偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

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Chapter.28

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 約束の日、荷造りの準備を進めているとインターフォンが鳴った。
「はーい」
 オートロックの玄関を開ける。続いて玄関ドア。
「おはよう」
「おはよう」
 朝の挨拶をして、両手に段ボールの束を抱えた攷斗を招き入れる。玄関と部屋の境目に掛けられていたのれんはもう撤去されている。
「下に後輩二人待たせてるから、運び出しとかはやってもらえるよ」
「わぁ、ありがとう。速めに荷造り終わらせないとだね」
「んー、まぁ、仕事で待つの慣れてるやつらだし、そんなに焦らなくていいよ」
 服や日用雑貨などがカテゴリ別にある程度仕分けされた状態でラックの棚に置かれ、あとは箱に詰めれば荷造りが完了するようになっていた。
「お、さすが。仕事早いね」
「こういうの好きなんだよね」
 書類をさばいてまとめるのも好きだから事務職に就いた。
「じゃあ、箱組み立てるから詰めてって。ある程度箱作ったら手伝う」
「うん、了解」
 部屋の中心部に空けたスペースで、攷斗が手際よく段ボール箱を組み立てていく。
 ひぃなはそれを受け取って、あらかじめ分けてあった物を詰めていく。
「そういえば」と攷斗が口を開いた。「冷蔵庫とか洗濯機とか、どうしたの? リサイクル?」部屋を見まわして聞く。
 以前、攷斗が訪れた時、それらがあった場所はもう空いている。
「実家のがいい加減古いんじゃないかと思って、聞いたら欲しいって言ったから送っちゃった」
「あ、そうなの? 挨拶がてら運んだのに」
「おかしいでしょ、挨拶と一緒に家電運ぶって」
「そうだけど、一度くらいは会っておきたいじゃん」
「それはこっちだってそうだけどー……」
「会う気ある?」
「いいなら行くけど、なんて説明したらいいかわかんない……」
 ひぃなの回答に、攷斗が少し複雑そうな顔を見せた。
「嫁……でしょ?」
「……うん……」
 複雑なのは攷斗だけじゃない。
 一応、攷斗もひぃなも親に入籍したという報告はしている。双方の親も淡白な性格が故、驚きこそしたが連れてこいという催促をされなかった。もう少し希望してくれれば紹介する口実が出来るのに――と二人は思ったが、それを親に強いるのはおかしな話だ。
「機会があったら、ぜひ」
 なんとなく業務的な言葉選びになってしまった。
 うまい言葉が見つからず、しばらく黙々と作業する。
(しまったなー……)
 お互いが同時に思う。
 やはり婚姻届を出すときにちゃんと気持ちも付いて来ているのかを確認すれば良かったのだ。
 けれど、せっかく前進した二人の関係を、言葉で確認することで壊してしまいそうで怖かった。
 だから、相手の行動に甘えて言葉での確認を怠った。

 沈黙の部屋に、外からの音が流れ込む。
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