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第五章 都市国家の聖獣
狼フォルムの謁見
しおりを挟むハブレスは王城下層へ降りるため、通路を渡り、長い長い大階段を下りていく。
階段を一歩降りるごとに、緊張と寒気が増していくような気がした。
ハブレスら表の王家たるブラスマント家にとって、カトレア家は信仰対象そのものである。
遥か古い時代より脈々と血をつなぎ、神の現身たる聖獣と対話し、その神秘の力を取りこんで、陰ながら都市国家を守って来た。
ただしく神話の存在なのである。
カトレア家騎士団の案内で暗い廊下を進み、ハブレスは客室に通された。
(ここで待っていればいいのでしょうか?)
ハブレスはとりあえず腰を落ち着けようと椅子に座わろうとする。
「ブラスマントの娘、そろそろ来る頃合いだと思っていたわん」
「っ」
座りかけて飛び上がり、慌てて声の方を向いた。
部屋の隅、暗がりに青白く光る双眸《そうぼう》があった。
「わあ?!」
「騒がしい娘だわん」
暗がりからヌっとでてきたのは青白い狼だった。
体長は2mほど。艶やかな毛並みをしており、もふもふしている。
特に首周りのもふつきが半端ではない。尻尾も同様で、これでもかとばかりの暴力的なもふつきかたをしている。これはとんでもない。
ハブレスは頬を染め、いまにも飛びかかりたい衝動をおさえて、その場にひざまづいた。
(カトレア家の方はもう人間の姿をしていないと聞いてはいたけど、まさかこんな可愛らしいなんて!)
ハブレスは滾る衝動を抑えるので必死だ。
「わん」
(わんって言ってりゅぅう~! 無理ぃ~! そんな可愛くていいと思ってるんですかカイロさまァァ!?)
「面《おもて》をあげるわん」
「はい」
カイロは狼フォルムのまま、その場で優雅に寝そべった。
床にお腹の柔肉がむぎゅっとなって純白の白い毛並みがふわっと広がる。
徹底的にhshsもふもふしたい衝動がハブレスを襲う。ぐぅ、無理。
しかし、そんな無礼を働くわけにはいかない。いきなり聖獣の同盟者・神話の末裔であるカトレア家の御身に、本能の赴くままにもふつくな許されるはずもない。
「して、なんの用だ。わん」
「はい、実は黒い巨人たちの件で参りました」
「そのことかわん」
「巨人のことはご存じで?」
「もちろんだ。あれは先日、噴水広場で聖獣の上澄みが殺された事件の延長だわん」
「では、すでにカイロさまは対応にあたっていると?」
「すべては我らがケリをつけることだ。貴様たちはなにもしなくていい。ただクリスト・カトレアを安定させ、下手な接触をしなければそれでいい。わん」
「かしこまりました」
「それとひとつ、例の娘の件だが、どうなっているわん」
「聖獣の上澄みを殺したというあの少女ですか?」
「そうだわん。キサラギとかいう愛想のないあの娘だわん」
カイロはキリっとした顔つきで問いを投げた。
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