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第五章 都市国家の聖獣

どうしてこの策が有効だとわかったんですか?

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 キサラギ砲が荒垣とすれ違いざまに放った斬撃は3回だった。
 
 一撃目で首と胴体を斬り離した。
 二撃目で胴体と腰を斬り離した。
 三撃目で頭をスイカ割りのように粉砕した。

 甚大なダメージを受けた荒垣は、ヒーリングをする間もなく穴の底へ落ちていった。

(イカれた殺戮アンドロイドめ……! なんて速さだ……!)

 肉片どうしがにょきにょき集まって、荒垣と言う生物を再構築していく。
 頭部を治し、胴体とつなげ、両足で立てるようになる。

 ここは地下300m。
 空が見える。ほとんど点だが、あの青いのは空なのだろう。穴底は程々に明るい。円柱状の巨大な縦穴が昼間の明かりをじかに注いでくれるおかげだ。
 ただ、直上からふりそそぐ太陽の光がとどかない場所はまっくらだ。舞った塵埃が光と影の境界線を克明に浮かび上がらせている。

「──《イルト・ポーラー》」

 暗がりから、氷の放射は行われた。

「ッ、爆ぜろ──クリオキネシス!!」

 荒垣は機敏に反応し、氷の放射を霧散させ無効化する。
 氷属性式魔術は攻撃魔術としての意味を失って、冷たい煙幕となった。
 その向こう側、暗がりに杖を構える人影があった。穴の直下と、暗がりとでは光と影のコントラストが強く、そこにいるのが誰かは不明だ。
 ただ、かろうじて胸元あたりまでは光の照り返しで視認できた。

(胸の膨らみがあるな……つまり女だ……伊介天成《アンナ》のほうか。操り人形だけでなくお前も魔術も使えるとは、本当に器用なやつだね)

 荒垣は脳で考えるよりも早く二重化《ダブル》を発動。迎撃体勢をとった。
 
「もうヒーリングで復帰していたのか、いや、それにしては早すぎる。まさか、スルトの焼却をかわせたのかな? 摩訶不思議なこともあるものだね、伊介天成」

 言いながら2人の荒垣はサイコウィップで武装する。
 暗闇のなかで荒垣を見据えてくる青白い眼光。

「どうやってスルトの焼却を避けたのか参考までに聞かせてもらえるかな、たぶんに興味があるのだよ」
「……」
「どうした、やはり喋らないのか」
「……。たぶん勘だ、わん」
「…………わん?」

 聞き覚えのない声に荒垣が困惑した瞬間。
 事態は動く。荒垣の背後の暗闇から氷の槍が飛んできたのだ。

 不意打ちである。
 しかし、荒垣の片割れはニヤリと笑みをふかべる。

(馬鹿な作戦だね。伊介天成が復帰するには速すぎる。つまり、焼却をなんらかのほうほうで躱したの可能性が高い。イコール、さっきから魔術でわっちをイライラさせてきた操り人形の男が生きていることは自明じゃないか!)

「はは、伊介天成が氷魔術を使うことで、わっちを油断させる作戦だったんだろうが、それは通らないよ。わっちを舐めすぎだね」

 荒垣は背後から飛んでくる氷の槍もクリオキネシスで霧散させてしまう。
 氷の煙幕がぶわっとひろがり濃霧ような冷気が立ち込める。

「さて、お次はどうするのかな? 君たちどちらもわっちからの距離は10mはあるよ」

(もっとも警戒するべきはあの冷たい剣の間合いのみだからね。距離をリセットできたのは嬉しい誤算だよ。わっちは勝てる。冷静にサイコウィップの比重を伊介天成《アンナ》へ注いで、近づけさせず完封する。操り人形からの氷はクリオキネシスで迎撃可能。──見えた、これが勝利の方程式だ)

 荒垣は内心で勝利を確信する。
 暗がりの伏兵、シルエットがわずかに女だとわかるその者を警戒する。
 あれを近づけさせなければ勝ちだ、と。

 そんなことを思っている時のことだった。
 アンナが氷煙のなかから飛びだしたのは。
 すぐ目の前の濃霧からきらめく鋒を構えて、大きく踏み込んで来たのは。
 
(ッ?!)

 驚愕するしかない荒垣。
 アンナはすぐ目の前、間合いは1mと数十センチ。 

 回避行動を取るには、その間合いはあまりにも近すぎた。
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