異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第五章 都市国家の聖獣

伊介天成(女)

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 サイコキネシスに捕まり、逃げ出す手段はなし。
 
(詰み、じゃねえか)

 アーカムは何とか最後のチカラを振り絞り、逃れる方法を模索する。

「さて、伊介天成、永い眠りにつく前に、いくつか質問をしよう」

 老人は懐から十字架を取りだした。
 突き刺せるよう先端は鋭利に加工されており、風変わりなナイフのようにも見える。
 老人が操作を加えると、頭の部分がビーコンのように点灯した。

(あれが封印拘束具……思ってたのと違うな……)

 超直感のおかげで、アーカムには説明などなくとも察することができる。

「なぜ超能力を使わない。いや、厳密には使っているのだろう。催眠術《ヒプノシス》を。それでこのエイリアンを侍《はべ》らせているわけだ」

 アンナとアーカムが引き離される。
 老人はアーカムに蚊ほどの興味がないとばかり端へ寄せて、アンナにだけ話しかける。

「剣など使うかね。まるで理解できない。剣士ごっこのつもりか。ファンタジーごっこのつもりなのかな、伊介天成」
「おい……さっきから、思ってたんだが、なんであんた、彼女に話しかけてるんだ……」
「貴様の言葉が聞きたいんじゃない」

 石の破片がふわっと浮く。
 勢いよく射出される。
 アーカムの腹に突き刺さった。
 血を吐く、アーカム。
 痛みに顔を歪める。

 アンナはその様子を静かな眼差しで見ていた。訓練された狩人は冷静だ。
 ただ、燃えるような怒りは、抑えきれておらず、梅色の瞳からは静かな殺意が溢れている。

「はは、そうか。そのエイリアンが大事か。ならば、話きたまへよ。言葉を使って、わっちに話してくれよ。ん」
「アーカム、あたしごと《イルト・ソリス》で焼いて」
「それがいちばん無駄です……アンナもタダじゃ済まないですし、そいつにはパーフェクトデザインがあります……僕は、疑似太陽を作れば、それだけで、力尽きるでしょう……」

 アーカムは懸命に声を絞り出しながら──あることに気が付いていた。

(こいつ、アンナのことを伊介天成だと思ってやがる……なるほど……体を再生してないから、俺には超能力:ヒーリングがない……イコール、俺は伊介天成ではない、とな。催眠術で操っているだけの……やつらに言わせればエイリアン、だとな)

「わからないな。なんで喋らないんだい、君は」

(アンナさんは英語わからないんだよ……)

「しかし、不思議なこともあるものだ。いくらパーフェクトデザインが万能だからと言って、まさか性別までこうも自由に変えられるとはね」

 老人はアンナの胸に手を伸ばす。
 目を見開くアーカム。

(ちょ! て、てめえ、やめろ! それだけはだめ! だめだってえ! 俺の腕くらいあげるけど、アンナっちのアンナっちを触るのは、ましてやもみもみ好き勝手鷲掴みするのなんて、ダメだってぇ!!)

『ダメなのか、アーカム?』

(当たり前だって! 超直感くんもボケてないで、なんとかしてくれよ!)

『ふむ……水と、風だ、アーカム』

(……水と、風?)

 老人は普通にアンナの胸を触り、鷲掴んで、試すように揉みしだくと「驚いた。まるで本物だ。よく作ったな、伊介天成」と出来の良いフィギアを評価するかのような口調で言った。

「わっちは一度、アフリカ系の顔に自分を作り替えようとしたことあったが、その時は上手くいかなかった。若返るのではなく、骨格、肌色、そのほかもろもろ、自分の人体を自分の思うがままに変更を加えるのは難しかった。それに比べ、君のスキルはすごい。異性になるのならもっと難しいはずなのに」

 老人は至宝から手を離す(※美少女の巨乳)

「この点から君が優れた超能力者であることはわかってはいるんだが……わからないのは、君が頑なにそっちのエイリアンを中継してしか喋らない事だ」

(て、てめえ、アンナっちのおっぱいを……許さねぇ……お前だけは許さねぇ)

『許さない……ッ! 殺せ、血祭りに上げろ、アーカムッ!』

 アーカムは体内の魔力の70%を動員して、現状できる最大の魔術を放つ。
 童貞を怒らせた老人の失策であった。

(本来は溜め時間が長くてあんまり撃てるものじゃないけど、動けないならちょうどいい。水と風、つまりこう言うことだろう)

「蒼翠魔術──《イルト・カット》」

 《イルト・ウィンダ》と《イルト・ウォーラ》を無詠唱、かつ同時に使える卓越した魔力操作もつアーカムだからこそ放てる高等魔術。

 超高圧にの風圧によって圧縮された数万リットルの水が放たれる。

 蒼い輝線が世界をわかつ。
 カテゴリー5の知覚すら飛び越えて、それは静かに──されど猛烈な被害でもって向こう数十メートルを切断した。
 
 老人の腕が宙を舞う。
 鮮血が尾を引く。
 美少女の胸を鷲掴みにして、揉みしだくなど、最大の禁忌だ。
 おっぱいへの果てしない夢と希望、限りないロマンと愛をいまなお強烈に、猛烈に、痛烈に、鮮烈に胸に抱く精神生命体Do-Teiを怒らせた罪咎《つみとが》は、罪人の血でしか精算できないのだ。

「え?」

 老人は呆けた顔をする。
 自分の腕がなぜか切断された。
 理解が及ばなかった。
 理解は及ばないうちに《イルト・カット》の返す水刃が、そのまま老人の頭部を斬り落とした。
 肉体をバラバラにし細切れの肉片に変えた。

 サイコキネシスにが解除され、アーカムもアンナも自由になった。

 
 カテゴリー5の超能力者はこの瞬間、たしかに負けたのだ。
 なぜスペックで圧倒的に上回っていたのに負けたのか。
 理由は至極明瞭。
 
 敗因:おっぱい。
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