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第七章 魔法王国の動乱
王と忠臣の茶会1
しおりを挟むヴォルゲル王はキンドロを快く迎え、茶を入れようとする。
王の剣マーヴィン魔法騎士隊長は「自分が」と、ティーポットへ手を伸ばす。
だが、ヴォルゲル王は「いいんだ。これくらい私がやる」と給仕の役を渡さなかった。キンドロはティーをうやうやしく受け取り「ありがたく」とひと口ふくんで、唇を湿らせる。
カチャリとソーサーにカップが置かれ、すこしの沈黙のあとヴォルゲル王は切り出した。
「先の会議ではご苦労だったな」
「王も御疲れ様です。御体調の優れぬなかでの出席、派閥貴族たちの士気も高まったことでしょう」
「世辞はいらん。私たちの仲だろう」
「はっ失礼いたしました」
「おかしな男よの、お前も」
ヴォルゲル王はキンドロという男は決して礼を欠かないと知っている。
王が私的な会合では肩ひじ張るなと何度言っても変わらない。
最も王自身、キンドロのそういうところが信頼できると思っている節はあるのだが。
張りつめた会議から一転して、ヴォルゲル王は意識して最近の娘のことなどをキンドロにたずねたりした。
「エヴァは相変わらずです。あのみすぼらしい男のどこがよいのか、いまだに理解に苦しみます」
「はは、なにを言うかと思えば、まだそんなことを。あの旦那はなんと言ったか」
「アディフランツです。何の才能のない、エヴァにふさわしくない馬の骨です。王よ、覚える必要などありませんよ」
「相変わらず娘の簒奪者には厳しいのだな」
「世の親みなそうでしょう」
キンドロは「あんな男のなにが……」と、心底気に入らない表情でティーをすする。ヴォルゲル王はこの話題が好きだった。厳格なキンドロも娘のことと、その夫を話題にだせば父親の顔を見せてくれるからだ。
「ああ、そういえばうちの宮廷魔術師のひとりが言っていたのだが、エヴァリーンとその男の息子だかが大変な才能の持ち主だったとか」
「アーカムの事ですか」
キンドロは淀みなく答えた。
彼の脳裏にはまだ幼かったあの初孫の顔がいまも鮮明に浮かんでいた。
「そうだ。思い出したアーカムだ」
「……天才、だったのでしょう。エヴァとはもう家族の縁は切れていますから具体的な話はなにも知りません」
「わかるぞ。私も娘とはずっと上手く行っていないからな」
「王よ、貴方の場合はまだ修復できるのですから、どうか頑なにならず」
「うーむ。だが、いまさらこちらから歩み寄るというのも王としてな……」
ヴォルゲル王とその娘エフィーリア王女は人間法をめぐって10年ものの不仲だ。
キンドロは苦笑いをし、仲直りするのにはあと10年かかるだろうと思うのだった。
「して、そのアーカムというのはなんでも7歳の時点で二式魔術の使い手であったというのだ」
「二式? そんなことが……」
噂で魔術の天才だとは聞いていたキンドロだったが、流石にそこまで破天荒だとは思っていなかった。目を丸くして驚いてしまった。
「宮廷魔術師の話ではそれも三属性の使い手、つまり”三重属性詠唱者”だと言うではないか」
三重属性詠唱者。そんな御伽噺から出て来たような魔術師が存在することにキンドロは困惑する。しかもそれが自分の孫ともなれば尚更だった。
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