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第五章 都市国家の聖獣
侵入者を迎撃せよ
しおりを挟むカイロ・カトレアにはその瞬間がわかった。
耳をピクピクと動かし、明後日の方向を見つめる。
「地下水路をうろついてる人間がいるわん」
「ちいさいわんちゃんたちからの連絡ですか?」
「狼だ。狼だ、わん」
「……わん」
「わんわん」
「ふざけてる場合ではないぞ、貴様ら。やつらどうにもこのを突き止めたようだわん」
カイロは机のうえの剣を一本手に取り、書庫を飛び出した。
アーカムとアンナはうなづきあい、彼女のあとを追いかけた。
3人は水路まで戻ってくる。
「堅氷よ」
カイロは通路と大祭壇とを繋ぐ道を氷で塞ぎ、あごをくいっと動かして、2人と頭を突き合わせた。
作戦会議というやつだ。
「ここからは二手にわかれる。敵は多い。貴様らはつがいで戦ったほうが性格悪いし、相手も嫌がるわん」
カイロはあらかじめ確認していた水路の構造を軽く説明し直し「覚えてるか? 覚えているのか? わん?」と、楽しげに問う。意趣返しのつもりだろう。ただ、アーカムもアンナもそれなりに頭脳明晰なため、普通に覚えていて、「そうか……では、話を続けるわん」とすこし落ち込んでしまう。
カイロの放った狼の眷属たちにより、敵の位置はかなり性格に把握できていた。
「いいですね、その魔術。僕も使いたいです」
「我の魔力獣はそうやすやすと真似できるモノじゃないわん」
「あ、出来たかもしれません」
アーカムは手のひらの上にちいさなオオカミをつくりだしていた。
十分な魔力と、積み上げられた魔術の研鑽、勘と魔眼、それらが天才の所業を可能にした。
カイロはがっくしと肩を落とし「我のなのに……」と、しょんぽりしてしまう。しょんぼりカイロである。
「今は落ち込んでいる場合ではないか……ふん、なかなかやるようだ、アーカム。貴様なら我の眷属を預けても構わない。わん」
カイロはアーカムの小狼と、自分の小狼を交換して、頭に乗せる。
これでお互いの位置がわかるようになった。
情報共有も可能だ。
「では、カイロさん、気をつけてください」
「わんわん頑張って」
カイロはジトッとした目でアンナを凝視するが「もういいわん」と呆れた様子で、単身、通路の向こうへ消えていった。
「行きましょう。こっちです」
「うん」
アーカムは寒々しい通路を右へ左へ曲がる。
足取りに迷いはない。
(敵の位置がわかる。広範囲に広がって……かなりの数が入ってきてる? これはもしかして──)
「アンナ、敵の数が多いです。こちらも広がって戦いましょう」
「アーカムはそれで大丈夫なの」
「大丈夫です。今は魔力で満ちてます。単騎でも戦えますよ」
アーカムの自信ある笑顔に、アンナは久しぶりに彼の中に安心を見た。
これまでなんだかんだと、弱っていて、それが表情に出ていたものだから、自信なさげに見えることがあった。それが今のアーカムにはない。そのことが嬉しかった。
「あ、でも、カテゴリー5の″奴″を相手するのは骨が折れるかもしれないので、ピンチになったら呼びますね」
「それでいこ。あたしもえろじじぃに借りを返したいし」
アーカムは魔力獣を一匹新しく生成した。
小狼を通信用にアンナの頭にぽふんっと乗せる。
二手に別れ、しばらく後、アーカムたちは接敵した。
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