異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第六章 怪物派遣公社

魔術王国、最終日

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「兄さま、キサラギは卒業配信をしたいと思います」
「はい、どうぞ。みんなにちゃんとお別れ言ってね」

 キサラギちゃんがペンと紙束を抱えて、町へと出かけていく。
 監視というわけじゃないが、ちょっと心配なのでアンナさんを陰ながら同行させる。キサラギが困っていたら助けてあげるようにお願いしておく。

「任せて、アーカム。キサラギはあたしが守る」

 物騒なことにはならないと思うけどね。

 そんなこんなで、本日はアーケストレス魔術王国滞在の最終日だ。
 2時間後にはローレシア魔法王国へ向けて出発し、街道沿いにぐんぐん進み、隣町に夜までにはたどり着きたいところ。

 その前にいくつか訪問の約束があるので、そちらを片付ける。

 ひとつ目は魔術貴族クリスタ家である。
 これからも末永く取引をすることになる相手なのでご挨拶。
 
「アルドレア殿、では、お元気で。また魔術王国へ来ることになるでしょう。その時はぜひ当家をおたずねください。それと、カンピオフォルクス家の件……ありがとうございました。緩やかな終わりを迎える運命でしたが、あなたに救っていただけた」

 別れ際だからだろうか、なんだかいつもより優しい言葉を使っていた。
 存外、感謝されていたらしい。

 ふたつ目は魔術貴族エメラルド家である。

「アルドレアの坊や、いや、アーカム殿、もう行くのかい。短い間だったが、世話になったねえ。あんたみたいな若いのに胆力があって、信念のあるやつは嫌いじゃない。なにか困ったことがあったら力になるよ」

 そう言って、マチルダ婆は顔にいっそうくしゃっと歪めて、俺に肩を分厚い手で叩いた。
 この婆さんは話がわかる。きっとまた困ったことがあれば、俺を助けてくれる。そんな気がする。

「その時は遠慮なく胸を貸していただきます」
「任せておきなぁ、アーカム殿」
 
 みっつ目はクラーク家である。
 
「にゃー、にゃおー、にゃー」

 クラーク邸へ向かう道中、野良猫に話しかける変な人を発見。
 
「あの……なにしてんですか」
「……」
「……。こほん。僕、実は魔術王国を離れることになりました」

 コートニーさんの名誉のため、俺はあえて言及しまい。
 彼女には助けられたのだ。俺もまた彼女の尊厳を助けよう──。

「いきなり背後から話しかけて優位性を奪取したつもりかしら。浅ましいことね」
「にゃんにゃん」
「土を詰めて埋められたいのかしら?」
「顔、恐っ」

 人を平気で殺しそうな目してる。
 ちょっとからかっただけなのに。

「本当に最後まで腹立たしいわね、アルドレア君は」
「それはお互いさまですよ、コートニーさん」
「……。ローレシア魔法王国、聞いているでしょう、いまの状況」

 コートニーさんは声の調子を変える。
 彼女の言っていることはわかる。

 というのも、いま、ローレシア魔法王国は”かなり大変な状況”らしいのだ。

「でも、だからこそ、戻らないといけません」
「そうね。あなたもまた貴族ならば、旗色を明らかにし、領地のために動かなくてはいけないのでしょう」
「はい。そのつもりです」
「頑張ってね。まさか、あなたが戦争ごときで命を落とすとは思えないけれど。もし死んだら棺くらいは踏みつけてあげるわ」

 そんな最悪の死体蹴りしないでください。

「ふふ、冗談よ。貴族のウィットというやつね」
「いや、全然面白くないですけど。まじで友達いない人の典型ですよね」
「……。友達はいるわ。というよりなに、そもそもその曖昧な友達という概念は。どんな存在なのかしら? 色は? 匂いは? 意味不明だわ。定義をはっきりさせてくれる?」
「いいです。もうこれ以上、僕を辛くさせないでください」

 コートニーさん……友達の定義を真顔で求めて来る人はぼっちって相場が決まっているんです……。

「呆れている風だけど、私にだって友はいるわ」
「そうなんですか?」
「ええ。憎たらしい田舎貴族がね。殺してしまいたいと常々思ってる。軽薄で恐ろしく不遜な男よ」
 
 彼女は肩にかかった黒髪をはらった。
 それ友達じゃないじゃないですかねぇ。
 でも、コートニーさんに友達いたのか。よかったよかった。
 ぼっちは可哀想だからな。これで俺も安心して旅立てるよ。

「では、僕はこの辺で」
「王都へ来たら顔をだしなさい。踏みつけてあげる。これが嬉しいんでしょう」
「はいはい、ありがたき幸せでございます」
「とんだド変態ね。去勢してから出国しなさい」
「なんて返しても悪口が出てきますね。天才ですよ」

 彼女はくすっと微笑む。

「じゃあね、アルドレア君。また」

 コートニーさんは踵をかえし、野良猫をひろって抱きかかえると、屋敷へと帰っていった。やはり猫好きです……。

「さて、最後のやつに会いに行くか」

 




 暗く湿った地下牢。
 水滴のしたたる音が空虚に響いている。

 俺は冷たい檻のなかをのぞきこむ。
 鎖につながれた手首。
 その先を落とされ、二度と杖を握れないだろう老人がいた。

「ノーラン教授」
「…………あぁ、君か」

 すっかり痩せ細り、覇気のなくなった風貌だが、この老人はたしかにあの巨星のごとき権威者にして魔術師、ノーラン・カンピオフォルクスその人である。

「私を教授といまだに呼ぶのは、君だけだよ、ミスター・アルドレア」
「悪いとは思っていませんよ。あなたは成るようになっただけだ」
「あはは……そうだな……この惨めな結末、なんということか」
「ノーラン教授、どうして僕を呼びつけたのですか。悪態をつくためですか」

 ノーラン教授はのそりと顔をあげ、俺を見つめて来る。
 
「ミスター・アルドレア、気をつけたまへよ」
「……」
「……彼らは、君に深い興味を示している……」
「彼らって?」
「……恐ろしい怪物どもさ。公社を通じて私は怪物の社会をかいま見た。あはは……笑ってしまうよ……君の、この先にめぐる悲惨な未来を思うとね……」

 ノーラン教授は歯を剥き出しにし、引きつった笑い声をあげていた。

「家族がまだ生きてるといいな、ミスター・アルドレア……」
「……どういう意味だ」
「いひひ、あはははっ、おほほほ……っ、さて、どういう意味だろう、こんな老骨だ、もう忘れてしまった……」
「そうですか。では、もう話すこともありませんね」

 俺は腰をあげ、牢屋をあとにする。

「ミスター・アルドレア、頑張りたまへよ、せいぜいね! あーははははっ!」
 
 地下牢には醜悪な罪人の笑い声がいつまでも響いていた。
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