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第七章 魔法王国の動乱

英雄アーカム・アルドレア

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 マーヴィン・テンタクルズ、王の剣。
 昔から名前は知っていた。
 魔法王国内の英雄10人を集めた”十傑”のなかでももっとも優れた戦士であり、王のそばに控える剣であり、直轄の魔法騎士隊を指揮するリーダーでもある。

 どこかで見たあると思ったが、そうか、なるほど今、いろいろと繋がった。
 合戦場では急いでいたので「マーヴィン? 誰だろう……」くらいにしか反応できなかったが、改めて名前を聞くと、そのビッグネームぶりに息を呑む。

 俺、大丈夫だろうか。
 合戦場だとわりと無礼な態度をとっていたような気がするけど……エヴァを助けることで頭がいっぱいだったので、どんな風に接したのかすらよく覚えていない。
 
「テンタクルズ殿、どうしてこのような場所に」
「敗走兵たちを探しているのですよ。そして、戦争が終わったことを告げて回っているのです」

 戦争が終わった? 貴族軍は侵略をやめたのか?

「我々はその道程でいくつかの任務を遂行している最中です。詳しい話はもうすこし人の少ない場所でしましょう」
「わかりました」

 まわりには村人たちがぞろっと揃っている。
 俺は村の皆へ、マーヴィン・テンタクルズらが貴族派の騎士ではないことを告げて落ち着かせようとする。
 最も名前が有名なので、俺が落ち着かせなくても、勝手に「テンタクルズ様……っ、本物の魔法騎士隊長だ……!」と目をキラキラさせている。
 俺の出る幕じゃない。俺よりずっと信頼度は高いだろうし。

 人混みを分けて、テンタクルズとともに村長の家へ赴いた。
 村長夫妻とその娘はかなり慌てた様子で迎えてくれた。
 居間の一つを貸してもらい、腰を落ち着けて、話を伺うことにする。
 村で過ごすこと約半月。短いようで、わりと長い。
 情勢が二転三転するだけの時間はあっただろう。

「皆、席を外してくれ」

 居間で俺とテンタクルズのふたりきりになる。

「まずは貴方が無事で本当によかったと喜びを伝えましょう、アルドレア殿」
「そんなかしこまらずに、僕は辺境の一貴族ですから」
「何をおっしゃいますか。あなたが優れた魔導の使い手であることはすでに多くの者が知るところです」

 戦場で高威力の魔術を連射して、空飛び回ってたから、わりと目撃者がいるだろうね。

「あなたの噂は聞いていました。三重属性詠唱者であり、無詠唱の魔術を扱うという噂……にわかには信じられませんでしたが、あの日の凄まじき大魔術を目撃して確信したのです、噂は本当だった。それにいまは稀少属性までお使いになられるようで」

 すごい興味持ってくれている。
 でも、俺の話よりもあんたの話が聞きたいんだ。

「それより、テンタクルズ殿、戦争が終わったというのは」
「む、申し訳ありません、すこし昂ってしまいました。こほん。戦争終結につきましては、私の口からは詳しい話はできません。王家とその周辺、国家上層の問題なのですから」

 言われてみればそりゃそうか。
 勢いでたずねたけど、俺一般人だもんね。
 マーヴィンは言わば政府機関の要人、つまり大統領の右腕くらいの感覚だろうし、冷静になればおいそれとお話できることではない。

「もっとも狩人協会との繋がりを持つアルドレア殿はいずれ上層と深く関わることになるかもしれませんが」
「たはは」
「ともかく今言えることは戦争は終わったということです。貴族軍はすでに領地へ引き返しつつあります」

 よかった。
 無事に自体は収束しつつあるようだ。

「して、どうして僕を探していたのですか」
「我々はさきほど申し上げたとおり、敗走兵を探して情勢の変化を伝えてまわっているのです。召喚獣の混乱でおおくの者が仕方ないとはいえ、無断で軍を離れました。本来、敵前逃亡は打ち首級の戦犯です。しかしながら、召喚獣を前にしては逃げるのが普通であり、正しい判断です。罪を恐れて自分の故郷に帰るのをためらっている者もいるかもしれない。今回、軍を離れた多くの民らはその足で戦場から逃れ、いまも多くがアルドレア殿のように集落にいるかもしれない。はたまどこかで飢えに苦しんでいるかも。足で故郷まで帰った報告も多数受けてますが、誰もかれもが自分の故郷まで帰れるわけじゃない」

 怪我をして動けないものだったりとか、そもそも故郷が遠すぎる者など、帰れないことにはさまざまな原因がある。彼らのようにいちはやく情報の流布に努める部隊がいるのは大変に助かる。

「事態の収束には数年は要すると思われます」
「大変ですね」
「ああ、本当に大変なことをしてくれましたよ、やつらは。……失礼、話を戻しましょう。私がアルドレア殿を探していたのは、先のように行方不明者の捜索という任務の一環でありますが、それと同時に、王が貴方を探しているからなんです」

 王が俺を?
 心当たりは……まああるな。
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