上 下
179 / 306
第六章 怪物派遣公社

大会のお手伝いに来ました

しおりを挟む


 コートニーさんを木剣で殴り飛ばした翌日。
 俺は朝早くから出かけていた。
 
 魔球列車には仕事にでかける大人と、ドラゴンクランへ向かうのだろうか、年若い者たちがちらほらと見受けられる。

 懐中時計を取り出し時刻を確認。
 盤上の針は午前7時を示している。
 この世界の1日が30時間あり、午前が15時間あることを顧みれば、ただいまの時刻は、地球の感覚で午前5時くらいのイメージだろうか。

 町を歩いても人は少く、列車に乗ってようやく密度を感じる。
 この場にいるだけでどこか特別な非日常に迷い込んだ気になる。
 自分以外の多くの人間はまだ覚醒を知らず、ふとんのなかでぬくぬくとしているのだ。
 ゆえに俺は早朝というものが好きだ。
 
 街並みを眺めているとあっという間に3段層にたどりついた。
 降りて道なり歩く。
 知らない道だし、来たことのない場所だが、あの学生たちについていけばたぶん大丈夫だろう。

 しばらく後。
 通りの奥にやばいものが見えて来た。
 すごいではない。やばい、だ。

 その建築を一言で表すなら天元突破、超巨大時空要塞といったところだろうか。
 とにかくデカい。
 ほかの建物群とはスケールが違い、その建物だけ巨人の手によって建造されたかと見間違うほどの、赤茶けた城がそびえ立っているのだ。
 そのサイズは段層間をへだてる200m近くの絶壁よりも大きく、城が3段層に建っているのに、その上層部は4段層を越えてしまっている。
 城にそなわる高塔の多くは絶壁より背が高く、目測400m級の塔もいくつもある。

 たとえその建物がなにか知らずとも、この王都、ひいてはアーケストレス魔術王国において大きな意味を持つ場所だと言うのは、どんな愚かな頭をもっていても理解できるだろう。

 もっとも俺は知っているが。

 学生たちのあとについていき、赤茶けた城の敷地へ。
 門をくぐれば、広大な庭をつっきる一本道がある。
 苔むした花壇と経年劣化でいたんだ石レンガの道が、積み重なった時間をいまに伝えている。
 
 真昼間だというのに、古びた城門に埃臭さ感じ、エントランスへ足を踏み入れる。
 
 さて、学生の案内もここまでだ。
 事務室っぽいところを見つけたので話を聞こう。

「失礼します。クエストのために来たのですが。中庭へはどうやって行けばいいか教えていただけますか」
「どちらの依頼か確認をさせていただいてもよろしいですか」

 俺は冒険者ギルドから発行された依頼書を見せる。
 事務員はいくつかのリストを眺めて「ああ、月間決闘大会の」と納得した顔になる。

「通路を右へ進みますと左手に見えてきます。運営の生徒さんたちはもういると思いますよ。それと校舎のなかでは冒険者メダリオンを見えるところにつけておいてください。それは外部の人間であることの証明になりますので」

 Cランクのメダリオンを外套の胸元につける。
 もっとカッコいいの付けたいなぁ、などと漠然と思う。
 人に見られるとなると、やっぱりCではそこまで恰好付かない。
 
「ご親切にどうも」

 一言礼をつげ、言われた通りに進む。
 朝の静けさがしんみりとした人気《ひとけ》のない廊下に澄み渡る。
 俺の靴音だけがカツカツと響く。
 
 右手に窓を発見。
 ガラスは嵌ってはない。
 うっかり身を乗り出せばそのまま転落する吹き抜けの窓だ。
 もっとも1階なので落ちるも何もないが。

 顔をのぞけば広大な中庭がひろがっていた。
 一面が緑色の芝で生い茂っており、魔法陣がいくつも設置されている。
 模様から察するに先日の『決闘魔法陣』というやつだろう。

 中庭に降りてみることにした。
 窓をひょいっと乗り越えて、芝を踏みしめる。
 
 ここに依頼主がいるというが。

 む、向こうのほうに数人の生徒らしき人影を発見。
 近くに机と椅子のようなものがあり、テントが設営されている。
 大会運営という色眼鏡を通して見れば、なるほど、あそこに俺の依頼主がいると確信できた。

「あら。まさかこんなところでそのいけ好かない田舎顔を見ることになるとは思わなかったわ」

 こ、この声は……。
 なんでこんなところに。
 いや、まあ、ここの学生だったな。

「おはようございます、コートニーさん。昨日さんざん木剣で殴られて泣いてましたけど、今朝はずいぶん調子を取り戻したみたいですね──」

 向こうがあいさつ代わりのジャブを打ってきたので俺も小パンで応じる。

 が、

「大地よ、大いなる力の片鱗を覚ませ
          ──《グランデ》」

 コートニーさん、無言の抜杖から高速詠唱で土属性一式魔術を行使。
 足元から素材を集め、三角錐《さんかくすい》を作りだすと、撃ちだしてきた。もちろん三角の一番尖った部分を先端にして。殺意が高すぎる。
 基礎詠唱は『集積』『発射』。形状を整えるため、すこし『操作』も入ってるか。
 剣気圧があれば拳で叩き落としてもいいが、あいにくと俺に圧はない。
 
 アマゾディアを抜剣し、素早く刃をあわせる。

 ガヂンッ! と火花が激しく散った。
 岩石弾は岩石弾でも金属質をふくんだ高度な岩魔術だ。

 凶悪な形状の岩石弾を両断、破片は俺の後方へ飛んでいく。
 圧がなくてもバターのように岩を斬れた。
 ジュブウバリ族の宝剣じゃないナマクラでは、剣が折れているところだ。

 ほっと一息をついて剣を鞘に収める。

 顔上げると、テントの近くにいた生徒たちが唖然としてこちらを見てきていた。

「クラーク様の岩石弾を……っ!」
「嘘だろ! 鋼と変わらない硬度って話なのに!」
「剣豪だ! 本物の剣士ってすげえ!」

 学生たちには剣をふりまわす人間は珍しく移ったようだ。
 沸き立つ運営の生徒たちを見て、コートニーさんの不機嫌が加速する。
 なんか喋っただけで二発目が飛んできそうだけど、ここは勇気を出さねばなるまい。
 
「こほん。あのコートニーさん、どうして僕はいま殺されかけたんですか」
「ふん。まあいいわ」
「いや、僕はよくないんですよ」
「そんなに知りたいの」
「もちろんですよ」
「そう。じゃあ、どうして殺されかけたか。明日までに考えておくといいわ」
「……もういいですよ。とりあえず今のも勝敗にカウントしときますね。これで僕の4戦4勝ということで」
「まだ2勝をあげただけでしょ。インチキをしてサバ読むのは許さないわ」

 どっちがサバ読んでんですかねェ。

「それよりも、どうしてなの。どうしてよりによってアルドレア君が来てしまうわけ。ああ、いけない、頭痛がしてきたわ」

 コートニーさんはムスッとして肘を抱き、額にそっと手をあてる。
 どうして俺が来てしまう……? どういう意味だ?
 あ。まさか……まさかとは思うけど、クエストの雇い主ってこの人のことじゃないですよね。ねえ超直観くん?

『正解ッ! コートニー・クラークこそが依頼主で間違いないぞ、アーカムッ!』

 らしいです。

 ああ、なんということでしょう!
 数ある以来の中から、よりにもよって!

 コートニーさんの依頼かぁ。
 本当に大会運営のお手伝いだけで終わるのかなぁ。

 非常に、それは非常に、おおきな疑念が俺のなかで育ちつつあった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...