上 下
122 / 306
第五章 都市国家の聖獣

さっそく大ダメージ

しおりを挟む


 サイコウェーブの直撃。
 普通なら人体などたやすく引き裂かれる。
 三段レベルの剣士程度の剣気圧ならば耐えきるのは難しい。
 剣気圧がないのならばなおさらだ。

 だが、アーカムは対超能力を心得ている。
 ゆえに命中の直前《イルト・ウィンダ》で盾をつくりだし、風圧の層で念動力の波動をガードしていた。

 瓦礫の山の下で、アーカムはなんとか体を動かす。
 激痛が走る。左肩口から先が血塗れであった。
 重傷を負ったらしい。

 アーカムは風霊の指輪を右手の指にはめていた。
 ゆえ、風で盾を展開する瞬間、右半身にしか十分な防御力を確保できなかったのだ。

「アーカム、血が……あたしをかばって……?」
「大丈夫です……アンナは、動けますか」
「こっちは大丈夫だよ」

(左足にも力が入らない……か)

 アーカムは顔をしかめる。
 
(緒方と戦った時、《アルト・ウィンダ》であいつの神の盾は貫通できた……だから、一段階うえの《イルト・ウィンダ》なら神の盾を攻撃に転用したサイコキネシスだろうとガードしきれると思ったが……アテが外れた……)

 サイコウェーブを受け止められなかったのに二つの理由があった。
 
 ひとつはアーカムが杖を持っていなかったこと。
 二等級のトネリッコの杖ならば、ダメージは少なく済んだ。
 三等級のコトルアの杖ならばダメージはゼロに抑えられたかもしれない。
 
 とはいえ、後の祭りだ。

 そして、もうひとつの理由……それは、敵がこれまでより強いこと。

(こいつのサイコキネシス、強すぎる。カテゴリー……4じゃない)

 悠長に思考している暇はなかった。

「かぁごめ、かぁごめェ。はっはは、なるほど。直前でガードしたね。わかっているよ、生きてるんだろう、出て来ないなら攻撃しちゃおうかな?」

 超能力者は瓦礫の山ごとアーカムたちを吹き飛ばさんと、指でっぽうで狙いを定めた。

「アンナ、機動力を失いました。僕を運んでこの場から離れてください」
「わかった」

(左腕と左足が動かない。いきなり大きなダメージをもらってしまったが、超能力者に負ける訳にはいかない。これは異世界を守る戦いだ)

 アーカムは冷静沈着に勝つための思考を働かせる。
 潜り抜けて来た数多の修羅場が、越えて来た死線が、彼に卓越した精神力を宿し、この思考を可能にした。

 アンナはアーカムを片腕で抱き寄せると、瓦礫の山から飛び出した。
 直後、サイコキネシスが先ほどまで2人がいた付近を一掃してしまう。

「ほう! わっちにサイコキネシスを三回も撃たせて生きているのは、エイリアンでは君たちがはじめてかもしれない!」

 広場にトンっと着地し、アンナは剣を抜く。
 左腕でアーカムを抱き、右手で剣を構える。
 
(主人公とヒロイン的には逆な気がするけど……今は緊急事態なのでヨシ。ただ、ただね、たださ、ただだよ──さっきからお胸が柔らかいのがすごく気になります)

 この男、精神的にまだまだ童貞だった。

「伊介天成、君がエイリアンに共鳴してしまった裏切者であることはわかっているよ」

 超能力者の老人はそう話す。
 流暢な英語であった。

「どうやって……情報が早すぎるだろう」
「はっはは、操り人形に話をさせるのか。そうとうに変わった男だ。いや、いまは女か」
「?」
 
 アーカムは首をかしげる。
 老人は構わずつづける。

「超能力者にはテレパシーが使える者もいる。わっちは教え子のひとりの叫びを聞いてここへ来たのさ」
「なるほど、な」
「さあ、投降するか、戦うか、君が選んでいいよ、だが、ひとつ忠告しておく。わっちはあの2人より強い。カテゴリー5の超能力者だ。そして、裏切者を滅ぼすための準備を整えて来た」

 老人は腕を荘厳たる所作であおぎ、天空に浮かぶ無数の巨人たちを示す。
 アーカムはそれらの存在が気がかりだった。
 なんのために都市を囲んいるのか。あれらは攻撃してくるのか。
 どういった能力なのか。何もわからない。

「情報力で君はすでに負けている。この状況を覆すことは不可能だ」

 老人はアンナを見つめて話す。

「情報力……な。はっ。こっちだってあんたが神々の円卓とかいう木っ端組織に属していて、イセカイテックとどんぱちやりたがってるのは知ってる。残りがあんたを入れて4人しかいないのも知ってる。この世界には守護者の秘密結社がいる。お前たちは狩られる。確実に」
「ほう、あのバカ、結構喋ったみたいだね。秘密結社と言うのは狩人協会のことだろう?」
「っ」
「確かに殺すに手こずるだろう。一番の障害となるのは明白だ。だが、スペックがまるで違う。お話にすらならないよ、わっちら神々の円卓ドームズ・ソサエティの前でね。計画の草案はすでにできあがっているのさ」

 老人はそう言って、空に浮かぶ黒い巨人たちへ視線をやった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

処理中です...