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第五章 都市国家の聖獣
氷属性式魔術
しおりを挟むアーカムたちは大祭壇の横の通路から王家の城へと入った。
「こんな道が……雰囲気が変わりましたね。寒さが和らいでいきます」
「聖獣フェンロレン・カトレアの異空間は、地下水路と、都市中央の王城、そのほかいくつかの隠し通路と接続されている。表の王家は執政を行い、裏の王家は王城の秘密のエリアで一生をすごし、神秘の間でひたすらに修行を積む」
誰もいない暗い通路の先、古びた書庫にたどりつく。
王城の地下にこのような空間があることは、ごく一部の限られた人間しか知りえない事実だ。
丁寧に手入れされているようで、埃ひとつとして積もってはいない。重厚な空気で満たされている。
適当な机に腰を落ち着かせる。
「まさか、ここまで上手くいくとは思わなかったわん」
「なにがですか」
「我は聖獣より、開拓者迎撃の使命をあずかり、そして、眷属である聖獣の上澄みたちを動かし、開拓者の討伐に出た。だが、上澄みは敵に自我を奪われ、そのうえで殺されてしまった。次は我が直接叩こうと思ったところへ、貴様たちが現れた。すべてはフェンロレン・カトレアがたぐりよせた運命の導きなのだろう。わん」
(示し合わせたわけでもなく、俺とアンナはカイロに出会い、そして、流されるままに聖獣と出会い、新しい力を与えられた。これもまた聖獣の手繰り寄せた結果なのだろうか)
アーカムは氷の華を咲かせ握りしめる。
アンナはその様を、キラキラした眼差しで見つめる。
「まさか、適正のまったくない僕が氷属性式魔術を使えるようになるとは」
「それは誤解というものだろうアーカム。貴様には優れた魔術の才能があった」
「優れた才能……」
「そうでなければ、聖獣の与える巨大な叡智に耐えられるわけがないわん。適性はもらえる。だが、その適正に耐えられる才能がもらえるわけではないわん。貴様がすでに氷の華を作り出せていることが、貴様の卓越した能力をすでに証明している。わん」
(ふふ、そうかな? ふふふ、天才かなぁ。まあ、旅の最中、魔導書を買って、教会魔術も三式まで使えるようになりましたけど?(自惚れ) そこに加えて、稀少属性手に入れちゃいましたねぇ? へっへ、俺まじ天才じゃね)
クソほど調子に乗り始めていた。
「貴様は火属性に風属性というごく稀に現れる多重詠唱者だわん」
「水もいけますよ」
「……何式までわん」
「まあ、三式までなら(自慢げ)」
「……ふむ、やはり天才だったか」
カイロは車庫の奥へ行き、すぐに戻ってくる。手には薄い本を持っている。
「これは世に少ない氷属性一式魔術に関する魔導書わん。貴様ほどの天才ならばもしかしたら使いこなせるかもしれん」
アーカムは本を受け取り、パラパラと流し読む。
「なるほど」
「奴らは都市の外に冒涜的な怪物を配置している。聖獣への攻撃のためだろうが、副次的に都市を閉鎖する能力も持っているようだわん」
「つまり、開拓者を倒さないことには都市から出ることすらできないと」
「そうだ。だが、おかげで敵もまたゆっくり着実にことを運んでいるわん」
「聖獣はどれだけ耐えられますか」
「おそらくは1日、それ以上は聖獣を異空間より引き抜かれる可能性がある。あの黒い巨人たちは探しているんだ。そして、結界を突破しようとしている。奴らが聖獣へ攻撃を成功させる前に、決着をつけなければならない。さもなければ、クリスト・テンパラーで起きた悲劇がまた起こるわん」
クリスト・テンパラーの悲劇。
外壁を破壊され、王城を破壊され、都市機能が完全に失われた。
それはすなわち、開拓者たちはすでに一度、聖獣の奪取に成功し、意のままに操り、都市を攻撃させることに成功しているということである。
(超能力たちが聖獣の支配し、何しようとしてるか知らないが、必ずその企みを打ち砕く)
アーカムは薄い本に視線を落としたまま、片手に持って開く。
「白の星よ、氷雪の力をここに
──《ポーラー》」
空いている方の手を前へ突きだし、魔力を集積し、空気中の熱運動を停止させる。
空気がスーッと冷えていき、部屋が凍てつき始め、球体状の氷の結晶が生み出されていく。
「っ、貴様……なんということだ……」
「あたしの相棒、天才なんだ」
「貴様、さっきから自慢げだな」
「ふふん」
アーカムはその超越的な才能を遺憾なく発揮した。ただ一読しただけで氷属性式魔術を会得してしまったのだから。
カイロは言葉を失い、アンナはそんな彼女を見て、腕を組んで、えらくご機嫌な笑みを浮かべた。
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