上 下
253 / 306
第七章 魔法王国の動乱

ドレディヌスでの戦争準備

しおりを挟む
 キンドロ領ドレディヌス。
 バンザイデスに比べれば大軍を鍛えるにも、兵糧を運び込むにも、すべてが不足しているが、それでも地理的に言えばこの町が最も泣き声の荒野に近く、準備を整える場として適している。
 ドレディヌスにたどり着いたエヴァリーンらはそこで王族軍に合流した。
 到着するなり、さっそく伍単位での班分けが行われ、村人らは民兵になるべく訓練をさせられることになった。
 到着が早かったおかげで、クルクマの男たちは槍を授かることができた。

「大事に使えッ! それが今日からお前たちの女だと思えッ! お前たちは槍と共に眠り、愛してるとささやき、そいつで汚い下半身を慰めるのだッ!」

 民兵の訓練教官はとりわけ厳しく、鬼のような人物が担当していた。
 戦争までわずか三カ月で彼らは戦えるようにならなくてはいけないのだ。
 生ぬるくやっている余裕はなかった。

 民兵らの1日は朝早くの起床からはじまり、兵舎で硬いパンを腹に収めるところからはじまる。幸いにして兵糧のたくわえはあったので、食事を抜かれるようなことはなかった。
 食事が終われば、長槍をつかって5m先の巻き藁をひたすらに突く訓練だ。

「外すなッ! 外せば死と思えッ! その巻き藁は高速で突っ込んでくる騎馬そのものだッ! 外した瞬間、熟達の騎士が駆る装甲騎兵がお前たちを踏みつぶすぞ! 確実に当てるのだッ!」

 教官は厳しいが、決して非合理の人間ではなかった。
 練度の低い民兵には多くのことを求めはしなかった。
 彼らに求めたのはただひとつ。正確に突くことだけだ。

 フルプレートを着込んだ騎士相手に、民兵が勝つことはない。
 民兵が50人も集まり、集団となって、バリケードの向こう側で槍を構えているところに突っ込むのは相当に勇気のいることだ。ただ突っ込んでこられた時に無力では意味がない。「来るなら確実に殺すぞ」そういうことをわからせなければいけない。
 ごく限られたシチュエーションでのみ民兵の集団は、重厚な騎士を迎撃しうる要塞となるのだ。
 そしてプレートアーマーを着こんでいない騎士が相手ならば、ことさらに無数の槍は剣を持った騎士をうち抜くことができる可能性がある。

 そのほか、民兵らは歩く練習をした。
 大軍での行軍、合戦場での部隊編成の際に混乱しないための練習である。
 
 朝起きて飯を与えられ、槍を突き、集団行動の練習をする。
 それが3カ月も続けば、それなりに覇気を纏う民兵の集団ができあがっていた。
 クルクマの男らもどこか自信を身に着け、巻き藁に鋭く長槍を突きさすことができるようになっていた。

 民兵らが訓練している間、将クラスの騎士らは頭を突き合わせて、敵軍の状況を偵察者より獲得し、その兵力を分析、敵将の情報なども取得して、編成を考案していた。

 王族軍の総指揮官はもちろんジョブレス王家の長、現国王のウォルゲル・トライア・ジョブレスその人である。
 王族軍は全6軍から編成され、王家の第1軍を中心に、右翼には忠臣ハイランド・ヴァン・キンドロの第3軍、ドーミア・ナーセリキッフの第5軍、ベルトルト・クンティエリア第6軍がつづく。
 右翼戦力は民兵7,500、騎士3,400で固められている。
 左翼には王族派筆頭ロムレ・ハーヴェインの第2軍、民兵3,000、騎士1,500である。

 右翼の左翼、また中央に備えられた最大戦力である王領よりの派兵軍を、ほどよく調整するとこうなる。

 右翼、民兵20,500、騎士3,500。
 左翼、民兵15,000、騎士3,000。
 中央、民兵20,000、騎士3,400。

 エヴァリーンは右翼中央寄り、ハイランド・ヴァン・キンドロの第3軍の右側後方にて、3,000人将として配置されることになった。
 彼女の持つ剣聖流三段の持つ意味は大きく、大軍を指揮する責任を課せられたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...