上 下
98 / 306
第四章 悪逆の道化師

一難去った

しおりを挟む

 俺の目の前でやばいことが起こっていました。
 宣教師です。師匠とアンナからあんだけ危険だと言われていた聖職者が暴れましたよ。
 ハッキリ言って馬鹿つよです。
 強さをつよで表すなら、つよつよのつよです。つよよりのつよですよ、こりゃあ。

 俺とエレントバッハ氏がお腹に穴空けたり、腕を失ったりしてようやく倒した悪魔を、終始圧倒してましたね。なんか情けなくなっちゃいます。上には上がいます。ま、まあ、俺だってハイパーモード使えればね、そんくらいやってやりますけどねえ!

 食堂へ戻ってきました。

「アルドレア様、いきなり飛び出してしまってびっくりしました」
「勘がうずいたもので」
「勘なら仕方ないですね(洗脳済み)」
 
 エレントバッハ氏がほっと胸を撫でおろします。年下の少女に命の心配されちゃうとなんかドキドキします、ええ。これは恋でしょうか。いいえ、誰でも。

 俺たちそろって、ようやく屋敷をでます。
 屋敷にやって来た時は、真っ暗で、どしゃぶりの雨だったのに、空は朝焼けに色づき、冷たいさわやかな空気が肺満たしてくれております。

 俺、生還です。
 この怪しげな館、想像以上にハードだった。
 
「アルドレア様、しばらく当家でお休みになられてくだい」

 ビショップと、エレントバッハ両者の勧めもあったので、しばらく休ませてもらうことにした。
 継承戦が行われた別荘ではなく、普段住んでいる屋敷は町の方向にあるという。

 屋敷を離れる時、ふと、玄関をふりかえる。
 継承戦やそのほかもろもろの後片付けをするために使用人とビショップ、それとアルハンブラ神父がいた。それと、さらにもうひとつ人影があった。

 継承戦がはじまる前、食堂でみた大男だった。
 穏やかな顔で、アルハンブラ神父と話しているではないか。

 って、待って待って、あれ、その人、死んだ流れじゃ?

「アルハンブラ神父?」
「?」
「いや、そんなキョトンとしないでください。その方は……」

 言い掛けると、その大男──顔に傷のある黒髪黒目の男は、こちらへ歩み出てくる。

「ガンスミス・バレルアーチだ」

 名前だけいって、握手を求めてくる。
 手をとる。分厚い。俺と比べて大人と子供みたいなデカさの差がある。
 
「彼は喋るのが苦手なのです」
「なるほど」
「名は彼が言った通り。バレルアーチ神父と呼んでいただければ幸いでしょう」

 アルハンブラ神父が補足した。

「致命傷は避け、死んだふりをした」

 どこにも傷を負っているようには見えないが……。
 異様なのは、まるでかのような穴だらけの服だ。
 おそらく、黒杭による無軌道攻撃を喰らったのだろうが……だとしたら、致命傷じゃないわけがない。というか、即死ではないだろうか。

「私たちはこの別荘での調査がありますので、お先にエレントバッハ司祭様とお屋敷へ参られてください」
「……」
「何か聞きたそうな顔をしていますね、アルドレア様」
「はい。ですが、尋ねません」
「それは良い心がけです。私たちはともに怪物と戦う者。怪物を倒せればそれでいいのです」

 なにも訊くな。
 言外に放たれる静かな威圧感でそう言われている。
 
 宣教師の秘密。
 なぜのに悪魔を押し切れたのか。
 なぜこのバレルアーチ神父は不可避の死から逃げきったのか。

 どうやら、教会の本当の恐ろしさは俺の目の届かないところにあるようだ。
 アルハンブラ神父は穏やかな笑顔の裏にソレを隠した。
 彼には俺が狩人に近いポジションの人間だとバレているのだろう。
 だから、俺を遠ざけた。

 狩人協会から見たトニス教会は、良く言えば盟友。
 悪く言えば、たづなを握れていない暴力装置だ。

 歴史的に狩人協会は人類を守って来た守護者であるがゆえ、口うるさくトニス教会を制御しようとしてきた。それは今なお変わらない。
 この二つの二大組織はお互いが邪魔なのだ。目的は一緒なのに。

 狩人と宣教師の微妙な軋轢はそうした上層部の対立から来ている。

「我々は戦友です。そうでしょう、アルドレア様」
「そうですね、アルハンブラ神父」


 ────


 目を覚ますと、知らない天井を見て、一瞬違和感を覚えた。
 
 ルールー家で寝てたのをすっかり忘れていた。
 腹筋の痛みに顔をゆがめながら、ベッドからおりて体をすこし動かしてみる。
 ところどころ痛い。特に腹。だいぶんましにはなっているが。
 怪我の直後で、よくあれだけ動けたな、俺えらいぞ。
 
「全部、アドレナリンのおかげでしたっと……イテテ」

 窓の外を見れば、真っ暗だった。
 時計を見やれば午後13時。
 早朝に継承戦が終わって、アルハンブラ神父と悪魔を倒したので、ざっと20時間くらいは寝ていたことになる。
 地球だったら一日近い時間だ。

 疲れてたんやな、俺。うん、頑張った頑張った。

「アルドレア様、失礼いたします」

 ベッド脇のサイドテーブルに置いてあったポーションを水と勘違いしてラッパ飲みしていると、ビショップが入ってきた。
 
「ポーションいただいてます」
「どうぞご自由にお使いください。傷は深く、しばらくは痛むでしょうが、霊薬に頼れば十分に治癒可能かと思われますので」

 フッ、自分からあえてポーション飲んでるアピールすることで、決して間違えて飲んだと思わせない。
 インテリジェンスあふれる顔つきも忘れない(キリッ)

「ところで、どういった御用ですか(キリッ)」
「報酬の話がまとまりましたので、ご連絡をしに参りました。おかけになったままで結構です」

 ビショップによれば、今回の一件はDランクのクエストとしてギルドに報告するという。俺もこのことに異論はない。まあ、異論はあるけど、ないことにする。
 エレントバッハの持つ思わず目を細めたくなってしまうような、あの覚悟を前にわざわざギルドに告げ口する野暮なことをしようとは思えない。

 代わりに、ルールー家の当主となったエレントバッハが報酬を用意してくれた。
 
「馬が三頭、靴、水筒、鍋、短剣、衣類、石鹸、葡萄酒、乾燥肉、香辛料、豆、果実、チーズ、麦、パン、ああ、もちろん白いパンでございます。加えて200万マニーの通貨を用意いたしました。荷物かと思われましたので、報酬の一部は魔力結晶に代えさせて頂きました。聖神国、都市国家連合、その先の国でも等しくマニーに交換することができましょう」
「ありがとうございます」
「こちらは後日、調達予定の物品でございますので、その際は改めてご確認をよろしくお願いします」

 眠る前にローレシア魔法王国へ帰るむねを伝えたところ、このようになった。
 リストを渡されて、俺が思いつかなかったような物まで用意してくれるとわかった時は感激したものだ。ビショップさん、本当にありがとうございます。
 
 ビショップさんが部屋を出ていった。

 今後の方針としては、アンナが遠征から帰ってくるのをルールー総合病院に入院しながら待つだけだ。詐欺からはじまった大きな仕事だったけど、結果的にはいい方向へ転がってくれた。

 ──トントンっ

「はい、どうぞ」

 夜も遅いので眠りなおそうかと思った矢先、訪問者があらわれた。
 
「失礼します」
「エレントバッハさん」
「アルドレア様……すこし、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 真夜中に美少女……なにか俺の勘が告げてきます。
 鋭すぎて、半分未来予知になっている超直観くんが言っています。

『このあと……ぴょいだ、アーカム』と。

 え? ぴょい? ぴょいってなんですか?
 
『ぴょいは……ぴょいだ、アーカム』

 超直観くん! それではわからないじゃないか!

『汝、ぴょいの準備を、せよ……』

 もっとわかりやすく!

『………………ぴょい』

 謎のワードと無駄なじらしに妄想をはかどらせながら、俺はエレントバッハさんを迎え入れます。いったい何が起こると言うんだ、超直観くん!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

処理中です...