異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第六章 怪物派遣公社

ギリギリを攻める

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 山頂を深い雪に覆われた竜の山脈の麓に王都アーケストレスはある。
 名の通り竜が住んでいるらしい山脈は、また偉大なる古代竜たちの住処でもあるという。
 古代竜は人類に原始の魔術を伝えたとされる存在で、アーケストレスでは智慧者として畏怖畏敬の対象となっているのだとか。

 って、この前の町で宿屋の主人に聞きました。

「見てアーカム、なんか動いてる」

 王都に入り、いくばくも歩かないうちにおかしな物をアンナが発見した。

 アーケストレスはバカデカい階段のように、段層が連なってできている。
 段層と段層は絶壁となっており、その高さは見たところ200m近くはあるだろうか。
 いかになる都市開発が行われればああなるのか大変に興味が湧く。

 アンナが見つけたおかしな物というのは、その200mの断崖絶壁に40度ほどの傾斜で掛けられた橋のようなものだ。
 橋のうえを丸い金属が連なった芋虫みたいな物が昇って行っている。

 なんだ、あれ……。

「キサラギが教えてあげます」
「頼りになるね、キサラギちゃん」
「ふふん、とキサラギは胸を張ります」

 あれ、うちの妹可愛いぞ……。

「あれは魔球列車と呼ばれています。魔力を媒介に動かしており、段層を繫ぐ大事な交通手段です。燃料は荒い魔力結晶。出発時間と到着時間表はありますが、あってないようなものだとキサラギは記憶してます」

 アーケストレスの人は時間にルーズなのかな。
 
「では、次は魔球列車のスペックについて……」

 息巻いてまだまだ語りそうな雰囲気だったキサラギが、いきなり口を閉じてしまった。

 どうしたのだろうか。

 手をキサラギの顔の前でふりふりして反応をうかがう。
 
「……兄さま、キサラギはスリープモードへ移行します」
「え? ちょ、いきなりどうしたんですか!?」
「残された時間は少ないです。もう動きたくありません。安全な場所へ連れて行ってください。こてっ」

 こてっと言いながら目を閉じてその場で完全に静止した。

「アーカム、キサラギはどうしちゃったの」
「いや、俺に訊かれても」

 残された時間とか、安全な場所とか、いろいろ物騒なワードを口走っていったけど、いったいどういうことなのか。
 俺の直観に頼ってみよう。

『これは電池切れだッ!』

 とのこと。

 なるほど、電池切れ。

 え? それって死んだんじゃないの~?(コックカワサキ並感)

 
 ──しばらく後


 決して安くはない宿の一室。
 ふわふわのベッドにキサラギを寝かす。

「キサラギちゃん、安全な場所ですよー」

 キサラギの肩をぽんぽんっと叩くと、ゆっくりと目の奥に光が戻ってきた。
 目覚めたようだ。
 
 視界端のアンナがホッとしている。
 心配してくれていたのかな。

 キサラギは寝たままの姿勢で視線を動かし、壁に立てかけてあるブラックコフィンを見つけると「Japanese Kawaii」と安心したようにつぶやいた。よかった。重たいからまじで置いて来ようと思ってたんだ。アンナが運んでくれて助かった。

「電池切れですか、キサラギちゃん」
「流石は兄さま。稀代の天才科学者であるキサラギの兄さまならば察することができると推測していました」

 俺ってそんな期待されてるのか。

「どうやらキサラギのマナニウム電池に異常が発生し、エネルギーの供給が正常に行えなくなりました」
「それは大変ですね……壊れたとしたら……」
「死です」

 すっごいストレートだ、キサラギちゃん。

「キサラギは高度な自己メンテナンスを行えます。キサラギはキサラギの身体についてすべてを知っています。ですが、それと故障を直せることは別の議論です。兄さま、手を貸してください。キサラギは断腸の思いで一生のお願いをここで切ろうと思います」
「いや、別に使わなくも手伝いますよ」
「わかりました。それじゃあ、一生のお願いは温存します」

 キサラギはむくっと起き上がると、コートを脱ぎ、スポーティなブラみたいな服を脱いで、上裸になった。

 初めてアンドロイドの肌を見たが、まるで本物のような艶と張りを持っている。
 いや、美しさを追及されてつくられている分、キサラギのそれは人類のものを越えているのかもしれない。
 これほどに質が高いとは。
 父親の変態的なこだわりが露呈していてなんか恥ずかしい気分だ。
 というか、なんか普通にドキドキする。
 
「アーカム、発情してる」
「してないです。妹に発情する兄は世の中にいませんよ、アンナ」
「ふーん、そういうものなんだ」

 すみません、嘘です。たぶん割といます。

「兄さまの心拍数が上昇しました。兄さまがキサラギに発情している確率91%──」
「そんなどうでもいい演算にエネルギー使わないで。ほら、さっさとマナニウム電池見せなさい、お兄ちゃん命令です」

 キサラギの胸がパカっと開く。
 こうしてみるとやっぱり機械仕掛けなんだなっと実感が湧く。
 
「すごい……」

 アンナは目を驚愕に見開いてる。
 たぶん俺も今めっちゃガン開きしてる自信がある。

 キサラギの心臓がある場所に蒼く発光するザ・重要器官とも呼べる装置がある。それはいくつかの装甲に守られていて、いまこうしている間にも、ひとつずつロックが解除されており、精密かつ大迫力の絡繰りが目の前で作動している。

 すべてのロックが解除される。

 キサラギの心臓部にはふたつの長方形のユニットが挿入されていた。
 サイズは縦に15cmほどで、透き通った水晶のように綺麗だ。
 
「それがマナニウム電池ですか?」
「見るのは初めてですか、兄さま」
「僕が知っているのはずいぶん形状が違うというか……洗練されていると言うか」

 恐ろしい話だが、俺が転生してから15年ほどが経過した。
 もう向こうは俺の知ってる世界じゃなくなっているのだろう。

 そう思えばキサラギの心臓マナニウム電池の神秘的な様相にも納得ができる。

「技術の進歩で純度の高いマナニウム結晶の精製が可能になりました。キサラギの心臓に使われているマナ導体は理論上、これ以上精製不可能な純度99.9%の最高品質のものです。当時の技術でこれほどの物を使用できた兵器はありません」

 コスパ度外視のプロトタイプかつ、完全な一点物として作られたからということか。

「キサラギはこのふたつのマナ導体の片方が故障しても動けます」
「それじゃあ、まだ今すぐに動けなくなるわけじゃないってことですか」
「いいえ、もうふたつとも機能していません」

 こら、やっぱり、ガタ来てたんじゃないの。
 予備が使えなくなってから申告するんじゃありません。

「兄さま、悔しいですが、お願いがあります」
「なんですか……もしかして、いっそのこと楽にとか言わないでくださいよ」
「ブラックコフィンからマナニウム電池を抜いてください。キサラギはJapanese Kawaiiを犠牲に生きながらえることを選びます」

 意外と決断する時は決断する子だった。

 というわけでJapanese Kawaiiには犠牲になってもらい、キサラギの指示のもとマナニウム電池を取り出した。
 
「む」
「どうしました」
「Japanese Kawaiiのマナ導体が壊れています。これでは交換しても意味がないです」

 詰みじゃねえか。

 どうするんすか、これ。
 助けて、超直観!

『アーカムッ! 今すぐに窓から飛び降りろッ! そうすればキサラギを救える気がするッ!』

 任せろ! ブラザー!

「とうっ!」

「いったい何を、アーカム……っ!」
「兄さまが錯乱した確率91%」

 窓下へ顔面から落下していく。
 眼下には人影があった。

 紺色のローブに身をつつんだ鋭い目つきの少女と視線が交差する。

「上方から破廉恥を働くとは、とんだ変態がいたものね」

 少女は身を翻し、突き刺すような回し蹴りで俺の顔面を打ち抜いた。
 どうして俺がこんな目に。
 もう訳がわからないよ。
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