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第五章 都市国家の聖獣
左手の法則
しおりを挟むハブレスは数日前の事件を思いだす。
「今は騎士団に拘留中です。時期が来れば相応の処断をくだすことになりますが……それがどうかされたのですか」
「いや、実は彼女は我らの敵ではないかもしれない……わん」
カイロはヒクヒクおひげを動かして「彼女の倒した上澄みは、もしかしたらすでに敵に操られていたのかもしれない、わん」と続けた。
「敵……では、あの少女は、カイロさまの敵と戦う存在だと?」
「可能性の話わん。だが、無視できる可能性ではない。我がすこし話をしようと思っているわん」
────
──時は現在
ハブレスは戦慄の顔で市街地へ落下していく巨人たちを目撃した。
巨人たちが光の柱でつくった地上の穴は深く、それがどこまで続いているのかわかったものではなかった。
穴の底から二つの人影が飛びだして来た。
全裸の老人たちだ。荒垣シェパードである。
ハブレスは奇想天外な光景に理解が追い付かない。
「カテゴリー4のクソカスに、まさかスルトを使い捨てにさせられるとは思わなかったよ。とんだ誤算だよね、わっちとしたことが」
ハブレスは空を飛ぶその老人に驚愕を隠せなかった。
ただ、なんらかの対処をする必要があったので、すぐさま騎士団を動かそうと、執務室を飛びだそうとする。
「ハブレス」
「っ、あ、あなたは……どうしてここに」
扉の前、黒いコートをなびかせる少女が立っていた。
背後にライトグリーンの蛍光色の模様が刻まれた黒い直方体が浮いている。
彼女の身体よりずっと大きく、威圧感を感じる無機質な箱だ。
(キサラギ……! まさか、勝手に地下牢から出て来た?)
「わ、わたくしに復讐しに来たんですか?」
キサラギはじーっとハブレスを見つめる。
ハブレスはぷるぷる震え、机のうえの小杖に手を伸ばす。
「アレはキサラギが倒さなければいけない。これまでお世話になった。ありがとう」
キサラギは空飛ぶ荒垣を指さして言う。
(っ、もしかして、カイロさまの敵対者というは、あの飛んでいる老人でしょうか……? ていうか、お世話になったって……犯罪者として拘束してただけですが……)
「この城での思い出は一生忘れない」
(それはいつか恨みを返しに来るとことですか……?!)
キサラギはブラックコフィンから飛行ユニットを展開した。
天使の翼のようなオシャレな外付け装備だ。
磁力で背中に固定すると、キサラギ自身がふわりと浮きあがった。
次にブラックコフィンがガバっと開き、伸びて3mほどの砲身になった。
航空母艦のカタパルト装置のようなそれに、天使の翼を装備したキサラギがふわりと乗る。とはいえ、足はついていな。あくまで浮いている。
パリパリと音が鳴り始めた。
空気を焦がすソレは、強力な磁界が発生している証拠だ。
「な、なんであなたまで浮いてるんですか……っ!!」
「左手の法則」
磁界に強力な稲妻が駆けぬけた。
磁場のなかでは電流を流すと力が発生する。
ひと際、激しく雷が輝いた瞬間。
破裂音が鳴り、執務室の窓が一斉に割れた。
可変レールガンに変形したブラックコフィンが、キサラギの体をマッハ15で撃ちだした音だった。
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