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第四章〜六大魔王復活〜

第55話 〜ブエル vs エングとグラン〜

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 時間を少しさかのぼり、エメルとシルフが魔王アガリアレプトの配下グソインとの戦いを始めた頃、エングとグランも、同じく配下のブエルと対峙していた。

 悪魔ブエルは、ライオンようなの顔をもち、身体はなく、その代わりその顔からは五つの手が生え、円盤のように宙に浮いている悪魔だった。

「グランじいさん、大丈夫か!」

「むぅ、すまんな……あのクルクルと回っとる奴、弱そうな見た目に反して、中々素早くてのぅ、わしの魔法がうまく当たらん。」

「ほう……人族の魔法使いの次は、獣人族の戦士か?ん、お前はアガリアレプト様の方に殺されに行ったのではなかったか?まぁ逃げても仕方あるまい。魔王様は別格だからな」

「グランじいさん、出来るだけ広範囲の魔法で牽制出来るか?奴が避けるなら、その動きに合わせて攻撃を仕掛ける。」

「まぁ、そうしかなかろう。それじゃぁ行くぞい!極雷魔法 《万雷》」

 グランは出来るだけ広範囲に魔法を展開する。目の前の視界を覆うほどの落雷の数だったが、ブエルはその無数の落雷全てを避け切っていた。だが、どうしてもその動きは限定され、エングはブエルの回避方向を見て、先回りをし、攻撃を仕掛ける。

「《無双流 一ノ太刀 双狼牙》」

「おっと、舐めてもらっては困る。私のスピードは、こんなものではない!《火怨輪》」

 ブエルは炎を纏いながらさらにスピードを加速させ、エングの先を行く。

「なんてスピードだ!?」

 エングは攻撃を放ち切る前に目の前を通る抜けるように避けられ、さらにブエルの炎でエングはダメージを喰らっていた。

「ぬぅ、さすがにそう簡単には行かぬか……」

「大丈夫かエング?」

「あぁ、ダメージ自体はそこまでではない」

 だが、エングの言葉とは裏腹にエングの美しい白銀の毛並みは所々焼け焦げていた。グランもまた無傷だったものの、スタンピードから始まる連戦に魔力もかなり消費していた。魔力自体は回復薬で回復できても、魔法を使うことでの精神的な疲労は体力と同じく、休まないと回復しない。疲労した状態で魔法をしようとしても、精度や威力はかなり下がってしまう。

「……あまり時間をかけるとこちらが不利じゃのう」

「確かにあのスピードは厄介だ。グランじいさん!何か良い考えはあるか?」

「……そうじゃな、わしの神雷魔法で、当たらずともある程度、奴の動きを止めて見せるから、その時に合わせて奴を一撃で仕留められるか?」

「……わかった。なんとしても仕留めて見せる!」
    
「ほらほらどうした?もうおしまいか?私のスピードはさらに上がるぞ、《氷華輪》」

 ブエルは炎の代わりに、今度は氷の刃を纏い、さらにスピードが上がる。前衛であるエングは、ギリギリながらも刀で受けながし、ダメージを最小限に食い止めている。その間、グランは少し離れ、杖を地面に平行にして両端を持つと、可能な限りの集中と魔力を込め、魔法を構築していく。

「……行くぞ!神雷魔法 《雷霆万鈞》」

 グランの頭上に大きな黒い球体が出現する。その球体には凄まじい放電が吹き荒れ、周りの空間が歪むほどの熱量を持ち、さらに引力を帯びていく。グランの周りの小石や破片が球体に引き付けられては一瞬で塵となっていく。

「エングよ……準備が出来たぞい」

「よし!」

 グランはブエルの動きを見極め、エングに向かって叫ぶと同時にブエルに向けて大砲のように黒い球体を放つ。

「今じゃエング!」

 グランの声に反応し、エングは最大限のスピードでブエルから離れる。だが、ブエルもエングの動きと魔法の圧力に気付き、もうスピードで向かってきたグランの魔法を掠りながらも直撃を避けた。エングは、離れた直後から奥義の構えを取っていたが、魔法が当たらなかったことに動揺する。

「あのスピードを避けた!?」

 だが、グランは魔力切れなのか地面に座りながらも、焦らずニヤけながら呟く。

「いや……少しでも触れれば、直撃と一緒じゃのう」

 ブエルは焦りながらも避けたことに安心しつつ、無防備になっているグランに攻撃を仕掛けようとする。だが、避けたはずの黒い球体が壁に衝突したにも関わらず、四散せずに凄まじい放電を放ち始める。そして放電した雷がブエルに残っていた微かな雷と繋がり、ブエルを黒い球体へと引き込んでいく。

「な、なんだこれは……!?」

 ブエルは引き込まれまいと逃げようとするが、さらに四方八方に放電されていた雷が全てブエルの方に纏まり、凄まじい引力で引き寄せていく。最大限の力で逃げようとするブエルとグランの魔法が均衡し、膠着状態となる。

「なるほど、あぁなってはいくら早かろうと動けないな……さすが雷帝!《無双流 奥義 銀龍閃》」

 エングの神速の一閃が、身動きの取れないブエルを真一文字に真っ二つに切り裂く。さらに切り裂かれたブエルはそのままグランの魔法に引き寄せられ、魔法の収束と共に塵と化した。

「やれやれ、スタンピードからの連戦は、年寄りの腰に響くのう……」

「良し!!やったぞグラン!このまま回復薬で回復して、動けるようになったら、ヒイロの支援に向かうぞ」

「……そうじゃったなぁ……まだまだ休めんか……」

 小さなマジックバックから回復薬を取り出すエングに対し、グランはそのままヒイロの方へと視線を移す。その視線の先にはまだ戦闘が始まっていない様子だった。

 その頃ヒイロは、魔王アガリアレプトと対峙しながら、対話を試みようとしていた。見た目は綺麗な人族の女性の姿をしているが、明らかに黒く重い殺気と冷酷な目をしていた。そして、そのアガリアレプトの周りには、2匹の青白い液状の蛇がまとわりついている。

「俺はあんたで3人目の魔王と戦うことになる……なぁ、あんたは知っているのか?お前達、魔王は死んだら魔神の糧になることを……」

「ふっ、そうらしいわね……。私達の今までは、復活しては勇者に倒され、また輪廻に戻る、その繰り返し。何のためか理由も考えず、ただ繰り返してきたのも、この時のためだったのだろう。」

「この時のため?」

「あぁ世界の始まりより、さらに昔。光の眷族が神によって生まれた。だが理由は知らぬが、そのあと対なる闇の眷族が現れた。光と闇、善神と悪神、善神の使いが天使と呼ばれ、悪神と魔神、さらにその使いが魔王や悪魔と呼ばれた。悪神と魔神、そして我々悪魔は善神に戦いを挑み敗れたのだ。」

「善神……悪神……?光と闇……神同士の戦い……。」

「そうだ。そして戦いに勝った善神は、悪神によって汚されたこの世界を作り直した。天使以外には知能を持たない獣や虫、植物しかいなかった以前の世界とは違い、お前達、人族や獣人などの亜人族も生まれ、この世界に繁栄をもたらした。」

「……そうだったのか」
(俺が転生の時に会った神様達は善神?いや……それなら自分でこの世界を直せるはず……それに何か違和感がある……)

「そして、戦いに敗れた悪神や魔神、我ら悪魔は姿を消した。だが善神の誤算なのか、我ら悪神の残留思念なのか、知能を持つ人族や亜人族の中に、時々負の心が成長し、大きくなる者が出てきた。それが魔物や我々悪魔を生み出すエネルギーとなったのだ。そして溢れるほどの負のエネルギーが、定期的にまとまり、固まって我ら魔王を復活させた。ふっ……まるでその負のエネルギーを発散させるかのようにな……。更に都合良く、その都度必ず勇者が目覚め、世界の安寧を守ってきたのだ。」

「……確かに光と闇と同じように、人には良い心と、どうしても負の心も合わせ持ってしまう。そして時には負の心の方が勝ってしまうときがある……その結果、魔王を生み出されてきた……確かに……システム化され過ぎているようにも感じるの……」

「まぁもうすぐ、この繰り返しも限界まで来ているということだ。いつのまにか増えすぎたのだろう、知識ある生き物は栄えれば栄えるほど、闇も増える。」

「なぁあんたら魔王は、本当に魔神の糧として生まれるだけで良かったのか?」

「……仕方あるまい。我らにはどうすることも出来ない。どっちにしても魔王という存在は、最初から消える運命だったのだ。そして……生まれたからには他の魔王と同様、自分の定められた使命を果たすのみ。」

「そんな……お前たちみんな……それでいいのか……」

「さぁ!善神の使徒どもよ、今から我らと宿命の戦いを始めようぞ!」
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