【完結済み】異世界でもモテるって、僕すごいかも。

mamaマリナ

文字の大きさ
上 下
85 / 136

誘惑はつらいぞ

しおりを挟む
 
 
 (やっぱり戻れてないか・・)
 
 睡眠不足だったおかげで、昨夜はしっかり寝つけた冬乃は、朝起き出して変わらぬ見慣れた自室の天井の下、目覚めてすぐに意識に甦る不安や恐怖に、一瞬きつく目を瞑った。
 
 朝起きたら幕末へ戻れていたら、と夜寝る前に少しばかり期待してみたのだが。駄目だったようだ。
 
 
 (ほんとに、どうしたら、戻れるの)
 
 失意のうちに学校へ行き、教室に向かいながら。ここでは只の週明けなのに、あまりに久しぶりな感覚と最早生じている違和感に、半ば苦笑してしまう。
 
 
 授業が始まっても当然上の空で。暑い熱気に陽炎のようなものが見える窓の外を眺めながら、
 今頃、沖田達のいる京都は寒くてたまらないのだろうかと、ぼんやりと考えた。
 
 
 (・・・あ、でも)
 
 平成での時間の流れと、向こうでの流れは、激しく差があったではないか。
 
 (こっちで、もう一日半くらい・・?)
 幕末では、どのくらい経ったのだろう。
 
 
 (もう逢えないなんてこと・・・ないよね・・)
 
 既に幾度となく、胸に急襲するその恐怖に。冬乃は、慌ててまた思考を閉ざした。
 
 
 昼休みのチャイムとともに、冬乃たちは立ち上がる。

 「今日はお弁当あるから」
 のみものだけ。と千秋が、財布を手にパンを買いに外へ出る冬乃と真弓についてくる。
 
 
 「沖田さんに、逢いたいよね・・」
 
 昼時で近隣の会社員たちで溢れる交差点を渡りながら、真弓が冬乃の心を代弁するように呟いた。
 
 「・・うん」
 素直に、冬乃は頷く。
 
 「きっとまた逢えるよ!」
 励ましてくれる千秋に微笑み返して冬乃は、千秋の向こうの、ビルの合間に差し込む陽光に目を細めた。
 
 (本当に、また、行って戻ってきて・・そうやって繰り返せたらいい)
 
 だけど、
 いつまで
 
 幕末での時間の進みは、平成での進みに比べて異常に早かった。
 だからたとえ、行き来が叶ったとしても、
 
 (それですら、)
 
 いつかは先に、
 幕末での、沖田達の時間は途絶えてしまう。
 
 (苦しいことにはかわりない)
 また早く幕末へと戻れなければ、沖田達の時間の終焉に、間に合わなくなると。
 行き来を繰り返せたとしても、繰り返せば繰り返すほどに、いつかそんな焦燥に苛まれることになるだろう。

 
 
 「・・・あれって」
 不意に上がった真弓の声に、冬乃の彷徨っていた思考は戻された。
 
 「あ、白衣のイケメン!」
 瞬時に反応した千秋の視線の先。例の医大生が、歩いてこちらのほうへ向かってくるのが見えた。
 
 (そういえば、この近くの大学だったっけ)
 
 
 脳裏に思い出した、そのとき。
 冬乃の目の前は、渇望していたあの霧に再び覆われ。真っ白になった。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 ・・・さん、
 
 ・・冬乃さん
 
 
 (ああ・・・)
 
 
 沖田様
 
 
 
 (ただいま)
 
 
 
 
 
 「冬乃さん」
 
 はっきりと、聞こえた愛しい声に。
 冬乃は、うっとりと目を開ける。
 
 
 苦笑したような表情を浮かべた沖田が、見下ろしていた。
 「それが未来での服装?」
 
 刹那に落ちてきた問いに、冬乃ははっと体を見やる。
 
 (あ・・・)
 そうだった。
 
 今回は、制服を着ていたのだった。
 手には財布。
 
 (ん?)
 
 手に握り込んでいる財布に。冬乃は目をやった。
 
 (・・え?)
 
 「未来では、すごい恰好してるんだね」
 財布の存在に瞠目している冬乃の上では、見下ろす沖田の苦笑が止まない。
 
 冬乃はおもわず頬を紅潮させて沖田を見上げる。太腿と二の腕まるだしなのだ。この時代ではありえない恰好なのは、当然承知している。
 もはや冬乃まで苦笑してしまいながら起き上がって見回すと、土方もいた。
 
 「す、」
 副長部屋だ。土方の眉間の皺から察しなくとも、あいかわらず土方の文机が着地地点だった様子。
 
 「すみません・・またお邪魔してます・・・」
 
 (ていうか、なんか暑・・!?)
 
 
 手にしている財布を太腿に置きながら、冬乃は障子の外を見やった。
 先程学校の窓からみえたものと同じ陽炎が、庭先を揺らめいている。
 
 (夏・・・・?!)
 
 
 「今回は長かったね。もう帰ってこないかと思った」
 微笑っている沖田へ、冬乃は呆然と視線を戻した。
 
 「い、ま・って・・何年何月、・・何日ですか」
 
 どこか恒例となっているその質問を渡して。
 冬乃は、くらくらと眩暈を感じながら、沖田の答えを待つ。
 
 
 「元治元年、六月一日」
 
 
 
 「・・・・」
 
 
 声を。取り戻すのに、冬乃は暫しの時を要した。
 
 
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...