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第五章 都市国家の聖獣
かなり大した者
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青年と少女がハブレスのすぐ目の前までやってきた。
アーカムとアンナと、2人を案内していた騎士は立ち止まる。
ブラスマントに仕えているこの騎士からしてみれば、姫がこの場にいるのは段取りにないことなので、しどろもどろするほかない。
「あ、あのハブレス様?」
「こほん。わたくしはブラスマント家長女ハブレス・ブラスマントと申します」
ハブレスは騎士に構わずにアーカムたちへそう述べた。
「王女陛下でありましたか、これは失礼いたしました」
アーカムは淀みなく返して、一歩下がる。
アンナも同様だ。
魔法王国の貴族である2人には教養がある。
他国の王女相手に、ボサっと立っていてはいけない。かと言って、かしこまりすぎることもない。非公式な謁見でり、忠誠を誓う魔法王国の王家相手でもないので、あんまり自分たちを卑下しすぎてひざまづいたりはしないのだ。それはやりすぎであるからだ。膝をつくべきは、魔法王国の王家に対してだけ。もちろん、礼儀上の意味合いで、であるが。
アーカムとアンナはそれぞれが、自身の身分を明かした。
ドリムナメア聖神国では狩人協会協会員という身分があったので、目立ったことはできなかった。ペグ・クリストファ都市国家連合では話が別だ。
2人とも貴族家の子息子女という格式ある身分がなので、名乗っていったほうが、身分のある者と認識され、物事が円滑に動くようになる。
「ご丁寧にありがとうございます。お二人ともローレシア魔法王国の貴族家のご出身だったとは」
ペグ・クリストファ都市国家連合の一国クリスト・カトレアと、ローレシア魔法王国では、比べるまでもなく後者が圧倒的におおきく、強く、歴史があり、国力が高い。
「この度はクリスト・カトレアの非常事態に対応してくださり、誠にありがとうございます。ブラスマント家を代表して謝意を述べさせてください」
「力ある者が事態の解決を図るのは当然のことです。そうかしこまらないでください、ハブレス王女殿下」
「大きな困難に立ち向かうことは誰にでもできる事ではないですよ、アルドレア殿」
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
「して、カトレア家とブラスマント家のことはご存じなのでしょうか……?」
ハブレスはわずかに声の調子を変えて聞いた。
やや曖昧な聞き方だが、アーカムは彼女の言葉の意味を正確に理解する。
「……。はい、存じ上げております」
一瞬、間をおいて、アーカムは答える。
通常、ひとつの国に二つの王家はない。
クリスト・カトレアには外面的には表の王家も、裏の王家もないのだ。
そのことを部外者であるアーカムとアンナが知っていることは、語らずとも、ブラスマント家にとって大きな不安材料になることは自明である。
(ここは釘を刺しておいたほうがいいですね……)
「こほん。アーカム殿、その事実をあなたが語ることは──」
「なにをしている。わん」
ハブレスの言葉が遮られ、大螺旋階段の扉が内側から開け放たれた。
青白い重厚な鎧に身を包んだ騎士が二名いた。カトレアに使える精強な戦士たちだ。彼らに挟まれるようにして狼フォルムのカイロがいた。
カイロは青白く輝く眼差しをギロギロと動かす。
「遅いと思って来てみれば……ハブレス、貴様が心配することはなにもない、わん。カトレアの友人を通せ。彼らは先を急ぐを身だ。わん」
「で、ですが、カイロ様……」
「こいつらは話がわかるやつらだ。聖獣に気に入られているのが証拠だわん」
「っ、せ、聖獣さまと? もしかして、彼らは聖獣さまと接触を……?」
ハブレスは驚愕に息を呑む。
太古の神話から語られてきた存在、それが王城の地下深くに潜んでいることは、幼い頃から教育係のばあやの話で聞かされていた。
(昨日、大螺旋階段を下りた時も、たしかに言い知れぬ神秘の存在を感じましたが……まさかその神秘の主に気に入られた? この者たちが? 魔法王国のよそ者なのに? なによりも、モフモフに認められるなんて羨ましすぎます……!)
「アーカム、見せてやれ……わん」
アーカムは不穏な場の空気に億劫そうにする。
カイロはそれでも鼻をヒクヒクさせるものだから、彼は仕方なく腕を軽く持ち上げると、手のひらのうえにちいさな氷の華をつくりだしてみせた。
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