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第五章 都市国家の聖獣
念力使いの技
しおりを挟む裂槍のごとく鋭く踏み込む。
剣を低く構え、空気抵抗を抑えて高速を体現する。サイコキネシスの縦刃、並刃を、身を翻してかわして、アンナは一気に間合いをつめる。
「まるでサーカスみたいだね、はは」
老人は苦笑いしながら、薙ぐように手を振った。
それだけでいい。
それだけで十分。
人類進化の到達点は、神にも等しい力でもって、見えざる手のひらを遺跡に這わせた。
縦横4m四方の大きな通路全体にバギバギバギバギィっと亀裂が走った。
低姿勢で間合いを詰めようとしたアンナも、通路を面として捉えた強烈なサイコキネシスの障壁に捕まりかける。
とっさに床を踏みこんだ。
脚のごとく勢いよく力強く、床が抜け、下方の通路へ、アンナは転がるように逃げる。
(サイコキネシス……あれに捕まったら終わりだ)
「階層構造なっていたのか。ちょこまかと」
老人は自身の足元をサイコキネシスで砕き、ふわりふわりと浮遊して、優雅に降りてくる。
落下する瓦礫の隙間を縫って、投げナイフが飛来する。
剣気圧を纏った一投だ。
ガァン!
重たい金属音が鳴り響いた。
火花が散り、ナイフが砕け散る。
「今、わっちのサイコアーマーのセッティングを反射に切り替えた。勢いよく触れれば運動エネルギーが跳ね返り、暴発し、この通り、金属だろうと、砂塵のように破裂してしまうよ」
老人はナイフの破片を手に取り、フッと息で吹き飛ばす。
彼は地球時代でも【念力使い】であった。
念動力の操作において、他の超能力者の追随を許さず、抜群のセンスを発揮して、高度な応用を会得した。
普段使うことはない。
念力でぶったたけば死ぬ相手にわざわざ使う必要がない。
とはいえ、面倒くさがって、高出力の念力で叩くだけでは、脳の負担が蓄積してしまう。
異世界に進出し、再覚醒した超能力者にとって、超能力の使用による脳疲労は重要な問題だ。とりわけ戦闘中の架空機関のオーバーヒートだけは避けなければいけない。
(この地形、縦横の壁・床・天井それぞれ隣接する通路があるみたいだ。先程のように強引に空間を拡張され、逃げられると、無闇にサイコキネシスを固め撃ちしてるだけでは消耗が増すかもしれないね……)
老人はいちはやく、長期戦を視野に入れていた。超能力者の多くが好むパワー系の戦い方ではなく、小手先の技を使うことにしたのだ。
アンナは眉根を顰める。
老人までの距離は10m。
刃渡り90cmの直剣ではとても届かない。
老人は別だ。
10mなんて手を伸ばさずとも届く。
「波打て──サイコウィップ」
老人は念動力を束ねて固定し、空間を歪ませる紫黒の鞭を作りだした。
「格上のわっちを手こずらせるなんて、とても悪い子だね。お仕置きをしてあげよう」
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