異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第八章 迷宮に潜む者

ダンジョン攻略開始

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 賭博場に戻るとすでにテラとニーヤンが準備をはじめていた。
 
「遅いのにゃ、はやくダンジョンの情報がほしかったにゃ」
「少し手こずりまして」

 かつてのベテランたち3人はあれやこれや話して、アディは文句を垂れながら必要な物を買い込みに再び賭博場を飛び出していった。
 ニーヤンにこそっとたずねると、ちいさな声で答えてくれた。
 
「なんでまた父様を?」
「アディフランツは昔からクエストの準備と荷物持ちが担当だったにゃ」

 娘に聞かせられない経歴だな。
 エーラもアリスもアディが元ベテラン冒険者という情報しか知らないだろうし。

「エーラはちゃんと賭博場で待っていなきゃだめですよ」
「嫌だよ、私もアリスをたすけたい!」
「ダンジョンはモンスターがいてすごく危険なところなんです。だめですよ」
「子ども扱いしすぎ」

 エーラはぷいっと顔を背けて不機嫌になってしまった。
 なんということだ。またしてもお兄ちゃんポイントが減退しただと。

「子供の成長ははやいにゃ。この間まであんな感じじゃなかったにゃ。過酷な環境が変わることを強いたのかもしれないにゃあ」

 人は逆境のなかでこそ成長する……という訳か。
 
 ──しばらく後

 ダンジョンの入り口にて俺たちは集合していた。
 突入するメンバーは俺とキサラギ、テラ、ニーヤンの4人組だ。戦闘力重視である。

 エーラをひとりにしておくと勝手について来てしまいそうなので、アディを残してきた次第である。

「キサラギはダンジョンは初めてだと初心者アピールをします」
「アーカムたちはダンジョンははじめてにゃ?」
「はい。入った事すらないです」
「ならいくつか注意をしておくにゃ」

 ダンジョンの基本的な探索方法は、モンスターを倒すことと宝を見つけることらしい。
 ダンジョン産のモンスターは魔力によって生み出された存在らしく、倒すと少量の結晶を落とすらしい。死亡するとすぐに魔力の渦への帰還がはじまり、死蛍になって霧散してしまうのだとか。

「ダンジョン探索とダンジョン攻略は要領がちがうにゃ。基本的には探索になるにゃ。攻略はよほどのことがない限りは目指す必要はないにゃ」
「攻略ってことはダンジョンを制覇するってことですか」
「ダンジョンボスをを倒して秘宝を手に入れるということにゃ。難易度が高いから少人数で目指すのはほとんど不可能にゃ」

 ダンジョンの秘宝。興味はあるが今は関係ないな。

「トラップが仕掛けられていることがあるから気をつけるにゃ。我が警戒しておくけど見落としもあるかもしれないから、自分でも注意してほしいにゃ」

 ニーヤンからいくつかのレクチャーを受けて俺たちはダンジョン攻略を開始した。
 
「ダンジョンはたびたびその様相を変化させるにゃ。アリスがいるのはおそらく第15階層よりも下だと思うにゃ」
「どうして正確な階層を?」
「転移トラップの起動時間でどれくらいの深さまで飛んだか推測できるにゃ」
「正確に判断できるのはニーヤンくらい」

 テラはぼそっとつぶやく。
 アリスが転移トラップを踏んだ時の起動時間から、深い場所にいることだけはわかっているらしい。やるなこのにゃんにゃん。

「15階層への到達にはどれくらい掛かりますか」
「情報屋から買った地図には7階層までの地図があるからそこまでは階層を降りる階段へまっすぐ向かえばいいだけにゃ。そこからは完全手探りの普通の探索になるにゃ。我の経験から言えば……はやくても2日は掛かると思うにゃ」
「だいたい把握しました。あとモンスターっぽいのいますけど」

 ダンジョンを地図に沿って進んでいくと、白いぷにぷにした軟体が出現した。

「スライムにゃ。大したモンスターじゃないにゃ」

 ぷるぷる蠢いて地を這いゆっくり近づいて来る。
 風の弾丸を撃ちだし、貫通させ、ダンジョンの床に深い陥没と亀裂を走らせた。
 バゴンっという激しい音とともにスライムが爆発四散し息絶える。
 
「これでいいんですかね」
「や、やりすぎにゃ……1階層のモンスターはそんな強くないにゃ……」
「でも近づかれたらきっと厄介。手加減の必要はない」

 テラは言って大剣を手に取ると、大きく踏み込んで曲がり角のさきをぶったたいた。死蛍がホワァ~っと舞ったところを見るにスライムを処したのだろう。

「油断なくいこう」
「テラもやりすぎにゃあ……そんな全力でぶっ潰すのは可哀想にゃあ」
「キサラギの活躍の場が奪われてしまいました。次こそ必ず。キサラギはリベンジを心に決めます」

 思ったより余裕がある。 
 これくらいの敵ならサクサク進めそうだ。
 
 すこし進むと外の灯りが届かなくなってきた。
 ニーヤンはたいまつを灯して掲げる。
 テラは前衛なので常に両手は使えるように空けているようだ。
 視界が効かなくなれば魔術の命中精度に関わって来る。
 夜空の瞳があれば暗闇も見えるっちゃ見えるけど。

 火の魔力を収束させて、光源として宙にひとつ浮かしておくことにした。

「すごいにゃ。アーカムは本当になんでもできるにゃ」
「便利」

 ふたりは感心したように言った。

「人よりすこし出来ることが多いだけですよ」

 謙遜なく俺は事実を語った。

 ──しばらく後

 俺たちは2階層へと降りる階段にたどり着いていた。
 天然洞窟に形成された足場の悪い階段であった。段差ごとに高さに差があり降りずらい。足場に注意しながらウェイリアスの杖を常に油断なく構えて降りきった。

 ここが2階層。
 だいぶ暗くなった。 
 もう光は届かない。

 俺は火の玉の数をふたつに増やして、周囲に展開し、視界を十分に確保する。
 暗い洞窟のさき、別の光源が現れた。
 
「2階層のモンスター、ファイナスライムにゃ! 脅威度5だから気を引き締めるにゃ!」

 飛び出すキサラギ。
 ファイナスライムはブラックコフィンによって叩き潰され、出会って1秒で死蛍になって散った。
 2階層もまだまだ問題はなさそうだ。

「このパーティ、戦闘力高いにゃあ……」
「いいですね。このままガンガン進みましょう。……ん?」

 背後へふりかえる。何か物音がした気がする。
 
『追跡者がいるぞ』

 追跡者だと。

「誰だ。気づいてるぞ。出て来なければ効果範囲半径15mの攻撃魔術をぶちこむ」
「待て待て待て! 落ち着け、俺だ!」

 言って飛び出してきたのはアディであった。
 その後ろからエーラもひょこっと現れる。
 エーラがついて来ないためにアディを残したのだが……人選ミスだったか。

「エーラがどうしてもアリスを助けたいって言うから。アーク、俺たちだけ置いていくなんて人の心とかないのか。家族を心配する俺たちのことを考えてくれよ」

 言われてみればアディとエーラに留守番してろというのは酷な話だったか。

 俺たちは急遽パーティメンバーを6名に増やし、ダンジョンの深層を目指すことになった。
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