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第五章 都市国家の聖獣
カイロ・カトレアvsアーカム・アルドレア
しおりを挟むカイロさんが決闘を挑んで来ました。
いったい何を考えているのですかね……。
「尻尾の礼はさせてもらう。そして、アーカム貴様がここに導かれた意味、確かめさせてもらう」
「言っている意味があんまりわからないんですが」
「旅立つ前に白黒をはっきりつけさせてもらう、ということだ……わん」
尻尾……ね。
言われてみれば確かに、そんなこともあった気がする。
出会った時に俺は火を放って自慢の尻尾を焦がしてしまった。
あれが俺の勝利だったのかはジャッジの判断に任せるほかないが、カイロさんのなかでは思うところがあるらしい。いや、まあ普通に焦がされたら根に持つだろうけど。
とはいえ、カイロさんとは喧嘩などしたくはない。
「でも、たぶんですけど、俺じゃカイロさんに勝てないと思いますよ」
やんわりと決闘を拒否する。
半分は本音。
半分は謙遜。
ハイパーモードを使えるならまだしも、カイロさんは武闘派魔術師、おそらく戦闘速度についていけない。一方で俺も狩人流剣術を修めた魔術剣士なので、速さにはそこそこ慣れている。魔術の展開速度もおそらく魔術師の中ではトップクラスだという自負もある。カイロさんには無詠唱が使えないということも知ってる。
「我はそれでは納得できないと言っているんだ。さっさと剣を取れ。いや、それとも杖か」
カイロさん止まる気配がありません。
アンナさんがいれば「うちのアーカムにちょっかい掛けないで! このわんころ!」って言ってくれるのに(※言わない)
まあ、そういうことなら仕方がない。
ジュブウバリ族の里では決闘は神聖なる儀式という側面があるのだとカティヤさんに教わった。真の戦士たる族長さんから宝剣アマゾディアを受け継いだアマゾロリアとして、この狼カイロさんの決闘も無下にするわけにはいかない。あとどうでもいいけど、アマゾディアとアマゾロリアって早口言葉みたいね。
「わかりました」
カイロさんに連れられて暗い廊下をゆきます。
見慣れた道。これは聖獣さまのいる大祭壇へと続く道。この世界とは隔絶されたクリスト・カトレアの地下に隠匿された異空間へとつながる通路だ。
吐く息が白くなってくる頃、俺とカイロさんは文字通りの聖獣のお膝元へとやってきた。遥かに高い天井を見上げれば聖獣がくっついているのが見えた。思い返せばアレがほかの誰にも見えていないというのだから不思議なものだ。
聖獣の遺骸たる全長100mを越える白骨は横たわるそのまで、俺とカイロさんは向き合った。彼女の氷のように澄んだ瞳が獰猛に睨みつけて来る。
「この聖域が傑物を決めるにふさわしい。わん」
「そうですかね……。ここ超能力者を封印している棺とかあるし危ないんじゃ……」
「いいからやるわん(強引)」
やるわん。
「わかりましたよ」
なんだか頑なだ。
焦っているというのかな。
とにかく俺をぶっ倒したくて仕方ないらしい。
怪我しないように勘で頑張りますか。
「あ、カイロさん、これ別に命の奪い合いとかって話じゃないですよね?」
カイロさんに背を向けて10歩ほど離れ、振り返り、俺はたずねた。
その時には目の前まで氷の礫が迫ってきていた。
────
アーカムは飛来する氷礫を視認するなり、杖に手を伸ばした。
《ウィンダ》でもって風の爆発を起こし、衝撃波で氷礫の射線を逸らす。
風の衝撃波は一瞬だけ盾として機能することで、術者を守った。
速さに対応し、卓越した魔術技能を修めた者にしかできない。
アーカムが無詠唱で魔術を唱えられ、かつ狩人流剣術を納めているからこその早業である。
「流石に速いな、アーカム。わん」
「カイロさん、そこまで堕ちましたか……もうちょっと正々堂々来ると思ってました」
「うるさい、行くぞわん!」
カイロは杖を構え、高速詠唱を行う。
「白の星よ、氷雪の力をここに
あまねく神秘を──」
先に詠唱をはじめたカイロの声をごく短い言葉が斬り捨てる。
「《アルト・ウィンダ》」
トリガーだけ詠唱し放たれる風の砲撃。
高濃度の魔力を込められた広範囲攻撃だ。
アーカムはトリガーを口にせずとも魔術を行使できる。
トリガーだけの詠唱は、無詠唱による属性式魔術発動を行える者が、敵対者に魔術の発動と種類を教えるディスアドバンテージを取りながら行う最短縮詠唱だ。
ただ良い事もある。
無詠唱よりも威力を底上げできるのだ。
風が薄氷をめくりあげ、割りながらカイロに襲い掛かる。
カイロはアーカムの速さを知らないわけではなかった。
とはいえ覚悟していれば対応できるというものでもない。
「ぐっ!」
面で捉える風の砲撃によって全身を強く打ち付けた。
カイロは勢いよく吹っ飛ばされてしまった。
大祭壇の前を、薄く氷が張った地面を転がっていく。
カイロは腕を獣化させ、鋭い爪を生やすことで勢いを殺して、体勢を立て直す。
地面に10メートルに渡る8線の爪痕を残し、ようやく体が止まった。
ガバっと顔をあげて、今しがた強烈な一撃をお見舞いしてくれた野郎《アーカム》を視界にとらえる。敵は右手に軽く杖を握って、リラックスした顔つきでゆっくりと歩いて来ていた。闘争のなかでそんな顔ができるのは猛者の証だ。カイロはアーカムの足取りに、その過酷な軌跡をかいま見た気がした。
アーカムの口元がわずかに動いている。次の魔術は完全詠唱を行うらしい。カイロをして冷汗が噴きでる。
(くっ、吹っ飛ばされて大勢を立て直している間に詠唱をされてしまうわん)
このままでは後手後手だ。
先手を取ったとしても、カイロではアーカムの詠唱速度にまるで追いつけない。
そのことは身に染みてわかった。
放てない魔術を詠唱したところでなんの意味もない。
では、どうするか。
「がるるるっ!」
カイロは獣化した両腕で思い切り地面をぶっ叩いた。
獣の腕力で聖域全体が揺れ、亀裂がバキバキと広がっていく。
思わずアーカムは膝をついてバランスを崩した。
その隙に、カイロの身体はみるみるうちに青と白の毛に覆われていった。
瞬く間に体長30mにも及ぶ大狼へと変身を遂げた。
「聖獣のチカラ。今度は俺に向けられるか」
「この姿を使ってやること光栄に思うがいいわん! でも、一応、手加減はしてやるわん!」
「……わん」
「前言撤回! 骨の二、三本は覚悟するわん!」
カイロは高らかに遠吠えをする。
直後、聖域のあちこちから白の毛に覆われた狼たちがあらわれた。
「魔力獣……いや、フェンロレン・カトレアの上澄み、か。カイロさん、本当にいろいろ持ってる」
「がるるるる!」
召喚された20体もの狼と大狼がアーカムへと襲いかかった。
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