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Chapter.9
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攷斗の隣に戻って、住民票を傍らに置き婚姻届と対峙した。
「じゃあ……書きますか……」
これから戦場に赴く兵士のような面持ちのひぃなに気付き、
「失敗したらまたコンビニ行ってくるから、緊張しなくていいよ」
攷斗が笑って、気分をほぐそうと声をかける。
「うん……」
しかし、この緊張は書き損じを憂うためのものではない。が、あえて訂正はしない。
(…よし…)
決意も新たに、婚姻届の【妻】欄を埋めていく。
氏名、生年月日、現住所、本籍、職業と届出人。
自分だけでは決められない項目は空欄のままにしておく。
ひぃなが自分の欄を全て埋めたと同時に、堀河が湖池を連れて戻ってきた。
「なになに? いつから付き合ってたの? どういうなれそめ? 全然知らなかったんだけどー!」
堀河に負けず劣らぬテンションの湖池が、矢継ぎ早に問いかける。
「なんなのお前のそのテンション」
眉間にしわを寄せてうるさそうに攷斗が言った。
「えー?! だってめでたいじゃん! 棚井ずっと時森チーフのこと」
「そういうのいいから!」
湖池に負けぬ大声で言葉の続きをかき消した攷斗を、ひぃなと堀河が目を丸くして見やる。そういう一面をあまり見たことがなくてビックリしたが、湖池は「えー、冷たいなー」などとぼやきながら普通にしているので、男友達と接するときはそういう態度も珍しくないようだ。
「座って、書いてよ。はい」
ひぃなが書き終えた書類を、攷斗が半回転させて向かい側の席へ向けた。
「せっかちねぇ。そんなんじゃモテないわよ? あ、いいのか。もうモテなくて!」
ねー! と、社長と湖池が満面の笑みを見合わせて笑う。
「なんなの? ふたりとも酒入ってんの?」
「呑んでないわよぅ。嬉しくてテンションあがっちゃってんのよぅ」
実際にアルコールの入っている攷斗とひぃなのほうが冷静だ。
「ハンコいるのよね? どれがいい? どれでもいい?」
ザララ、と数本の判子を机上に広げた。
「ゴム印じゃない認め印でいいです。実印はさすがにちょっと……」
ひときわゴツイ判子入れに目を止め、攷斗が言いよどむ。
「あらそーお? せっかくの幼馴染の祝い事だから本気見せなきゃって思ってたんだけど」
「えっ重い」
さすがのひぃなも退いている。
「じゃあ普通のでいっか」
特に気にすることもなく、広げた判子を机の脇に寄せて【妻】の欄が埋まった婚姻届に手を伸ばす。
「ひぃなの保証人になれるなんてねぇ……」
堀河がしみじみ言いながら、ボールペンをノックした。
「なってもらったことはあるのにねぇ……」
結婚するとき、ひぃながその保証人を二度とも務めたことを言っているようだ。
「じゃあ……書きますか……」
これから戦場に赴く兵士のような面持ちのひぃなに気付き、
「失敗したらまたコンビニ行ってくるから、緊張しなくていいよ」
攷斗が笑って、気分をほぐそうと声をかける。
「うん……」
しかし、この緊張は書き損じを憂うためのものではない。が、あえて訂正はしない。
(…よし…)
決意も新たに、婚姻届の【妻】欄を埋めていく。
氏名、生年月日、現住所、本籍、職業と届出人。
自分だけでは決められない項目は空欄のままにしておく。
ひぃなが自分の欄を全て埋めたと同時に、堀河が湖池を連れて戻ってきた。
「なになに? いつから付き合ってたの? どういうなれそめ? 全然知らなかったんだけどー!」
堀河に負けず劣らぬテンションの湖池が、矢継ぎ早に問いかける。
「なんなのお前のそのテンション」
眉間にしわを寄せてうるさそうに攷斗が言った。
「えー?! だってめでたいじゃん! 棚井ずっと時森チーフのこと」
「そういうのいいから!」
湖池に負けぬ大声で言葉の続きをかき消した攷斗を、ひぃなと堀河が目を丸くして見やる。そういう一面をあまり見たことがなくてビックリしたが、湖池は「えー、冷たいなー」などとぼやきながら普通にしているので、男友達と接するときはそういう態度も珍しくないようだ。
「座って、書いてよ。はい」
ひぃなが書き終えた書類を、攷斗が半回転させて向かい側の席へ向けた。
「せっかちねぇ。そんなんじゃモテないわよ? あ、いいのか。もうモテなくて!」
ねー! と、社長と湖池が満面の笑みを見合わせて笑う。
「なんなの? ふたりとも酒入ってんの?」
「呑んでないわよぅ。嬉しくてテンションあがっちゃってんのよぅ」
実際にアルコールの入っている攷斗とひぃなのほうが冷静だ。
「ハンコいるのよね? どれがいい? どれでもいい?」
ザララ、と数本の判子を机上に広げた。
「ゴム印じゃない認め印でいいです。実印はさすがにちょっと……」
ひときわゴツイ判子入れに目を止め、攷斗が言いよどむ。
「あらそーお? せっかくの幼馴染の祝い事だから本気見せなきゃって思ってたんだけど」
「えっ重い」
さすがのひぃなも退いている。
「じゃあ普通のでいっか」
特に気にすることもなく、広げた判子を机の脇に寄せて【妻】の欄が埋まった婚姻届に手を伸ばす。
「ひぃなの保証人になれるなんてねぇ……」
堀河がしみじみ言いながら、ボールペンをノックした。
「なってもらったことはあるのにねぇ……」
結婚するとき、ひぃながその保証人を二度とも務めたことを言っているようだ。
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