121 / 306
第五章 都市国家の聖獣
新手
しおりを挟む広場の一角で、俺はうなだれていた。
痛い出費だ。装備もたくさん失った。
まず超能力者を倒すのに、これまで愛用していたトネリッコの杖と、コトルアの杖使ってしまった。
そして、棺桶をあずけるためにアマゾディアを担保にしてからの50万マニー。
「超能力者がよ……くそがよ……」
とりあえず、なにか杖を持っておいたほういいよな。
無いよりはあったほうが格段に便利だし、魔力消費は抑えられるし、魔術の威力はあがるし、いいことしかない。杖を装備しないメリットはない。
「アーカム、換金してきたよ」
「ありがとうございます」
アンナが帰ってきて、マニーが入った袋をかかげた。
ルールー家執事ビショップさんが用意してくれた魔力結晶をしかべるべき場所──魔術協会へ持って行ったのだ。
換金して50万マニーになってくれた。
これで資金は十分だ。
だが、逆を言えば、もう無駄な出費をしている余裕はなくなった。
まあ、超能力者との戦いは無駄じゃなかった。
やつらの戦力と状況を把握できた。
戦局を見れたのは大きな収穫だ。
残る神々の円卓の超能力者は4人。
仲間がどこにいるのかまでは聞き出せなかった。船の位置も不明だ。
神々の円卓はイセカイテックの敵対組織だった。
やつらは指導者災害の子供達をこちらへ招きいれ世界を支配させようとしてる。
だが、わからないことがある。
神宮寺智久も、あの女も、おそらくはカテゴリー4の超能力者だった。
つまり、地球ではカテゴリー0の……ハッキリ言って超能力者を名乗るのすらおこがましいほとんど人間だったはずだ。
「なのい、首輪をつけられていた……神宮寺はイセカイテックに不満を持つことなんてないだろうに……なんで……」
はっきり言って、動機が不可解なのである。
「アーカム、アーカム」
「なんですか、アンナ」
「なんか飛んでる」
「え?」
アンナは空を指さす。
釣られて見上げる。
広場の皆が空を見上げて指さしていた。
空には人が浮んでいた。
黒い人だ。黒い人影と形容してもいいかもしれない。
かなり距離があるのに、かなりはっきりと輪郭を捕らえられている事から、身長が10mほどはあると思われた。巨人だ。
黒い巨人たちは、都市国家のまわりをぐるっと囲うように、実に数十人が等間隔に並んでいる。
おそろしく不気味な光景だった。
その時、広場をまっすぐに進んでくる老人の姿があった。
怪しげな声音で歌いながらやってくる。
「かぁごめ、かぁごめ、かぁごの中の鳥は、いついつ出やある、夜明けの晩に、鶴と亀がすぅべった……──」
かごめの唄だと?
異世界にそんなものはない!
こいつ……!
老人は手を指でっぽうの形にし、俺を狙う。
距離は20m。
「後ろの正面だぁれ♪」
『アーカム、逃げるんだ!』
超直観が叫ぶ。
俺は空の巨人に気を取られているアンナを突き飛ばし、地面に飛び込むように伏せた。
直後、強力なサイコキネシスが俺たちが先ほどまでいた地点を蹂躙する。
石畳みがめくれあがり、塵が空へ帰っていき、空気が嬲られ、法則が愚弄され、ベンチがひしゃげ石くずとなり、空気が悲鳴をあげる。
サイコキネシスの固め撃ち──サイコウェーブを受けた広場周辺の建物は向こう3棟にわたって倒壊し、砕け散った。
とてつもない威力だ。
喰らえばひとたまりもない。
3人目が都市にいやがったみたいだ。
厄介な。もしかしてほかにも?
「アンナ、新手です!」
相棒の返事がない。
「アンナ? もしかして、どこか怪我を……!」
超能力者の老人から視線をはずし、地面に押し倒してしまったアンナを見やる。
アンナは頬を染めて、表情に乏しい顔をぷいっと俺からそむける。
む。なんだこの感触は。
手が沈む。むにむにしてる。気持ちがいい。
柔らかくて、すごく落ち着く。
まるでこれを触るためだけに産まれて来たかのような本能的使命感にせいで手が離せない。
ああ、そうか、これはおっぱい、アンナさんのたわわな実り──
って、ラッキースケベしてる場合じゃね! 馬鹿か俺は!
「す、すみませんッ!」
「……ん」
「ちゃんとあとで謝ります、それより今は、アンナ、敵です! 超能力者ですよ!」
「あ……うん」
頬を染め、恥ずかしそうに顔をそむけるアンナさん。
とても反応が悪い。
いや、俺が悪かったです、本当に申し訳ございませ──
「いい目をしてるね! わしのサイコキネシスを避けるなんてね! じゃあ、わっちも本気出しちゃおうかな♪」
直後、俺とアンナは強力な念力によって吹っ飛ばされてしまった。
「ぐああああああ! こ、こんなはずじゃぁああああ!」
敗因:おっぱい。
0
お気に入りに追加
573
あなたにおすすめの小説
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる