異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第七章 魔法王国の動乱

白兵戦

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 丘陵の下方から貴族軍の前列が押しあがっていく。
 王族軍右翼第3軍とぶつかるのは貴族軍第2軍である。

 貴族軍第2軍将軍の名はマジック・ウィザーリン。マジックは齢60にもなる老婆であるが、その眼光に衰えはなく、他の貴族たちからいつだって注目される魔法王国内での中心的な人物である。
 冷酷で、恐ろしく、彼女に慈悲を期待してはいけないと多くの者が知っている。
 マジック・ウィザーリンとはそういう魔女なのだ。

 マジックはこの戦争にウィザーリン領より35,000の民と4,000の騎士を動員したポロスコフィンに次ぐ勢力を誇る大貴族でもあった。
 
 マジックの第2軍は貴族院より連れてこられた貴族院製ゴーレム『ローワイヤ』を最前列に立て、動く要塞のようにのっしりのっしりと丘陵をのぼっていく。
 その背後に守られるようにして追従する車輪付き投石器が、ビュンっと巨大な岩石を王族軍の方面へ放った。
 それをすかさず王族軍の投石防御隊が、魔術で撃ち落とす。

 王族軍の前列に配備された投石部隊は、投石器を同じく角度を調整し、一斉に70もの岩石を空へ放った。さらに弓兵部隊は弓を整った挙動で構え、一斉に大空へと放ち、数千本の矢の雨を降り注がせた。
 貴族軍の民兵たちは木製の盾を必死に頭の上にもってきて矢を防ごうとする。
 隙間を縫って入り込んだ矢が、多くの者を射抜き、致命的な負傷を与えた。投石の雨は多くは迎撃する貴族軍の魔術に撃ち落とされるが、数発が撃ち漏らされ、それにより10人単位で人間がぺちゃんこになる。

 投石部隊は「次だ、次!」と再装填を開始する。
 しかしどんなに熟達の騎士が作業しても、2分程度は装填までかかってしまう。
 その間にも貴族軍のゴーレム前線は押しあがってくる。
 
「投石でゴーレムを狙えんのか?」

 キンドロは歯噛みして副官にたずねる。

「精度が足りないかと。魔導砲と魔術ならば直線攻撃ゆえ狙えます」
「投石と矢ではゴーレムを仕留められん。射程に入ったら一斉に魔術攻撃を行え」
 
 戦場におかえる遠隔武器には種類がある。
 最大遠隔攻撃は投石器である。
 その次は矢。
 その次に魔導砲と魔術がついてくる。

 魔導砲とは魔力を用いて金属砲弾を打ち出す魔道具のことである。
 投石機が何機もつくれるほどに非常に高価ゆえ何門もあるわけではないが、その分、運用のしやすさと破壊力は抜群である。

 ゴーレム前線が100mの下方まで迫って来た。
 ここまで近づかれては投石器では前列を崩せない。

「前列、構え! ──射てぇ!」

 引き続き、降り注ぐ大曲射の矢の雨とともに魔導砲が放たれた。
 稲妻のようにいななく砲声とともに、高速で射出された金属砲弾がゴーレムを打ち砕く。さらにその後ろの投石器や騎士たちごと一気に掃討してしまう。
 さらに魔術師たちの魔術の雨が曲射で放たれ、大きなダメージを前列に与えた。

「あと100mだ、突っ切れるな」

 第2軍の前線が被害を受けるなか、魔女マジックは突撃を選択。
 同時に虎の子の魔術師部隊をいよいよ動かした。
 100mは魔術の射程としては遠すぎるが、その間合いを埋めるためならば、使い用はある。

 第2軍の前列、壊れたゴーレムらの隙間を縫って土属性の魔術が放たれる。
 それらは着弾と同時に地面を隆起させた。
 100mという距離を走り抜けるための安全地帯である。

 貴族軍は次々と展開される安全地帯をつかって、残されたゴーレムらとともに再び力強い進撃をはじめた。

 王族軍からすれば安全地帯が乱立しているせいで射線が通らない。
 キンドロは「遠隔戦はここまでだ! 兵器を下げて守れ! 後続を断つために温存しろ!」と、投石器や魔導砲を急いでさげさせ、弓兵と槍兵たちの位置を練習通りに入れ替えさせた。集団行動の訓練のおかげで、民兵の群れはひとつの生物のように、陣形を組み替えた。

 合戦にはいくつかのフェイズがある。

 第一フェイズは兵器を用いた超遠隔戦。
 第二フェイズは弓と魔術を用いた遠隔戦。
 第三フェイズは剣と槍をもちいた近接戦、すなわち白兵戦である。

 戦いは早々に第三フェイズに突入し、両軍最前列がぶつかりそうなほどに近づいた。
 その瞬間にも両軍の中腹あたりから、魔術師たちによる遠隔攻撃は続いており、ゴーレムを砕いたり、相手側の陣へ火炎の球を撃ち込んだりしている。

「行くぞッ!!」

 いざ両軍がぶつかろうとした瞬間、貴族軍がぶわっと割れ、その奥から騎馬隊が出現した。馬でさえ金属鱗を着ており、全体的に重厚な装甲をまとっている。

 マジックの第2軍が誇る騎馬隊である。
 率いるのは精強なる大柄の騎士である。

「我が名はカーケロン・ヴァルア、マジック・ウィザーリン様が第三位騎士貴族にして、剣聖流の使い手であるッ! 悪く思うなよ悪政の雑兵どもッ!」

 王族軍の槍兵たちはカーケロンの威圧感にたちまち気圧された。
 突っ込んでくる騎馬たちを槍で迎え討とうとするが、自分がひき殺されるとわかっていて、最後まで槍を構え続けられる人間はいない。
 民兵たちの群れへ騎馬隊がつっこんきて、潰され、斬られ、破壊的に王族軍第3軍の内臓を食い破っていく。

「どいてッ!」

 そこへ駆けつけるのは第3軍の誇る最強の攻撃部隊、エヴァリーン隊である。
 エヴァリーンは100騎を連れて、人群れのなかを突き進み、貴族軍の強襲騎馬隊を真横から矢のように突き刺した。
 
「ッ、あいつが将か、女ではないか」
「やあああ!!」

 貴族軍第2軍騎馬隊隊長はエヴァリーンと相対し、向かってくる刃を受け止めた。
 思わず足を止めたところへ、流れるように殺しにきたエヴァリーンの刃は、想像以上に重たかった。

 お互いに華の騎馬隊を任される騎士貴族だ。
 三段剣士どうしの剣気圧が膨れあがり、火花を打ち散らして激しくぶつかりある。
 
 最初の剣撃はエヴァリーンの速度が乗っている分、威力に優れ、カーケロンの体勢を大きく崩した。

「こんなところで死ぬわけにはいかないッ!」
「ぐぅ!? なんという気迫だ……ッ!」

 エヴァリーンの勢いの良さに、カーケロンは面食らう。
 美しく返す刃がカーケロンの首を打ち落しにいく。
 カーケロンは剣を戻そうとするが間に合わない。
 なので鎧圧を首に集中させ、わずかでも拮抗し、耐えようとした。
 すこしでも耐えて、弾かれた剣を戻し、逆に斬り伏せてやるのだ。

(初撃でわかった、剣気圧のオーラ量は我の方が大きい! そして体格差もある、鎧圧を全集中させれば、耐えられるはずだ!)

 カーケロンの読みは正しく、体格でも、剣気圧総量でも劣るエヴァリーンでは、カーケロンの全力のガードを崩すのは難しいことであった。
 だがそんなこと、ファーストコンタクトでカーケロンのが見抜いたように、エヴァリーンも見抜いていた。

(この騎士の圧、私より硬い……!)

 だからひとつ策をつかった。
 エヴァリーンは剣はカーケロンの首を完全に狙ったように見せた。
 それにより、ガードを首に集中させ、本命である剣を握る手首をノーマークにさせたのだ。ゆえにエヴァリーンは鎧圧がほどんどゼロの手首をさほど力まずに斬り落とせた。

「うぐぁ……っ、貴様、そっちが狙いか……ッ!」
「やぁあッ!」

 エヴァリーンは第三の剣でカーケロンの胴体を逆袈裟にぶったぎる。

「ぐっ、見事、なり……!」

 カーケロンのは騎馬から落馬して沈んだ。

 リーダーを失った騎馬隊は敵陣のど真ん中で機動力を失った。
 騎馬隊は非常に強力な戦力で、敵陣を突き破り、食い破ることができるが、それは同時に立ち止まってしまえば、敵陣の真ん中で孤軍奮闘をさせられるということだ。
 全方位を敵に囲まれ、なおかつ司令塔を失った第2軍の騎馬隊は容易に圧殺されてしまった。

 騎馬隊突撃によりさほどの戦果を得られず、それどこか攻撃力を失った第2軍は押しかえされていた。
 もともと、丘陵のうえとしたという構図での白兵戦であるため、王族軍のほうが地理的に有利なのだ。

 徹底的にその場で敵を突くことを練習させられた民兵たちは、ひたすらに長い槍をつかって貴族軍の兵たちを近づけさせなかった。

 エヴァリーンは戻ってくるなり、次の作戦行動に移った。
 
「今度は私たちが食い破る」

 エヴァリーン率いる騎馬隊1,000騎は、果敢にも突撃を開始した。
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