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第五章 都市国家の聖獣

2人なら

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「アーカムどうすればいい?」
「どうしますかね」

『とりあえず殴ってみればいいじゃないか、アーカムッ!』
 
(超直観くんがこう言ってるのでまあ殴ってみますか)

 アーカムはアンナの顔をちらりと見て「攻撃あるのみです」とつぶやいた。
 アンナはうなづく「2人なら何とでもなるよ」表情には強い信頼が宿っている。

「なにをこそこそと──」

 荒垣が肩をすくめて、余裕ぶってそう言おうとした瞬間、アンナは駆けだしていた。
 同時にアーカムは《イルト・ポーラー》の詠唱を開始した。

 アンナは素早く斬りこむ。
 サイコウィップが迎撃せんと襲い掛かる。
 斬り返し、なお突撃するアンナ。
 
 荒垣は眉根をひそめる。

(ダブルのせいで、ストレージの圧迫が続いてる。脳も熱くなってきた……慣れないクリオキネシスは、氷魔術で攻撃された際の防御に使うことしかできない……コストの計算を厳密にした方がいいね──ただ、とにかく今はダブルとサイコウィップで伊介天成本体《アンナ》を無力化するのみに思考を割くべきだね)

 2人の荒垣は優先順に敵を片付けることにした。
 それぞれがサイコウィップを展開し、4つの変幻自在の鞭で攻撃をはじめる。

 アンナは短く息を吐き、集中力を高める。さあ勝負だ。
 一撃、二撃、火花を散らし、カトレアの祝福で迎撃した。
 先ほどよりもはるかに洗練された、正確無比かつ、キレのある剣裁きだ。
 
 天才アンナ・エースカロリは、攻撃を見るたびに、敵へ適切にアジャストすることができるのだ。
 しかし、いま相手しているのは遥かなる超越者だ。
 サイコウィップの三撃目で足がとまり、四撃目で体勢がくずされてしまった。
 この間、1秒にも満たない。

「チッ」

 顔をしかめるアンナ。
 1人の時でさえ、接近が精一杯だったアンナにとって、ダブルの荒垣は手に余る敵であった。

 だが、アンナが大勢を崩すと同時に、アーカムの高速詠唱も完了する。

「白の星よ、氷雪の力をここに
  あまねく神秘を、聖獣の御手へ還せ
   彼が目を覚まさぬうちに、世界を零へ導きたまへ
    ──《イルト・ポーラー》」

 放たれる氷雪の輝線。 
 光を乱反射し、まばゆい奔流がダブル荒垣を襲う。

「二度も同じ手を喰らうものか」

 荒垣の片方はニヤリと笑い、片割れが一歩前へでて、手をかざす。

(やつの氷の放射に対して、サイコキネシスでの受けはコストパフォーマンスが悪い。同時に低温によるマナニウムの運動力の低下が、念力層の著しい弱化を引き起こす。だからサイコキネシスではいけない。となると、やはり、クリオキネシスしかあるまい)

「砕けろ──クリオキネシス」

 アーカムの放った《イルト・ポーラー》は、飛翔するさなか、もつれるようにエネルギーを分散させてしまった。

 アーカムは思う「どうやら本当にパワーで行くしかないみたいだ」──と。

 そこからのアーカムは弾幕係に徹することにした。

(《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》)

『《ウィンダ》《ウィンダ》ッ!』

(超直観くんッ?!)

 どうやらアーカムの超直観が詠唱した分も、ちゃんと魔術を撃てるらしく、アーカムの連射速度は秒間8発にも及ぶようになっていた。直観とは。

「っ、なんて連射速度だ……」

 荒垣はちょっと気圧されることになった。
 体勢を崩していたアンナはその隙に持ち直す。
 相棒の弾幕を背負って突進する彼女の瞳には、不機嫌と赤い血の香りが漂っていた。
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