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第七章 魔法王国の動乱
ドレディヌスでの戦争準備
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キンドロ領ドレディヌス。
バンザイデスに比べれば大軍を鍛えるにも、兵糧を運び込むにも、すべてが不足しているが、それでも地理的に言えばこの町が最も泣き声の荒野に近く、準備を整える場として適している。
ドレディヌスにたどり着いたエヴァリーンらはそこで王族軍に合流した。
到着するなり、さっそく伍単位での班分けが行われ、村人らは民兵になるべく訓練をさせられることになった。
到着が早かったおかげで、クルクマの男たちは槍を授かることができた。
「大事に使えッ! それが今日からお前たちの女だと思えッ! お前たちは槍と共に眠り、愛してるとささやき、そいつで汚い下半身を慰めるのだッ!」
民兵の訓練教官はとりわけ厳しく、鬼のような人物が担当していた。
戦争までわずか三カ月で彼らは戦えるようにならなくてはいけないのだ。
生ぬるくやっている余裕はなかった。
民兵らの1日は朝早くの起床からはじまり、兵舎で硬いパンを腹に収めるところからはじまる。幸いにして兵糧のたくわえはあったので、食事を抜かれるようなことはなかった。
食事が終われば、長槍をつかって5m先の巻き藁をひたすらに突く訓練だ。
「外すなッ! 外せば死と思えッ! その巻き藁は高速で突っ込んでくる騎馬そのものだッ! 外した瞬間、熟達の騎士が駆る装甲騎兵がお前たちを踏みつぶすぞ! 確実に当てるのだッ!」
教官は厳しいが、決して非合理の人間ではなかった。
練度の低い民兵には多くのことを求めはしなかった。
彼らに求めたのはただひとつ。正確に突くことだけだ。
フルプレートを着込んだ騎士相手に、民兵が勝つことはない。
民兵が50人も集まり、集団となって、バリケードの向こう側で槍を構えているところに突っ込むのは相当に勇気のいることだ。ただ突っ込んでこられた時に無力では意味がない。「来るなら確実に殺すぞ」そういうことをわからせなければいけない。
ごく限られたシチュエーションでのみ民兵の集団は、重厚な騎士を迎撃しうる要塞となるのだ。
そしてプレートアーマーを着こんでいない騎士が相手ならば、ことさらに無数の槍は剣を持った騎士をうち抜くことができる可能性がある。
そのほか、民兵らは歩く練習をした。
大軍での行軍、合戦場での部隊編成の際に混乱しないための練習である。
朝起きて飯を与えられ、槍を突き、集団行動の練習をする。
それが3カ月も続けば、それなりに覇気を纏う民兵の集団ができあがっていた。
クルクマの男らもどこか自信を身に着け、巻き藁に鋭く長槍を突きさすことができるようになっていた。
民兵らが訓練している間、将クラスの騎士らは頭を突き合わせて、敵軍の状況を偵察者より獲得し、その兵力を分析、敵将の情報なども取得して、編成を考案していた。
王族軍の総指揮官はもちろんジョブレス王家の長、現国王のウォルゲル・トライア・ジョブレスその人である。
王族軍は全6軍から編成され、王家の第1軍を中心に、右翼には忠臣ハイランド・ヴァン・キンドロの第3軍、ドーミア・ナーセリキッフの第5軍、ベルトルト・クンティエリア第6軍がつづく。
右翼戦力は民兵7,500、騎士3,400で固められている。
左翼には王族派筆頭ロムレ・ハーヴェインの第2軍、民兵3,000、騎士1,500である。
右翼の左翼、また中央に備えられた最大戦力である王領よりの派兵軍を、ほどよく調整するとこうなる。
右翼、民兵20,500、騎士3,500。
左翼、民兵15,000、騎士3,000。
中央、民兵20,000、騎士3,400。
エヴァリーンは右翼中央寄り、ハイランド・ヴァン・キンドロの第3軍の右側後方にて、3,000人将として配置されることになった。
彼女の持つ剣聖流三段の持つ意味は大きく、大軍を指揮する責任を課せられたのだ。
バンザイデスに比べれば大軍を鍛えるにも、兵糧を運び込むにも、すべてが不足しているが、それでも地理的に言えばこの町が最も泣き声の荒野に近く、準備を整える場として適している。
ドレディヌスにたどり着いたエヴァリーンらはそこで王族軍に合流した。
到着するなり、さっそく伍単位での班分けが行われ、村人らは民兵になるべく訓練をさせられることになった。
到着が早かったおかげで、クルクマの男たちは槍を授かることができた。
「大事に使えッ! それが今日からお前たちの女だと思えッ! お前たちは槍と共に眠り、愛してるとささやき、そいつで汚い下半身を慰めるのだッ!」
民兵の訓練教官はとりわけ厳しく、鬼のような人物が担当していた。
戦争までわずか三カ月で彼らは戦えるようにならなくてはいけないのだ。
生ぬるくやっている余裕はなかった。
民兵らの1日は朝早くの起床からはじまり、兵舎で硬いパンを腹に収めるところからはじまる。幸いにして兵糧のたくわえはあったので、食事を抜かれるようなことはなかった。
食事が終われば、長槍をつかって5m先の巻き藁をひたすらに突く訓練だ。
「外すなッ! 外せば死と思えッ! その巻き藁は高速で突っ込んでくる騎馬そのものだッ! 外した瞬間、熟達の騎士が駆る装甲騎兵がお前たちを踏みつぶすぞ! 確実に当てるのだッ!」
教官は厳しいが、決して非合理の人間ではなかった。
練度の低い民兵には多くのことを求めはしなかった。
彼らに求めたのはただひとつ。正確に突くことだけだ。
フルプレートを着込んだ騎士相手に、民兵が勝つことはない。
民兵が50人も集まり、集団となって、バリケードの向こう側で槍を構えているところに突っ込むのは相当に勇気のいることだ。ただ突っ込んでこられた時に無力では意味がない。「来るなら確実に殺すぞ」そういうことをわからせなければいけない。
ごく限られたシチュエーションでのみ民兵の集団は、重厚な騎士を迎撃しうる要塞となるのだ。
そしてプレートアーマーを着こんでいない騎士が相手ならば、ことさらに無数の槍は剣を持った騎士をうち抜くことができる可能性がある。
そのほか、民兵らは歩く練習をした。
大軍での行軍、合戦場での部隊編成の際に混乱しないための練習である。
朝起きて飯を与えられ、槍を突き、集団行動の練習をする。
それが3カ月も続けば、それなりに覇気を纏う民兵の集団ができあがっていた。
クルクマの男らもどこか自信を身に着け、巻き藁に鋭く長槍を突きさすことができるようになっていた。
民兵らが訓練している間、将クラスの騎士らは頭を突き合わせて、敵軍の状況を偵察者より獲得し、その兵力を分析、敵将の情報なども取得して、編成を考案していた。
王族軍の総指揮官はもちろんジョブレス王家の長、現国王のウォルゲル・トライア・ジョブレスその人である。
王族軍は全6軍から編成され、王家の第1軍を中心に、右翼には忠臣ハイランド・ヴァン・キンドロの第3軍、ドーミア・ナーセリキッフの第5軍、ベルトルト・クンティエリア第6軍がつづく。
右翼戦力は民兵7,500、騎士3,400で固められている。
左翼には王族派筆頭ロムレ・ハーヴェインの第2軍、民兵3,000、騎士1,500である。
右翼の左翼、また中央に備えられた最大戦力である王領よりの派兵軍を、ほどよく調整するとこうなる。
右翼、民兵20,500、騎士3,500。
左翼、民兵15,000、騎士3,000。
中央、民兵20,000、騎士3,400。
エヴァリーンは右翼中央寄り、ハイランド・ヴァン・キンドロの第3軍の右側後方にて、3,000人将として配置されることになった。
彼女の持つ剣聖流三段の持つ意味は大きく、大軍を指揮する責任を課せられたのだ。
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