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第七章 魔法王国の動乱

酒場での情報収集

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 冒険者ギルドへやってきた。
 パーティらがクエスト会議をするロフトは盛況で、その下方の酒場はクエスト帰りなのか、休日なのか知らないが、これまたたくさんの冒険者で賑わっている。
 時刻は午後10時を回ったところ。ここからより賑やかになるのだろう。

「アンナ、お願いできますか」
「うん。女ひとりのほうがやりやすいしね」

 ごく単純な論理だが、うちのアンナさんは大変な美少女なので、男相手には非常に効果的な聞き込みをおこなえる。こう訊くとなにか危険な目に遭うんじゃと心配されるかもしれないが、その点もまったく問題ない。なんにも心配いらない。

 アンナがいろいろ聞き込みをしている間、俺もできることをやろう。
 適当なカウンター席に腰を下ろして、店主に葡萄酒を注文する。
 以前、ドリムナメア聖神国で購入し、飲酒したが、なかなかに美味しいと知った。
 それ以来、町に立ち寄っては、よく注文している。
 
 隣の席のほろよいの客に話しかけ「お酒おごりますよ」と羽振りよく言ってやれば、たいていのお話はしてくれる。
 俺が魔術王国から10年ぶりに故郷へ帰るという話をすれば、ほろよいの男は目を丸くして「故郷はどこだい?」とたずねてきた。

「北の方にある辺境ですよ。キンドロ領のクルクマっていうちいさな村なんですけどね。僕の生まれ故郷なんです」
「お前さん、キンドロ領っつたら……ああ、可哀想に。最悪のタイミングで帰って来ちまったな」
「なにかご存じで?」
「貴族派と王族派で戦争がはじまっているのは知ってるな。ポロスコフィン卿がジョブレス王家より国家転覆を企てたとかなんとかで、貴族位の剥奪を勅命されてから、貴族派貴族たちは辺境を中心に暴れはじめてるのさ」
「……キンドロ領は?」
「俺が聞いた話じゃ、ポロスコフィン領に軍が集まってて、すぐにキンドロ領との境での合戦がはじまるとか、なんとか……」

 ほろよいの男は饒舌に話してくれた。
 内戦がはじまったのはわずか1カ月前のことだ。
 貴族派はポロスコフィン領とその周辺貴族たちによるローレシア魔法王国の東側に広大な陣地を持っており、その周辺でいくつかの合戦が行われたという。
 合戦はまだ王族派貴族と、貴族派貴族の領地の境でのいざこざ程度であるという。
 どちらもあまり大きな損害をだしてはいない。
 思うに、貴族派貴族も、王族派貴族も、あくまで領地が隣接しているから戦っているだけで、領地併合の危機をおかすつもりはないのである。
 
 一方、軍が集結している地帯がある。
 それがポロスコフィン領と隣接する王族派貴族領地キンドロ領との境である。
 
 どうにもキンドロ領主キンドロ卿は、長い間、旗色を明らかにはせず、内戦が本格化した1カ月前からも目立ったリアクションをしてこなかった。

 だが、貴族派はそんなキンドロ領を本格的な王家陥落への第一戦場と選んだ。
 ポロスコフィン領と隣接していて、弱く、王都からも距離がある。
 最初の侵略を行い、勢力圏を広げるにはうってつけだ。

「だから、いまはキンドロ領には行かない方がいいぜ」
「忠告ありがとうございます」
「……行くんだな、兄ちゃん。そこまでして戻る理由でもあるのかい?」
「家族がいるので」

 俺は話を聞かせてくれた男に礼を言って席を立った。
 
 ポロスコフィン領とキンドロ領の隣接する泣き声の荒野。
 そこで戦争の本格始動がある。
 アルドレア家は田舎貴族とはいえ、第四位騎士貴族。
 クルクマ村の男出は民兵として動員され、騎士貴族は騎士団に合流参戦する。

「ここからじゃ、どうやっても間に合わない……か」

 本日の営業を終えたギルドカウンター近く、ベンチに腰を下ろしてうなだれる。
 エヴァ、アディ、エーラ、アリス。
 家族の無事を俺は祈る事しかできない。

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