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Chapter.14

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「この時間なら道も空いてるし、そんなに時間かからないと思うわ~」
 堀河の言葉通り、信号に停められることもあまりなく、二十分ほど走ったところで目的地に到着した。
「はいどうぞー」
 出張所の一角にある駐車スペースに車を停めて、堀河が後部座席に声をかけた。
「ありがとう」
「じゃあ……行ってきます」
 少し緊張した面持ちで攷斗が言って、ひぃなと一緒に下車した。
 いままでと変わらぬ距離を保ちながら、二人が出張所の出入り口から建物内に消えていく。
「どんな必殺技使ったんだかねぇ」
 ハンドルにもたれかかり、攷斗とひぃなの背中を眺めながら堀河がぽつりとつぶやいた。


 車内にBGMが数曲流れた頃、攷斗とひぃなが出張所内から姿を現す。
「お帰りー」
 車内に戻って来た二人に堀河が声をかけると、
「ただいま」
 後部座席に乗り込んだひぃなが返事した。
「どうだった?」
「うん、大丈夫だった」
「そう、良かった。おめでとう」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「お祝いは改めてするとして、もう遅いし家まで送って行くわね」
「助かります」
「ありがとう」
「どこに送っていけばいい?」
「いままで住んでた家で大丈夫です」
 堀河のカーナビには、攷斗とひぃな、それぞれの自宅住所が登録されている。仕事の帰りに自宅近くまで送って行くことがあるからだ。
「じゃあ、ここからだとひぃなんちのが近いのかしら」
 地理に疎いひぃなが首を傾げたので。
「そうですね。ひなんち先でお願いします」
 攷斗が代わりに回答する。
「はーい」
 目的地を設定して、堀河が車を発車させた。
「……後悔、してる?」
 心持ち小さな声で、攷斗が隣に座るひぃなに問うた。
「ううん? してないよ? 嫌だったら書いてないから」
「そう。良かった」
 とはいえ、気持ちの整理は微妙についていない。
 両想いになったから、ではないので、物理的にも心理的にも、距離感がつかめずにいる。
「そうだ。二人で住む家なんだけどさ」
 当たり前であろう提案に、思わずドキリとする。そもそもひぃなが家の契約更新をしなければならないが保証人が云々、という理由が発端だ。一緒に住まなければ、婚姻届を出した意味がなくなる。
「新しく探すんじゃなくて、いまの俺の家でいいかな」
「それは…かまわないけど」
「良かった。実はうち……契約、したばっかりで」
「えっ、そうなんだ」
「うん」
「なんか……ごめん」
「なんで」
「だって、私の都合押し付けたでしょ……」
「ちがうちがう。俺はいま更新の必要がないってだけ。ゆくゆくは、ひなが言うようにパートナーが必要になるし」
「…そう…?」
「うん。必要。とても必要。あと、誤解しないでほしいんだけど」
「うん?」
「…誰でも、良かったわけじゃないから」
 運転席には聞こえないように、ひぃなの瞳をまっすぐに見つめて攷斗が言った。
 ひぃなは一瞬きょとんとして、
「……うん……」
 意味を汲んで、うなずいた。
(私だって、誰でも良かったわけじゃないけど……)
 心の中にうずまく少しのモヤが、ひぃなを素直にさせてくれない。
「準備期間短くて大変だと思うけど、手続きとか手伝えることあったら言って。協力するから」
「うん。ありがとう」
 心配しすぎなくらいの気遣いが嬉しい。
「引っ越すとき、家具とか処分したほうがいいかな?」
「んー……いまの家って広さどのくらい?」
「ワンルームで居住空間は十帖」
「あー、じゃあたぶん大丈夫…かな。ひな用に八帖の部屋空けとく」
「助かります」
「そのー……」攷斗が少し言いよどみ「心配、しないでいいから」ぽつりと伝える。
 あえて言わなかったであろう“心配”の元。それはきっと、貞操に関することだろう。
 特に気にしていなかったが、口に出して伝えるということは自分のことを女性として見ているということか。なんて、かえって意識してしまう。
「あ、でも。冷蔵庫とか洗濯機とかの大型家電はうちにもあるから、共用が嫌じゃないならリサイクルしてもらったほうがいいかも」
「なるほど」
 いまいちイメージが掴めていないのか、ひぃなは考え込んでしまう。
 攷斗も一緒になって考えてから、口を開いた。
「今度うち来る? 広さとか使い勝手とか、一回見てもらったほうがわかりやすいかも」
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