異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第五章 都市国家の聖獣

同盟者の面接

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 その穴は巨大だった。
 直径は5mにも及ぶだろうか。
 
(この下は……なるほど)

「アーカム、どう」
「たぶん大丈夫です。アンナなら」
「そう」

 犬は2人が先へ進むのを決意したのを確認するように一度ふりかえり──そして、穴へ飛び込んだ。
 穴へ滝のようにザーッと水路の水が落ちていく。白い飛沫のなかに犬は消えていった。

(ついてこい、とな)

「アーカム、飛び降りるね。ちょっと揺れるよ」
「揺れる……」

(なにが揺れるって言うんですか、アンナさん)

「とう」

 アンナはぴょーんっと飛び降りた。
 ひゅーっと落ちて、落ちて、落ちて……──飛沫の先には、巨大なオオカミが口を開けて待っていた。
 開いた口は穴の直径とほとんど変わらない。
 つまりデカい。

「知ってた」

 アーカムを脇にはさんで抱え、アンナは抜剣し、壁を突き刺して、急ブレーキをかける。
 狼が首がぐんっと伸びて、2人を嚙み砕かんとせまってくる。
 落ちて来る獲物が、素直に入ってこないことに腹を立てたようだ。
 
 アンナはくるっと鉄棒のように剣を軸にまわっめ、器用に噛撃を避けた。

 回避の後はすかさず反撃だ。
 つやつやしてちょっとやわらかい鼻先に着地し、壁の剣を抜いて、素早く斬りつけた。

「きゃいん!」

 アンナはかかとをふり大きく上げて、鎧圧で武装し十分な重さをまとい、剣圧をかけ、高筋力で打ちおろした。

 狼の顔がべちーんと地面に叩きつけられる。
 恐ろしい威力の一撃だ。

「おすわり」

 ノックダウンした狼がうえから降ってくる水にびしょ濡れにされるすぐ隣、横穴が続いており、そこに先ほどの犬がいた。
 よくみれば大きな狼とよく似たちいさな狼だ。
 
「わん」
「ついてこいってこと」
「勘ですけど、たぶん僕たちは試されているんだと思います」
「勘? じゃあ、それで正解だね」

 犬のあとについていき暗闇のなかを進む。
 
「《ファイナ》」

 火球を浮かせ、通路を照らして進む。

 だんだんと通路のおもむき自体が変わってきた。
 気づけば、そこは下水路ではなくなっていた。
 もう水は流れていない。
 下水路独特の湿り気はない。
 
 どちらかと言えば乾燥していて、澄んでいて、されど埃っぽくて、冷ややかな空気が場を支配しつつあった。

 吐く息が白い。
 どんどん冷えていく。

 アーカムは煉瓦が組まれてできた寒々しい空間に、古い神秘の魔力を感じていた。
 それは通常なら感じることすら叶わない高次元の気配だ。
 
 だが、アーカムにはわかった。
 より直接に言えば、彼の備えた才能が彼に知覚を可能にした。
 超直観で40%を感じ、夜空の瞳で60%を見たのだ。

(空気中の魔力の粒子のカタチが変わった……冷たく、あらゆるエネルギーを停止させる……)

「アンナ、どうやら僕たちは結界領域に足を踏み入れたようです」
「それって……絶滅指導者が使ってたみたいな?」
「わかりません。ただ、外界から隔絶する目的でこの空間の魔力は作用している。とてもさりげなく、僕たちをこの世界に招き入れた。極めて高度な魔術です。……あるいは、魔術より、なお自然に近い何らかの生物がもとから備えている魔力由来の神秘、権能、能力、特性……あ、先が明るくなってきましたね」

 通路を抜けると、広い空間にでた。
 アンナはアーカムを抱きしめる手に力を込める。

 アーカムの頭はもはや、おっぱい柔らかいとか、アンナいい匂いとかなどの、よこしまな物に思考リソースを割くほどの余裕がなくなりつつあった。

 より具体的に言えば、思考リソースは『この先に一体なにが』に10%『おっぱい』に60%『良い匂い』に30%だ。結局おっぱいかい。

 広い空間へ到達すると、一気に視界に明るさが戻ってきた。太陽の明るさではない。氷に反射する光のような寒々しい明るさだ。

「貴様らか。抵抗する者は」

 広間の奥から低い声が聞こえた。
 淡い青白いひかりが神秘的に大気を満たす最奥で、巨大な狼が寝そべっていた。
 寝ているので正確にはわからないが、体長は裕に50mは越えているだろう。
 立てばきっと高さ20mは軽く超える。

「あなたは誰ですか」

 アーカムはたずねる。

「我はフェンロレン・カトレア、その上澄み。貴様にはクリスト・カトレアの聖獣と言ったほうがわかりやすかろう」

 大狼はそう言って、鼻を鳴らし、獰猛な牙をのぞかせた。

(すっごいもふもふな狼出てきた)
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