異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第六章 怪物派遣公社

冷徹の女王さま

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 学生たちから危ない人を見る目を向けられる。
 諸君ら、その眼差しを向けるべきは俺じゃないだろう。

「冒険者を雇ったはずなのだけれど」
「それじゃあコートニーさんが依頼主ですね。よろしくお願いします、このクエストを担当することになったアーカム・アルドレアです」
「確かにあなたは宿屋に止まっていたし、旅人である可能性は高く、旅人は冒険者であることもまた然りというわけね。それじゃあ帰ってもらってもいいかしら」
「帰るわけないでしょう。稼がないといけないんですよ」
「そう。それじゃあ、これで帰ってくれる」

 コートニーさんはポケットを探ってコインを一枚渡してくる。
 500マニー。端金なんてレベルじゃねえぞ。

「帰れるわけないでしょう。はい、もう諦めて素直に僕を雇ってください」
「本当に仕方がないわ。不本意だけれど、あなたを雇うわ」
「ありがたき幸せです」
「皮肉にしか聞こえないからやめてくれる。すごく気持ち悪いわ」

 気持ち悪いは一番効くからやめて。

「クラーク様、そちらの方はお知り合いですか」
「知り合いではないわ。そうね……道端で拾った猫くらいの認識で構わないわ」
「は、はあ、そうですか」

 しばらくコートニーさんと生徒たちのやりとりを聞いていた。
 どうにもコートニーさんは大会運営のリーダー的な立場らしく、皆に指示をだして、準備を進めていた。
 まわりの生徒たちからはかなり慕われていると言うか、敬われていると言うか、恐れられていると言うか……そんな感じの扱いをされていた。
 
 孤高。
 それが、俺の抱いた印象。
 この少女にふさわしい単語である。
 
 学生さんが「どうぞお掛けになってください」と椅子を用意してくれたので、断る訳にもいかず座って待っていると、話がひと段落したようなので、改めてコートニーさんに声をかけた。

「コートニーさん」
「なに。そのいやらしい眼は」
「そんな目してません」
「そうかしら。私は背後から注がれる湿った視線をさっきから感じているのだけれど」
「それたぶん僕じゃないですよ」

 俺は首をもたげ、向こうの方の窓辺でたむろしている学生集団を見やる。
 皆が真っ赤なローブに身を包んでいる。カラーギャングかな。
 さっきからコートニーさんを見ているのは彼らだ。
 
「コートニーさんって敵をつくりそうな性格ですもんね。お気持ちをお察しします」
「勝手に察せらても困るのだけど。敵とは脅威の別称よ。あの愚物どもでは敵たりえない。だから私に敵はいないわ」
「なんですか、その目撃者を全員殺せば目撃者がいなくなるみたいな論理」

 やっぱり、コートニーさん敵多そうだなぁ。

「ところで僕はなにをお手伝いすればいいんですか。さっきから椅子に座ってるだけなんですけど」
「そうね。ただ座られているだけで報酬を渡すと言うのも癪だわ。なにか仕事を頼もうかしら」
「なんでも言ってくださいよ。高いマニーもらう分の仕事はしますよ」
「手始めにあそこの愚物どもを血祭りにあげてきなさい」
「すみません、ほかの仕事でお願いします」
「使えない冒険者ね。ほかの人を雇おうかしら」

 辛辣すぎです。
 本当に難しい人だ。

 コートニーさんは細い肘をだき「そうね」と顎を手を当て思案する。

「いいことを思いついたわ。悔しいけれどあなたの魔術師としての腕前は最高よ」

 いきなり褒めて来たな。
 なんかあるぞ。俺は知ってるんだ。

「あなたを『月間決闘大会』に参加させてあげる。存分に血と肉を喰らい、愚物どもを蹴散らしなさい。ええ、それがいいわ」
「あの、それ、本当に依頼内容でしたか? たしか大会運営の手伝いとかだった気がするんですが」
「プランCよ」

 プランAとプランBはどこへ行ったんですかねぇ。
 どうせ教えてくれないんだろうな。

「ところで『月間決闘大会』ってなんです」

 コートニーさんは時々、俺を小馬鹿にしながら説明してくれた。
 ドラゴンクランでは毎月『月間決闘大会』が開かれる。
 大会には決闘サークルなるグループが出場し、毎月の優勝サークルを決めているらしい。
 ちなみにさっきコートニーさんを睨みつけていたのは最強の決闘サークル『ヴァンパイアスカーレット』らしい。
 
 コートニーさんは饒舌に喋るなかで元の依頼内容も話してくれた。
 どうにもコートニーさんが所属する決闘サークル『にゃんにゃんキャット』のメンバーが急遽大会に出られなくなったので、人数合わせのために雇ったらしい。
 俺としては魔術経験もない謎の助っ人がくる可能性がある冒険者ギルドで呼ぶより、普通に学校内で募集した方がいいと思ったが、どうにも『にゃんにゃんキャット』はかなり異色のサークルらしくそれができないらしい。

「正確にはもうできない、かしら」
「もうできない?」
「全員腑抜けだったのよ。これまでに36人の学生に声をかけて、杖を突きつけ脅し、私の決闘サークルに入れさせたけれど、なぜか皆、逃げてしまうのよ」

 理由はこれ以上にないくらい明白では?

「決闘サークルは必ず2名以上必要。だから、誰かをメンバーに据えないと私は『月間決闘大会』に出られない。理解できたかしら、アルドレア君」
「はあ、まあ、一応は。ところでそのにゃんにゃん……コートニーさんの決闘サークルにはいま何人のメンバーが」
「? おかしなことを訊くのね。言わなかったかしら。『月間決闘大会』に出るためには決闘サークルをつくる必要があると」
「ええ。だからコートニーさんの決闘サークルには何人のメンバーが在籍してるんですか。籍さえ残っていればサークルとしての形は保てるのでは」
「私だけよ。言ったじゃない、36人の助っ人を入れ替わり立ち代わりすげ替えたって」

 ああ……36人勧誘したんじゃなくて、『にゃんにゃんキャット』の2人目のメンバーが36人いたけど、みんないなくなったって意味だったのね。
 じゃあ、今のサークルメンバー、コートニーさんひとりじゃん。
 
「さてそれじゃあ37人目の2人目のメンバー君、覚悟のほどはいいかしら」
「いったい何をやらされるんです……」
「最強の決闘サークルなどとのたまい、私へ挑戦して来た『ヴァンパイアスカーレット』を今日滅ぼすのよ」

 コートニーさんは今回の『月間決闘大会』の参加サークルと出場者表を見せて来る。
 1サークル8人まで出られ、形式はトーナメントの団体戦。
 出場サークル12あるうち、なぜか一番下のサークル『にゃんにゃんキャット』だけは出場者2名で団体戦に挑もうとしている。

 そんなファンキーなことをしているのは目の前で、肩にかかった黒髪を払い、冷たい微笑みをたたえている少女であるようだ。


 ──4時間後


「さあ、今月もやってまいりました! 『月間決闘大会』! 新暦3062年秋一月を制するチャンピオンはどこのサークルなのでしょうか!!」

 陽気な放送部の実況が中庭に響き渡る。
 体育祭を思い出すほどの熱気につつまれ、いざ、大魔術学院で学生たちの本気がぶつかりあおうとしていた。
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