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第七章 魔法王国の動乱

王と忠臣の茶会3

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 ローレシア魔法王国における有事の際の戦力は徴兵された民間人と、駐屯地で訓練を積む職業騎士、それと騎士貴族として各地を修める特別な騎士たちからなる。
 キンドロ領北側は帝国と隣接する魔法王国の国境でもあるため、国土防衛のため多くの騎士を抱えており、バンザイデスという強固な要塞都市を起点に、防衛のための要塞を各地に備えていた。
 しかし、あの事件で防衛能力は慢性的なダメージを受けてしまった。双子の吸血鬼の暴走、絶滅指導者の気まぐれ。それらがもたらした被害は優に万の命を奪い、なによりも絶滅指導者が放った赫糸の余波によって多くの遺体が血の呪いで死に絶え、腐敗し、そして腐敗は疫病を呼んだ。
 キンドロ領が最も苦しんだのは、この二次的な被害であった。バンザイデスは街道のまじわる交易都市としての役割も担っており、良質な鋼と職人があつまり、日夜鍛造の武器が鍛えられ、冒険者、騎士、傭兵団などの手に届いた。行商人らにとってバンザイデスで武器を仕入れれば、帝国で高く売れることは有名な話だった。
 そんなものだから、病は周辺地域に広がり、その収束に大きな時間を取られることになった。いまやバンザイデスという都市は捨てられ封印されてしまった。土地が怪物の血で汚れ、それを克服することができなかったのだ。

 吸血鬼の残した傷跡は極めて甚大なものだった。

「いまや王族派のなかにも不安が蔓延している。すべては私の実力不足が招いた結果……そうだとしても、私は王だ。この国を守らねばならない」

 ヴォルゲル王は自嘲気な笑みをうかべながら気丈に振舞う、
 キンドロは知っている。最大の元凶はゲオニエス帝国にあるのだと。かの帝国は不良国家として知られ、長い人類史のなかで何度もとなく周辺国への侵略を行ってきた歴史がある。ここしばらくは大人しいものだが、20年前皇帝が代替わりした途端、様相がいっぺんしたのだ。かの皇帝は『戦争卿』と呼ばれ、15年前と、10年前、帝国近辺の国と戦争をし、いくつかの領土を奪った。
 そのせいで帝国と魔法王国は領土が隣接したのだ。
 すべて計算づくとしか思えなかった。

 それほどに知略に優れる『戦争卿』だ。
 きっとバンザイデスでの吸血鬼騒動も計算づくで、いまが好機と動いたのだろうとキンドロは思っていた。
 
「あるいはかの『戦争卿』の差し金で吸血鬼が……」
「めったなことを言うものではないハイランド。帝国が国盗りをなそうとしているのはわかるが、かの皇帝とて怪物を御することができるとは思えん。いな、それ以前に吸血鬼なぞを従える人間はいない。いてはならんのだ」

 ヴォルゲル王は厳かにつぶやく。

「しかし、まこと困った。なまじ帝国の姿が見えているとはこうもやりづらいものか」

 国内の争いごとに見えてその実、これは帝国との間接的な戦争である。
 そういうことを思うと、キンドロはまたしても狩人協会への苛立ちを感じずにはいられなかった。かの英雄結社は大国間のパワーバランスをコントロールし、秘密裏におおきな衝突を避けさせるというのは国家級の支配者たちにとっては暗黙に知れ渡った既成事実である。
 だと言うのに、彼らはこの緊張状態を防げなかった。
 それはある意味では極大の力をもっていながら、なにもしなかった狩人協会の怠慢とも呼べるものだ。

「どうして、協会は助けてくれなかったのでしょう」
「……嘆いていても仕方のない話だ。この国は我々の国だ。誰かが助けてくれると思うのは、都合が良い話ではないか。もっとも過去の私にもこんな言葉を使う頭と度胸があれば、もう少しどうにかなったのかもしれないが」
「王よ……」
「現実的な問題にいまこそ向き合おう。その勇気が必要だ」

 キンドロは瞑目し、失礼にならぬ程度に深いため息をつく。

「ハイランド、どれだけ戦える」
「領内の騎士貴族には通達を済ませ、各々村より徴兵をはじめているところです。ほかの領地からの派兵次第となりますが、正直、戦いを避けるべきだとは思います。吸血鬼の襲撃で死んだ騎士は600名を上回ります。バンザイデスは経済的にも、軍事的にも重要な要所でした。いまや疫病を抑える分厚い壁の中……あの荷物のせいで、泣き声の荒野に軍を配備するための拠点設営にも時間を取られます」

 キンドロは言葉を散々濁したあとで、はっきりと言う。

「派兵が予定通り間に合ったとしても、この戦いは無謀です」

 ポロスコフィン領をまじかで見ているキンドロだからこそわかる状況がある。
 ヴォルゲル王はこの言葉を重く受け止める。

「マーヴィン、お前はどう思う」

 ヴォルゲル王は今度はマーヴィン魔法騎士隊長へ意見を求めた。
 は険しい顔をし「僭越ながら」と前置きして口を開く。

「自分は戦術レベルでの戦いしかわからぬゆえ、なんとも。申し訳ありません」
「謙遜するな。お前はライバンの戦いで帝国戦争を経験している。国内でお前が葬った怪物の危機は数えきれない。お前以上に戦を知るものがどれだけ魔法王国にいると言うのだ」
「私もぜひ聞かせていただきたい。マーヴィン魔法騎士隊長殿。その元狩人の視座というものを」

 キンドロはやや含みを持たせてたずねた。
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