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Chapter.13

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「このあたりなら俺も休めるから手伝えるんだけど」
 机上にあった卓上カレンダーの、土日の定休日も含めた9日間分を示す。
「いいわよー、あとで本人から申請してね。別にいまメールくれてもいいけど」
 本来は前月までに申し出るのが原則だが、突発的な事情による直前の取得でも対応可能だ。あとから行き違いがないように、必ず文面で残す決まりがある。
 だが、いまは十二月初旬。その予定で休暇を取得すると、年内は一週間とちょっとしか勤務の日がなくなってしまう。
「年末にごめん」
「だーいじょうぶよぅ。あんたが育てた後輩たちがフォローしてくれるって。たまにはまとまった休み取ってよ。有給取らせないとおかみがうるさいんだから」
「オカミ? 旅館とかのですか?」
 堀河の言葉に湖池が首を傾げた。
「そっちじゃなくて、お役所のこと。えっ? いまってそういう表現しない?」
「私シャチョーと同い年だからわかんない」
「言いますよ。そいつバカなんで気にしないでください」
「ちょっとぉ」
 棚井にイジられて、湖池は嬉しそうだ。
「……あの…協力してもらってなんなんだけど…」
 ひぃながおずおずと切り出す。
「うん?」
「そのー…今回の、結婚のこと…」
「うん」相槌を打つ堀河を上目遣いに見て
「みんなには、内緒にしててほしいんだよね……」
 ひぃなが提案した。
 堀河と湖池はキョトンとして顔を見合わせる。
「私たちは別にそれでかまわないけど……」
「はい…」
 堀河と湖池は承諾しつつも攷斗の様子を窺う。
「…なに…」
 その視線を受けて、持っていたホルダー付きの紙コップを置いた。
「あの……!」ひぃなが慌てて付け足し「落ち着くまでで、いいんだけど…」ひぃなも攷斗を窺うような視線を投げた。
「…俺はもう、ここの人間じゃないんで、社内でのことに口出しする権利ないですよ」
「じゃあ、まぁ…」
 湖池が同意して、堀河を見やる。堀河は肯定も否定もせずに、コーヒーを飲んでいる。
「ごめん……」
 申し訳なさそうにシュンとするひぃなに、
「いいよ、色々面倒なこともあるだろうし」
 攷斗が優しく声をかける。
 その光景を見ていた堀河が、おもむろに口を開いた。
「これから24時間やってる出張所行くのよね? 早いほうがいいだろうし、今日クルマだから送って行こうか?」
「マジですか。助かります」
 コーヒーを飲み終わり「さっ」と自分の腿を叩き「行くか、出張所」堀河が立ち上がった。
「録画する?」スマホを取り出す湖池の手を
「しないでいいよ」攷斗が押しとどめた。
「湖池はここ閉めて、電車で帰りなさいよ」
「えー、オレも行きたいですよー」
「行ってどーすんの。私だって帰るついでに送って行くだけよ?」
「提出立ち会わないんすか?」
「うん。だってオジャマなだけじゃない。ほらほら、準備してー」
 鳥を追い立てるように両手で三人を急き立てると、自分もコートを着てバッグを片手に帰宅の準備をした。
 堀河を先頭にして、攷斗とひぃなが敷地内の駐車場に移動する。
 あとから着いてきた湖池が、
「今度あらためてお祝いしようね」
 攷斗に声をかけた。
「うん。ありがとう。急に悪かったな」
「ぜーんぜん。定時で帰っちゃわなくてよかったっすね社長」
「そうねぇ。そういうことにしとくかぁ」
 そういえば昼間電話の取次ぎしたなぁ、とひぃなが思い出す。
 湖池の引継ぎミスが原因で発生した業務に思いのほか時間がかかり残業になっていたらしい。
 一足先に車に乗り込んだ堀河がカーナビを操作して、
「ここでいいのよね?」
 車内に入った攷斗とひぃなに問いかける。カーナビには攷斗とひぃなの出身地区にある出張所の名称が表示されている。
 攷斗がスマホの検索結果と見比べて「はい」返答した。
「じゃあ、また」
 車内を覗き込んでいた湖池に、攷斗が声をかける。
「うん、また今度」
「私たちはまた明日ね」
 湖池に手を振ってから発車させる堀河に
「お疲れ様っす! お気を付けて!」
 駐車場に残った湖池が挨拶をして、大きく両手を振り目的地に向かう車を見送った。
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