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第六章 怪物派遣公社
月間決闘大会 1
しおりを挟むまさかこれほどの大会だとは予想できなかった。
広大な中庭を埋めつくす群衆。
四方をぐるっと見渡せば、校舎の窓から身を乗り出したり、縁に腰掛けてハンバーガーみたいなの食べている学生もいる。
スポーツの試合観戦をしにスタジアムにやってきたみたいだ。
「アルドレア君、これを着なさい」
「ローブですか。学生さんたちの着てるのと同じですね」
「文句でもあるのかしら」
「いや、別に。……ただ、『ヴァンパイアスカーレット』みたいに専用の衣装はないんだなぁ……とは思いますけど」
「やっぱり文句があるんじゃない」
「疑問ですよ、素直な」
「語るまでもなくそんなものはないわ。決闘サークルをたちあげたのが7日前だもの」
コートニーさんは自身を貶められると、脅威的な行動に出るのは俺もよく知るところである。
おそらく、その7日前とやらに、出場決意を固めさせる事件があったのだろう。
一時的に貸し与えられたローブに袖を通し、ドラゴンクランの学生になった気分に浸る。
熱気に包まれた中庭に、此度出場する決闘サークルたちが横並ぶ。
我ら『にゃんにゃんキャット』もその末席に名を連ね、当然のように決闘魔法陣のなかへ。
ほかのサークルと比べて明らかに人数が少ない。
というのも、ほかのサークルは出場選手こそMAX8名であるが、それは決闘サークルに所属するメンバーが8名であることと同義ではないからだ。
こと強豪サークルとされる『ヴァンパイアスカーレット』と『シルバーヴェアヴォルフ』には80名以上の決闘に秀でた学生が在籍している。
ほかのサークルも40名~50名はいる。
月間決闘大会に出てくるのは、各々サークルから選ばれた、単純な話、最も強い8名だ。
ゆえにこそ、俺とコートニーさんしかいない我ら『にゃんにゃんキャット』は、名前はおろか、専用ユニフォームという意味でも、人数という意味でも、もういろいろと酷い。それは悲惨なほど。
あっさりとした開会式を終えて、トーナメント表が大会運営によって張り出される。そのほかにも新聞部らしき学生らがトーナメント表を配ったりしている。
学生たちはみんなこの行事に慣れているのか、開会式が終わるなり、迷いない足取りでトーナメント表を受け取りに行っている。
「アルドレア君、私たちはツイているわ」
大会運営のテントから戻ってきたコートニーさんは言った。
トーナメント表をつきつけるように見せて来る。
初戦で『ヴァンパイアスカーレット』と当たるようだ。
「愚昧な彼らをそうそうに始末できるということよ。楽しみね」
「どうしてそんなに『ヴァンパイアスカーレット』を目の敵にしてるんですか」
「目の敵? なんの冗談かしら。あれは敵ではないわ。踏みつぶすだけの存在よ」
「それじゃあ、どうして目の敵にされてるんですか」
「知らないわよ。低能な人間が抱く感情なんて。そんなものとは私は無縁だもの。……かつて竜の霊峰に剣をたずさえて挑んだ蛮勇の物語を知ってるかしら」
「いえ、初めて聞きました」
「身の程知らずで、己が至強と己惚れた英雄は、鋼の剣一本を手に、賢者たちの言を聞かず、届きえぬ天へ手を伸ばしたの。英雄は竜の山へ登ろうとしたけれど、山の登り方を知らなかった。そのうち体力は尽きて、冷たい風と雪のなかで、成すすべなく死んだ。竜に会うこともままならずね」
教訓だろうか。
知恵に敬意を持つ魔術王国らしい逸話だ。
「いまあの者たちが挑もうとしているのは霊峰。私と言う名のね。格上相手に跳ねっ返る愚かさをその身でわからせる」
「コートニーさんもわりと跳ねっ返てたような……」
「なにか言ったかしら。よく聞こえなかったわ。もう一度言える、アルドレア君」
「なんでもないです」
やがてトーナメントの第1回戦が始まった。
天下のドラゴンクランの決闘サークルがどんな戦いをするのか、興味を持って観戦する。
最初は『シルバーヴェアヴォルフ』と『シープブルー』
銀狼と青い羊。名前に格差を感じるマッチだ。
それぞれのサークルが選出した8名が決闘魔法陣のそばに並び、一番手が入陣、教員が審判をするなか、魔術の撃ち合いがはじまる。
戦いのレベルは……きっと高いのだろう。
ほとんどは一式の属性式魔術の撃ち合いで、それゆえに高速詠唱から実際に”現象”発生まで、優に1秒を切っている。
それだけの速度で魔術を撃ち合えるだけの魔力量を持っていることもすでに出場者が優れた魔術師であることの証だ。
なおかつ敵に当てる精度を持っている。
魔術を魔術で打ち消す抵抗《レジスト》を成功させるには、魔術を撃たれた箇所にピンポイントで杖先をもっていき防ぐ、弾く、返報するという技術を要求される。
このやりとりが生まれるだけで超高度な魔術の戦いだ。
撃つ側は相手のレジストしにくい足首あたりを狙ったり、上半身と下半身を撃ちわけたりする。だが精度がないとこれはできない。高速詠唱から高精度の魔術を撃つのには長い修業が必要だ。……って昔、アディが言ってた。
レジストする側も言うまでもなく難しい。
どこに撃ってくるかわからないから。
だから、基本はレジストする側が不利になるので、すぐに反撃を行っていつまでも相手に撃ちまくらせないという攻守の切り替えを行う。
攻撃に使おうと思っていた魔術を、相手の方が詠唱がはやく終わったからと、レジストに回したり、相手がうっかり早まってレジストするのを期待して遅延《ディレイ》を掛けたり。こういうのが決闘における上手さだ。……って、今コートニーさんに解説してもらった。
7秒ほどで初戦の決着がついた。
勝者は『シルバーヴェアヴォルフ』の選手だ。
その後もこの銀狼の選手はリードを重ね、5対1で『シープブルー』を圧倒した。
という訳で俺たちの出番がやってきた。
コートニーさんと俺が決闘魔法陣の外に隣立つ。
向かい側に深紅のユニフォームに身を包んだ選手たちが並ぶ。
皆、体格もデカくて、上級生が集まっていることがわかった。
というか、だいたいみんな俺たちより背が高い。
そも月間決闘大会というのには下級生が出る大会じゃないのだろう。
む。比べてみるとコートニーさんのサイズ感がちいさく感じる。
「そういえば、コートニーさんって何年生なんですか。みんな年上に見えますけど」
「一回生だけれど。どうして」
「……一回生ですか。いまいくつですか」
「年齢など能力の優劣を語るうえでさしたる意味を持たないと思うけれど。人に物を聞くなら自分から情報を開示しなさい。与えられたいのなら、まずは自分から相手に与えるものよ」
「妙に含蓄のある言葉を……。俺は見た目通り15ですけど」
「奇しくも同じ年ね」
はあ……態度がデカすぎててっきり3つくらい年上だと思っていた。
「向こうの作戦会議が終わったみたいだわ。そこで待っていてくれる、アルドレア君」
「頑張ってください。応援してます」
「……そう」
コートニーさん入陣。
敵方も入陣。
観戦する学生たちからの視線が360度から刺さってきて痛い。
俺たちが勝つなんて誰も思ってないのだろう。
深紅のローブを来た上級生とコートニーさんが決闘魔法陣のなかで向かい合う。
こうしてみると中学生と大学生の対峙する構図に見える。
実際それくらいの年齢差だろう。
「来たか、天才コートニー・クラーク」
「……」
「聞こえてるだろう。返事をしろ」
「……」
「──おい、てめえあんまり調子乗ってると……っ」
上級生が額に青筋を浮かべ、爆発しそうな顔で一歩踏みだした。
瞬間、コートニーさんは抜杖。0.5秒足らずの高速詠唱で土属性一式魔術《グランデ》を放つと、上級生を決闘魔法陣の外まで吹っ飛ばしてしまった。
「触らないで。汚いわ」
冷たく言い放ち、コートニーさんは肩にかかった黒髪を払った。
中庭の群集がどよめき、空気が困惑一色に染まる。
あーあ、もうめちゃくちゃだよ。どうなっても知らないよ。
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