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第七章 魔法王国の動乱
エヴァの決断
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「話しずらいことがあったんですよね……大丈夫です、少し前から覚悟はしてます」
魔術王国でノーラン教授が言い残した言葉。
王城ウィザーズパレス玉座の間で絶滅指導者に投げかけられた言葉。
そしてエレナ・エースカロリの不吉な示唆。
俺のなかでの推理はある程度固まっている。
いやな予感はすでに形をもって、具体的な絶望を俺にたやすく想像させる。
怪物派遣公社は恐るべき情報収集能力でアーカム・アルドレアが絶滅指導者を倒した人間だと知った。絶滅指導者もそこまでは知っていたのだろう。俺を相手にして「こんなものか」と、どこか小手調べする風なことを漏らしていた。
あれは俺への警戒だったんだ。
絶滅指導者を討った人間がどれほどのものか、という。
やつらは俺が生きていることまでは知らなかったようだが、その家族のもとにはたどり着いた可能性が十分にある。圧倒的な実力差がある俺のことを絶滅指導者が警戒していたように、やつらは絶滅指導者を打倒した人間を生んだ血を恐れたんだ。
その結果として彼らがなにをしたのか、想像に難くない。
多分に勘による推測が入っているが、おおかたこんなところだろう。
「私たちね……ちょうど1年くらい前に吸血鬼に襲われちゃってね」
エヴァはちいさな声で、だけど気丈に振舞いながら語り始めた。
案の定、アルドレア家は襲撃されていた。
だが、どうにも銀髪オールバック丸メガネの狩人が吸血鬼を返り討ちにしてくれたらしく、その時、だれひとりとして殺されることはなかったのだと言う。
銀髪オールバック丸メガネ……アヴォン・グッドマンのことだ。
あいつ俺の家族を助けてくれてたのか? だったら言ってくれよ。
まったく不親切なのか、親切なのかわかりづらい奴だ。
「でも、もう家まで辿り着かれちゃってるから、次いつ吸血鬼がやってくるかわからないって話されたの。その時はちょうど戦争がはじまりそうで、緊張感が高まってたから、キンドロ領から逃げるための理由には事欠かなかったわ」
「キンドロ領から逃げる……アヴォンが提案を?」
「あの狩人のことを知ってるの?」
「え、あぁ、まあちょっと……。それでみんなはどこに?」
「狩人は私たちに偽の名前をつかって別の国で生きるように言って来たわ。でも、そんなの急に言われたって難しいでしょう? 戦争のことだってあったし、アルドレアには責務があるわ。大事な責務。貴族の責任が。その時が来れば皆を武力で守る。そのために普段から権威を与えられ、尊敬の眼差しを集めているのだもの。その時が来たら無責任にすべてを放り出していくことなんてできない、みんなを失望させたくなかった……それに、私はクルクマとあの家が好きだし」
エヴァとアディは話し合いを重ね、悩んだ末に決断した。
アディとエーラ、アリスの3人には逃げてもらい、エヴァはすべての責任を終わらせてから追いかけることにしたのだ。もっともアルドレアの責務すべてを終わらせることなどできるはずもない。
貴族とは生まれた瞬間から貴族なのだ。
それが終わるのは死ぬ時だけ。
エヴァは決断した。
永遠の別れになるであろう道を選んだ。
エヴァは二度と夫と娘たちに会えない代わりに、どこかで生きてもらうことを選んだのだ。それが最善だと信じたのだ。
「心のどこかでは、いつかはひょっこり、たまに顔を出してくれたりすると期待してるのよ。いつかほとぼりが冷めたら、どこかで大きくなった娘たちに会えるんじゃないかって……あの子たちが生きていればそれで構わないのよ。死んでしまったらおしまいだけど、生きてさえいればどんな可能性だってあり続ける、人生ってそういうものでしょう?」
エヴァは瞳を濡らしながらにそう言った。
魔術王国でノーラン教授が言い残した言葉。
王城ウィザーズパレス玉座の間で絶滅指導者に投げかけられた言葉。
そしてエレナ・エースカロリの不吉な示唆。
俺のなかでの推理はある程度固まっている。
いやな予感はすでに形をもって、具体的な絶望を俺にたやすく想像させる。
怪物派遣公社は恐るべき情報収集能力でアーカム・アルドレアが絶滅指導者を倒した人間だと知った。絶滅指導者もそこまでは知っていたのだろう。俺を相手にして「こんなものか」と、どこか小手調べする風なことを漏らしていた。
あれは俺への警戒だったんだ。
絶滅指導者を討った人間がどれほどのものか、という。
やつらは俺が生きていることまでは知らなかったようだが、その家族のもとにはたどり着いた可能性が十分にある。圧倒的な実力差がある俺のことを絶滅指導者が警戒していたように、やつらは絶滅指導者を打倒した人間を生んだ血を恐れたんだ。
その結果として彼らがなにをしたのか、想像に難くない。
多分に勘による推測が入っているが、おおかたこんなところだろう。
「私たちね……ちょうど1年くらい前に吸血鬼に襲われちゃってね」
エヴァはちいさな声で、だけど気丈に振舞いながら語り始めた。
案の定、アルドレア家は襲撃されていた。
だが、どうにも銀髪オールバック丸メガネの狩人が吸血鬼を返り討ちにしてくれたらしく、その時、だれひとりとして殺されることはなかったのだと言う。
銀髪オールバック丸メガネ……アヴォン・グッドマンのことだ。
あいつ俺の家族を助けてくれてたのか? だったら言ってくれよ。
まったく不親切なのか、親切なのかわかりづらい奴だ。
「でも、もう家まで辿り着かれちゃってるから、次いつ吸血鬼がやってくるかわからないって話されたの。その時はちょうど戦争がはじまりそうで、緊張感が高まってたから、キンドロ領から逃げるための理由には事欠かなかったわ」
「キンドロ領から逃げる……アヴォンが提案を?」
「あの狩人のことを知ってるの?」
「え、あぁ、まあちょっと……。それでみんなはどこに?」
「狩人は私たちに偽の名前をつかって別の国で生きるように言って来たわ。でも、そんなの急に言われたって難しいでしょう? 戦争のことだってあったし、アルドレアには責務があるわ。大事な責務。貴族の責任が。その時が来れば皆を武力で守る。そのために普段から権威を与えられ、尊敬の眼差しを集めているのだもの。その時が来たら無責任にすべてを放り出していくことなんてできない、みんなを失望させたくなかった……それに、私はクルクマとあの家が好きだし」
エヴァとアディは話し合いを重ね、悩んだ末に決断した。
アディとエーラ、アリスの3人には逃げてもらい、エヴァはすべての責任を終わらせてから追いかけることにしたのだ。もっともアルドレアの責務すべてを終わらせることなどできるはずもない。
貴族とは生まれた瞬間から貴族なのだ。
それが終わるのは死ぬ時だけ。
エヴァは決断した。
永遠の別れになるであろう道を選んだ。
エヴァは二度と夫と娘たちに会えない代わりに、どこかで生きてもらうことを選んだのだ。それが最善だと信じたのだ。
「心のどこかでは、いつかはひょっこり、たまに顔を出してくれたりすると期待してるのよ。いつかほとぼりが冷めたら、どこかで大きくなった娘たちに会えるんじゃないかって……あの子たちが生きていればそれで構わないのよ。死んでしまったらおしまいだけど、生きてさえいればどんな可能性だってあり続ける、人生ってそういうものでしょう?」
エヴァは瞳を濡らしながらにそう言った。
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