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Chapter.15
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「うん、そのほうが嬉しい」
「じゃあ今週末おいでよ。土曜日休みでしょ?」
「うん」
「したら土曜日迎えに行くわ。ひなんちの物量も見ときたい」
「うん、わかった。お願いします」
「二人ともー。話割って悪いんだけど、もうすぐ着くけど停車するのどの辺がいい~?」
運転席から質問が飛んでくる。
「あ、えっと」
と、ひぃなが自宅近くの大通り沿いに面した丁字路を示すと、指定の場所に堀河が停車させた。シートベルトを外すひぃなに、
「家の前まで送るよ」
攷斗が申し出る。
「近いしいいよ」
「いーから、ほら」
肩をポンと叩いて降車を促され、ひぃながその提案を受け入れた。
「今日は色々ありがとね」
ひぃなが堀河に礼を言う。
「うん。また明日、会社で」
「うん。帰り気を付けてね」
「ありがとう」
手を振りあって降車する。後ろから着いてくる攷斗を振り返り
「ほんとすぐそこだよ?」
家の方角を指さした。
「うん」
攷斗はひぃなの隣に並んで、ゆるゆると歩く。100メートルほど小道を歩くと、マンション前にたどり着いた。
「ここの3階」
「トラックはここの目の前じゃキツイかな」
「うーん。まぁまぁ狭いからねー」
停車出来なくはないが、トラックに阻まれ、人が通るスペースがなくなってしまいそうな道幅ではある。
「じゃあ台車持ってくるか」
周囲の道路事情を確認し、顎をさすりながら何か算段しているようだ。
「ん、オッケー。じゃあ一旦明後日来るね。一応あとで住所メッセしといて」
「うん」
「13時くらいね。来る前に連絡する」
「うん」
それまで笑顔で応対していたひぃなが、ふと表情を失った。その次の瞬間には、微苦笑を浮かべる。
「なんか……色々ありがとう」
「ん? うん。まぁ、まだ始まったばっかだよ」
「…うん、そうだね」
マリッジブルーなのか、突然始まる新生活に対応しきれていないのか、漠然とした不安を抱いているようだ。
その切なげな表情に、攷斗の胸が締め付けられる。
(やっぱり、急すぎたかな)
いますぐ抱き締めて耳元で大丈夫だよとささやきたい気持ちに駆られる。
(ま、できないけどね……)
行き場のない手で自分の後頭部を撫でつけ気持ちを静める。気弱になっているひぃなを独りにしたくはないが、このままとどまるわけにも家に上がり込むわけにもいかないので、仕方なく口を開く。
「…社長待ってるだろうし、行くね」
「うん」
「なにかあったらすぐ電話ちょうだい」
「うん、ありがとう」
「…またね。おやすみ」
「おやすみなさい」
言って、ひぃながエントランスでオートロックを開錠し建物内に入る。
姿が見えなくなるまで見送ってから、攷斗は堀河の待つ車へ戻った。
「じゃあ今週末おいでよ。土曜日休みでしょ?」
「うん」
「したら土曜日迎えに行くわ。ひなんちの物量も見ときたい」
「うん、わかった。お願いします」
「二人ともー。話割って悪いんだけど、もうすぐ着くけど停車するのどの辺がいい~?」
運転席から質問が飛んでくる。
「あ、えっと」
と、ひぃなが自宅近くの大通り沿いに面した丁字路を示すと、指定の場所に堀河が停車させた。シートベルトを外すひぃなに、
「家の前まで送るよ」
攷斗が申し出る。
「近いしいいよ」
「いーから、ほら」
肩をポンと叩いて降車を促され、ひぃながその提案を受け入れた。
「今日は色々ありがとね」
ひぃなが堀河に礼を言う。
「うん。また明日、会社で」
「うん。帰り気を付けてね」
「ありがとう」
手を振りあって降車する。後ろから着いてくる攷斗を振り返り
「ほんとすぐそこだよ?」
家の方角を指さした。
「うん」
攷斗はひぃなの隣に並んで、ゆるゆると歩く。100メートルほど小道を歩くと、マンション前にたどり着いた。
「ここの3階」
「トラックはここの目の前じゃキツイかな」
「うーん。まぁまぁ狭いからねー」
停車出来なくはないが、トラックに阻まれ、人が通るスペースがなくなってしまいそうな道幅ではある。
「じゃあ台車持ってくるか」
周囲の道路事情を確認し、顎をさすりながら何か算段しているようだ。
「ん、オッケー。じゃあ一旦明後日来るね。一応あとで住所メッセしといて」
「うん」
「13時くらいね。来る前に連絡する」
「うん」
それまで笑顔で応対していたひぃなが、ふと表情を失った。その次の瞬間には、微苦笑を浮かべる。
「なんか……色々ありがとう」
「ん? うん。まぁ、まだ始まったばっかだよ」
「…うん、そうだね」
マリッジブルーなのか、突然始まる新生活に対応しきれていないのか、漠然とした不安を抱いているようだ。
その切なげな表情に、攷斗の胸が締め付けられる。
(やっぱり、急すぎたかな)
いますぐ抱き締めて耳元で大丈夫だよとささやきたい気持ちに駆られる。
(ま、できないけどね……)
行き場のない手で自分の後頭部を撫でつけ気持ちを静める。気弱になっているひぃなを独りにしたくはないが、このままとどまるわけにも家に上がり込むわけにもいかないので、仕方なく口を開く。
「…社長待ってるだろうし、行くね」
「うん」
「なにかあったらすぐ電話ちょうだい」
「うん、ありがとう」
「…またね。おやすみ」
「おやすみなさい」
言って、ひぃながエントランスでオートロックを開錠し建物内に入る。
姿が見えなくなるまで見送ってから、攷斗は堀河の待つ車へ戻った。
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