顔になる。
「それ助かる。ひなはそれで大丈夫?」
「うん、大丈夫。すみません、お手数おかけして」
「全然ぜんぜん」
提案者の桐谷が顔の前で手を左右に振った。
「じゃあ、とりあえず中身全部出すか」
「うん」
「またしばらくあとにピンポン鳴らしますね」
「うん。焦らなくていいからね」
「「はーい」」
外間と桐谷が揃って返答して、資材を運び出した。
ひぃなの部屋に二人で移動し、段ボールを開けて中身を出していく。ある程度空きが出来たところで、攷斗が箱を畳み始めた。
「相変わらず手際いいね」
「そりゃいまでも現役ですから」
「そっか」
経営者になったいまでも、現場の仕事を手掛けているようだ。
「こういう作業も好きだしね」
言いながら、全ての段ボール箱を畳み終え、束ねて簡単に紐で括る。玄関近くへ運んだところでチャイムが鳴った。
「ナイスタイミング」
言って、ドアを開ける。
「ごめん、お待たせ」
攷斗が車を降りて二人へ歩み寄る。
「いえいえ全然」
外間が笑顔で返答する脇で、桐谷が台車に大型の荷物を載せていく。
あとに続くひぃなに、
「先に家にいてくれる? 階数とか覚えてる?」
攷斗が問いかけた。
「うん、大丈夫だよ」
攷斗から差し出された一本の鍵をひぃなが両手で受け取る。
「家の中にいてくれるなら、鍵閉めなくていいから」
「うん、わかった」
よろしくお願いします、と三人に挨拶をして、先に部屋へ向かう。
至れり尽くせりだなー、なんて思う。
六年前は堀河が軽トラックを出して荷物の運搬を手伝ってくれたので、それはそれで楽だった。それ以外のことは正直あまり覚えていない。忘れたいという意識もそんなになかったが、思い出す必要ももうないのだしそれでいい。人間の脳は良く出来ているなと思う。
渡された鍵を使ってドアを開け、室内に入る。
リビングへ続く廊下にはブルーシートが敷かれ、壁には養生用のプラダンが貼られている。
たまに手伝う荷物搬入の光景を思い出す。そういえば攷斗はこういう作業も人一倍手際よく、上手にやっていた。
リビングの一部、ひぃなの部屋に続く経路にもビニールシートが敷かれている。部屋の中まで、靴を脱がずに荷物を運び入れられるようにしているのだろう。
持っていたサブバッグから花瓶を取り出して、リビングのテーブルの上に置く。バッグはソファの横に一時置きした。
ほどなくして玄関ドアが開く音がする。出迎えるひぃなに気付き
「おぉ。荷物運びは俺らでやるから、ひなは配置の指示出ししてくれる?」
攷斗がドアストッパーを下げて言った。
「うん、ありがとう。ベッドとテレビは置いて欲しいけど、ラックは組み立てなきゃだし、運び入れるだけで大丈夫だよ」
「そっか。じゃあそうするか」
「うん」
「桐谷~、外間~」
二人に呼びかけ廊下へ出て行った。
まずはベッドとテレビ。そして大型家具。そのあとに段ボール数箱。
慣れた様子で指示を出す攷斗と、それに応える桐谷、外間は、本職の引っ越し業者のようなスムーズさで作業を進める。
荷物を全て運び入れたところで、今度は敷いていたビニールシートと壁に貼られたプラダン板を外して、桐谷と外間に渡す。
「使った段ボールどうします?」
「できれば回収してほしいけど~」
まだ開梱していないが、箱数はそんなに多くない。
「あ、じゃあ一旦これ車に持っていくんで、もっかい来ていいですか? 終わったときにご連絡いただくんでもいいですけど」
桐谷の提案に攷斗がパッと笑顔になる。
「それ助かる。ひなはそれで大丈夫?」
「うん、大丈夫。すみません、お手数おかけして」
「全然ぜんぜん」
提案者の桐谷が顔の前で手を左右に振った。
「じゃあ、とりあえず中身全部出すか」
「うん」
「またしばらくあとにピンポン鳴らしますね」
「うん。焦らなくていいからね」
「「はーい」」
外間と桐谷が揃って返答して、資材を運び出した。
ひぃなの部屋に二人で移動し、段ボールを開けて中身を出していく。ある程度空きが出来たところで、攷斗が箱を畳み始めた。
「相変わらず手際いいね」
「そりゃいまでも現役ですから」
「そっか」
経営者になったいまでも、現場の仕事を手掛けているようだ。
「こういう作業も好きだしね」
言いながら、全ての段ボール箱を畳み終え、束ねて簡単に紐で括る。玄関近くへ運んだところでチャイムが鳴った。
「ナイスタイミング」
言って、ドアを開ける。
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