上 下
158 / 306
第五章 都市国家の聖獣

それいけ、キサラギ砲

しおりを挟む

 22世紀の地球においてレールガンはごく一般的な兵器であった。
 大きなものは艦艇につむ全長10mの超砲、ちいさな者はデザートイーグル程度のサイズの拳銃まで、その技術は戦場でおおきな活躍をすることが期待されていた。
 
 しかし、マナニウムを活用したエネルギー兵器の実戦配備により、連射性能で大きく劣るレールガンの携帯武装としてのニーズは小さくなっていった。

 合理的な戦いを求めるうえで、レールガンの活躍する場所は、ミサイルの迎撃を担う超長距離砲か──あるいは超能力者の狙撃くらいしか残ってはいなかった。

 
 ────

 
 荒垣シェパードは遥か地下の戦いから一時撤退をすることにした。
 神の墓で発掘したスルトを使い捨て、直径15m、深さ300mの縦穴をクリスト・カトレアの市街地に穿った。
 仮にもパーフェクトデザインとヒーリングを保有する伊介天成が、その程度で死んだとは思っていなが、細胞レベルで焼き尽くせば、カテゴリー4の彼では復帰まで時間がかかるとは見込んでいた。
 超能力者でない操り人形に関して言えば、間違いなく焼却されただろう。跡形も残ってはいないじゃずだ。──それが荒垣の推測であり、狙っていたことだ。

 荒垣の方は、すでに細胞レベルでの焼却から復帰し、こうして上空へ逃れることができていた。復帰が伊介天成よりもずっと速い証拠だ。

(よし、戦況のリセットは完了だね。わっちの架空機関のクールダウンを待って、距離を保ち、アウトレンジで一方的に嬲り殺してやろうかな。あの剣術とやらは危険だからね。そのためには、あの地下通路ではなく、より広い戦場がのぞましい)

 荒垣は二重化《ダブル》を解除する。

(これでストレージを40%確保だね。伊介天成は操り人形を失った。大幅な戦力喪失だ、あるいはクールダウンさえ完了すればこちらから乗り込むのもアリかな? うーん、悩ましい。最悪あと5回スルトは使えるが……)

 荒垣はゆっくりと一手一手詰めていこうと、思考を働かせる。
 すでに戦場離脱した彼にはいくつもの選択肢があるのだ。

「ん?」

 空をふわふわと飛ぶ荒垣は、ふと、視線を地上の穴から移動させた。
 なんとなくだった。
 クリスト・カトレア中央に位置するブラスマント城の方へ視線を向ける。

 荒垣の優れた視力は、一瞬で彼女を見つけた。
 城の上層、とある一室で荒垣をロックオンする無機物の眼差しを。

 荒垣は知っていた。彼女を──キサラギを知っていた。
 出会いは数日前のこと。
 神々の円卓ドームズ・ソサエティへ攻撃を仕掛けて来た狼たちを返り討ちにし、逆に催眠で洗脳してやった時ことだ。
 超能力者は彼女と会い、試運転時のスルトを2機落とされ、すべての狼を殺され、かつ強烈な打撃を受けた。

 その時の記憶が、荒垣の明晰な脳裏を稲妻のように駆け抜けた。

「貴様はあの時の殺戮アンドロ──」

 言いかけた瞬間──荒垣の首が飛んだ。
 彼我の距離は数百メートルあったはずなのに。
 
(ッ! 速い──!)

 高周波ブレードの刃が、サイコアーマーを抵抗なく一刀両断した。
 荒垣は憎しみにうめく。
 神経を破壊され、信号が随所に届かない。
 サイコキネシスによる浮遊を維持できない。

 荒垣はまっすぐに穴の底へと落下していった。

「く、そが、ぁぁぁああ、あ……ッ!」
「グッドエフェクト。キサラギは目標の一時無力化に成功しました」

 見事な狙撃を完了したキサラギ。
 しかし、彼女は追撃しない。
 というか、できなかった。

 ブラックコフィンと飛行ユニットを使ったレールガンは、非常に強力な攻撃手段であるが、それゆえにひとつ欠点がある。
 
 レールガンは急に止まれない。

「キサラギはどこまでも飛んでいきます」

 超音速で発射されてキサラギは、一瞬で数十キロの遥か彼方へ飛び去ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

処理中です...