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第七章 魔法王国の動乱
王と忠臣の茶会4
しおりを挟む「……。時間はまだあります。はっきりと申し上げるのはやや気が引けるのですが、貴族派の軍は練度が高い。もちろん民兵の派兵にも大きな力を入れていますが、なによりも恐ろしいのは魔術師たちの存在です。王都にはレトレシア魔法魔術大学こそありますが、校長が戦争が起こった際の絶対不干渉を約定した以上、我々はレトレシアの力を使えません。それ以前に人間法でも規制はされていますが」
ウィザーズ半島にはいくつかの魔法国家が存在するが、そのどこであろうと、名門魔法学校と呼ばれるほどの学府には、王族や貴族たちを上回る発言権が与えられている。これは魔術の祖アーケストレス魔術王国にはじまる智の探求者へのおおいなる尊敬ゆえのものだ。
魔術の深淵たるその知恵は、俗世の人間が起こす争いなどに巻き込まれて紛失するわけにはいかないのだ。ゆえにこそ戦争時には多くの魔法学校はその門を固く閉ざし、知の保管という最大の使命を全うする。
これにはまたもうひとつの意味合いが存在する、というのも、魔術師を戦争に大量派遣することによる悲劇を回避するためだ。現在魔術としてひろく普及している魔術『属性式魔術』はもともとが攻撃手段として設計・開発された性質上、戦争に動員してしまうと、破壊的な被害をだしてしまう。
もしひとりでも『賢者』クラスの時代を代表する魔術師が戦地に赴けば、それだけで犠牲者は100単位で増える。ゆえに人類を保存する役目にある支配層、その裏を糸であやつるものたちは魔術師の戦争動員に慎重になり、徴兵で魔術師を集めることを人間法で規制している。もう400年以上昔からつづく法律であり、現代ではこれは人類普遍の考え方だ。
しかし、時にこの論理の通用しない者たちがいる。
それが国家の正式な支配者でない場合だ。
つまるところ、ポロスコフィン領を筆頭にした革命軍たる貴族派だ。
「ポロスコフィン領にはナケイスト貴族魔法院があります。彼らはナケイスト貴族魔法院から魔術師を派兵する動きを見せています。これはまずいでしょう。戦術レベルでも、魔術師の集団をかかえた軍団との合戦など正気の沙汰ではありません」
「頭の痛い話だ。殺しても殺されても、失われるのが国民の命だなんて」
「人間法を堂々と破る姿勢。狩人協会もなんらかの動きを見せる可能性は高いです。なので、あるいはもしかしたら、この戦争は直前で回避できるかもしれません」
マーヴィンの冷静かつ希望的な観測に、キンドロとヴォルゲル王は思案する。
キンドロのもとへは何度も貴族派からの声がかかっている。
そのたびにやんわり返事をかえし、旗色を明らかにしていないのが現状だ。
できるだけ時間を引き延ばせば、あるいは狩人協会の介入を期待できるかもしれない。
キンドロもヴォルゲル王もマーヴィン隊長も、同じことを考えていた。
正面衝突すればよくて辛勝。
悪くて大敗。戦争を無事乗り切ったあとに待つのは、弱った王国に喧嘩をふっかけてくる帝国の影。
どのみち死人が出るほど、戦争の期間が長引くほど、帝国に美味しい条件を整わせてしまう。
魔法王国の未来を考えれば、貴族派に矛をおさめさせ、殺さず、殺されず、騎士も民も失わず、また魔法王国としてひとつに団結することが望ましい。
「はっ、この期におよんでこんな生ぬるい理想論に帰って来るとは。情けない王だ、私は。こんな形でしか戦争をおさめる手段を知らないなんて……。しかし、もうそれしかあるまい」
ヴォルゲル王は引き続き狩人協会との交渉の席を設け続けることを決意した。
キンドロは王の勅令を受けた。
できるだけ長く、持ちこたえること。
貴族派に宣戦布告させる口実を与えないこと。
そのために旗色を明らかにしないことを厳命された。
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