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第七章 魔法王国の動乱

早馬

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 ──アーカムの視点

 王都について1日目。
 俺は昼のうちに早馬の調達をしようとアンナといっしょに貴族街をまわった。
 魔術王国でもそうだったが、貴族という生き物は王都に別荘を構える時、決まってこうした超上流階級のストリートを形成するものらしい。
 
 足をつかってアポなし訪問をする目的は早馬の調達だ。
 早馬というものは急使がなんらかの伝達事項をたずさえて急ぎ移動する際に利用される馬のことで、こと魔法王国のそれは魔術的な品種改良を加えられたものだ。ここまで100日以上旅を共にしてきた馬たちはあくまで普通の馬であるため、軍馬でもなければ、早馬でもないし、なにか特別な品種のモンスターの類でもない。

 これまで荷物をたくさん抱え有事の際に対応できるようにしていたのだが、よくよく考えると、荷物を極限まで減らし、早馬で駆けた方が良いと気づいた。
 聖神国にいた時は魔法王国までは遥かな旅路だったし、先行きがわからなかったが、王都まで戻ってくれば、もう道に迷う事も無ければ長旅でもない。
 なので早馬にそろそろ乗り換える時期だと判断した。

 ちなみに道中の村や町では早馬を調達することはできないことはなかった。
 ただ確実性はなかった。町を探し回って調達するのに時間をかけると、なんのために移動時間を削ろうとしているのかわからなくなってしまう。
 だから確実性のある王都で早馬で手に入れ、駆けるというプランを選んだ。
 
 幸いにもすぐに早馬を調達できそうだった。
 貴族街をまわった結果、何人かの貴族に接触でき、俺がキンドロ領地貴族の孫だと伝えると、すごく良くしてくれて、騎士団とのコネクションで早馬を用意できるとのことだった。

「これから泣き声の荒野に向かわれるのですね……どうかキンドロ卿によろしくお伝えください」

 貴族は当主の弟の三男坊で、長男と次男が合戦に向かっている間、屋敷を預かっているのだと言う。いま魔法王国にはこういう貴族がたくさんいる。
 当主の座にいるものは戦役から逃げられないので、戦役中は、本来なら家を継ぐはずでない者たちが一時的にそのポストに収まることになる。当主が帰らなければ、当主の繰り上げが行われ、そのまま領地を運営していくことになる。

 早馬を手に入れる算段つけ終えると、日が落ちて暗くなっていた。
 向こうの通りでゲリラ配信をしているキサラギとアンナを拾って今夜はゆっくり休むことにする。

 貴族街をあとにし、日が落ちる古風な街並みを歩く。
 気が付けば周囲に風化した遺跡ばかりの地域を歩いていた。
 
「ここが遺跡街か」

 ローレシア魔法王国には古い時代の遺跡がそのままの形で保存されているという話だったが、なるほどたしかに1,000前の古代文明の石碑と言われても納得できる石造の建築物だらけだ。どれもこれも年月で風化し、いまはその全容を知ることはできず、欠損の美を称えているだけだが、確かな時間の重みを感じることはできる。

『アーカム! ちょっと地下に入ってみよう!』

 お告げが来ました。
 超直観くんのお告げです。
 お告げは絶対。嘘じゃない。

 ということで、路地を一本入って遺跡街の地下へ続いていそうな階段を都合よく発見したので足を踏み入れてみることにする。
 まるで古代エジプトの隠された財宝を探しにいくようでちょっとわくわくする。
 
 しかして、なにか妙な感じがする。
 こういう薄暗くて、雨風しのげる場所には貧困の者や、悪党が住み着いていそうなものだが、ここにはそういう類が見当たらない。

「貴族街にわりかし近いから治安がいいとか、かな」

 適当な木材を見つけたので足ですくって魔術で火をともした。
 アーカム・アルドレア、これよりお告げを遂行します。
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