異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第四章 悪逆の道化師

遺跡オーガ

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 遺跡オーガ。
 脅威度B。全滅することも珍しくない危険なモンスターだ。

 私は大杖を急いで手に取り、仲間と陣形をつくる。

 キャラバンのメンバーは14人。
 リーダーのオーレイさん含めた8人が学者、研究者で、残りの6人の私たち『フィギラの白翼』が守らなければならない。

 剣を手にした新メンバーが2名、遺跡オーガの突貫を止めるべく走りだす。
 闇雲に突っ込んでも、潰されるだけ。
 だが、彼らは剣術の心得をしっかりと修めた剣士だ。
 巧みな剣さばきで、オーガの足の健を斬りつける。
 うまい。私も剣士を目指したことがあったけど初段への道のりが長すぎて挫折した。
 そんな落ちこぼれの私からすれば、あの2人は天上人だ。

 オーガが轟音とともに転倒した。
 大きな棍棒で、乱雑にあたりを叩く。
 遺跡全体が揺れているようなきさえした。
 このダンジョンが死んで90年以上経過している。
 最悪、崩落するかもしれない。

 私はすぐに息の根を止める必要があると思った。
 使おう、魔術を。
 
 後衛は、私フレイヤの他にはアーチャーが2人いる。
 後衛と前衛の間には、盾とメイスをもった大柄のトーマスがいる。

 本来ならこのトーマスは盾をもって前へ出る。
 しかし、今回はオーガという大型モンスターが相手だ。
 盾で防げるとか、そういう規模的ではない。

 ────────────────────

         オーガ

        剣士 剣士
      
          盾
         弓 弓
          私(フレイヤ)
  
 ────────────────────

 冒険者の基本にのとった模範的な陣形だ。

 剣士たちが機動力を奪い、弓が遠方から顔を集中して放たれる。
 必要とあれば、魔術師の私が火力を加える。
 今はまさしく必要な時だ。
 
「不死鳥の魂よ、
  炎熱の形を与えたまへ
      ──《ファイナ》」

 私は遺跡オーガへ炎を放った。
 怪物の皮膚が焼けていく。灰色のイボイボがブチブチ破裂していく。
 痛々しいが、見た目ほどダメージが入っている訳ではない。
 その後に2発《ファイナ》を唱えて、さらなるダメージを叩き込んだ。

 遺跡オーガが苦痛にうめき、やがて動かなくなった。
 想像以上に強かった。
 すでに《ファイナ》を3回も使ってしまった。
 今日はこれ以上の戦闘はしたくない。

「フレイヤ大丈夫?」
「顔色悪いけど……」
「ごめん、ちょっと歩き疲れちゃってたみたい」

 ほかの要因で体力を使っていると、私の《ファイナ》は4回が一日の使用上限いなってしまう。
 昼間に《ファイナ》を使って松明をつけなくて正解だった。
 あの時、魔力を使っていたら、遺跡オーガに対応できなかった。

「ふう、危ないところだったよ。アーカム君も大丈夫かい?」
「はい、問題ないです」

 背後でオーレイさんとアーカムさんの話声が聞こえた。
 アーカムさんは若くて無茶をしがちだ。
 火と水の二式魔術師という、たぶん私が生涯で会える最高の才能マンだけど、さすがに昼間のはハリキリすぎだった。
 今の涼しい顔しているけど、私たちが対処しなかったら危なかったに違いない。
 まあ、私たちがアマゾロリアの客人を傷つけさせるわけないけどね。

「うわあああああ!!!」
「遺跡オーガ2体目だぁあああ!」
「2体どころじゃない! 3体,4体……5体まとめてきやがった!」
「なんでだよ、いつもこっちのエリアには来ないじゃねえかよ!」

 うそでしょ…………?

 私は唖然とした。
 暗闇から仲間の屍を乗り越えて、遺跡オーガたちがぞくぞくと現れていた。
 絶望。
 勝てない。
 前衛組も消耗してるし、私だって魔力は残ってない。
 でも、ここで逃げたらせっかくジュブウバリの里から持ち帰って来た積み荷が……。

 迷っている暇はなかった。

 私たちは一目散に撤退をはじめた。
 積み荷に火をつけて時間を稼ごう。
 そう思い、断腸の思いで大杖を構えて、詠唱をはじめる。

「待って」

 アーカムさんだった。
 大杖を手でおさえて「下がってて」と涼しげ言った。
 彼はとても美形で綺麗な瞳をしている。
 場違いにドキドキしながら、私は抗議の眼差しを彼へ向けて「また無茶するつもりですか」と告げ、構わず詠唱をはじめる。

「やめてください。火をつけるなんて許さないですよ」
「じゃあどうするんですか! 逃げる時間を稼がないと!」
「なぜ逃げる必要が」
「あれが見えないんですか! 遺跡オーガの群れですよ!」
「ですね。なら僕が狩りましょう」
「無茶ですよ、アーカムさん!! いくらなんでも5体なんて!! ここは逃げましょう、狭い通路へ逃げれば命は助かりますから!」
「積み荷を燃やす選択肢は存在しません。彼女たちから受け取った物でしょう。大事にしてください」

 アーカムさんはすこし怒っていたようだった。

 彼はそのまま遺跡オーガのほうへ向かっていき──風を放った。
 瞬間、遺跡オーガたちは次々と転倒した。
 機動力を奪ったところへ、今度は風を頭へ打ち込んでトドメを刺していった。

 この間、20秒たらず。
 信じられない光景だった。
 あまりに驚きすぎて、詠唱を聞き逃してしまうほどだった。
 もしかしたら、本当に詠唱をしてなかったかもしれない。
 でも、それは流石にないと思う。思いたい。

 屍の山が築き上げられ、彼は杖を片手にだらりとさげ、ふりかえった。

 彼は「相棒を探してきます」とオーガたちの屍を乗り越えて、暗黒のなかへと消えてしまった。

「あれが英雄というものなのでしょうね……」
「すごすぎます……」

 驚愕の瞬間を目撃してしまった。
 いつまでも鳥肌がやむことはなかった。

 
 ────


 おー、なんかオーガ来たな。
 ちゃちゃっとやっちゃうか?
 ていうかアンナっちなにしてんすか。
 明らか藪蛇では? 見つけたらきつく言わないと。

 でも冒険者たちが陣形整えてるし、ちょっと後方彼氏面で「あいつなら問題ない」って顔して、傍観に徹しますかね。
 あ、オーレイも高みの見物決め込んでんじゃん。
 
 なかなか冒険者たちはチームワークが取れてますねぇ。
 遺跡オーガ撃破! おめでとう。俺の出る幕なかったよ。
 いやね、本当はピンチになってから活躍しようかなって思ってたんだけど、まあ、倒しちゃったなら仕方ないかな。

 あれ? 新手ですか? 
 そうですか、やれやれ、アーカムさんの出番ですね。
 
 ってちょっと、なんで積み荷燃やそうとしてんすか、フレイヤさん。

「あれが見えないんですか! 遺跡オーガの群れですよ!」
「ですね。なら僕が狩りましょう」
「無茶ですよ、アーカムさん!! いくらなんでも5体なんて!! ここは逃げましょう、狭い通路へ逃げれば命は助かりますから!」
「積み荷を燃やす選択肢は存在しません。彼女たちから受け取った物でしょう。大事にしてください」

 これでもアマゾロリア観光大使なんでね。
 ジュブウバリの名産を外の世界へちゃんと持って行ってもらわんと怒りますよ。
 怒ってるアピールで恐い顔しておきますよっと。

 さて、それじゃあ、やりましょう。
 《アルト・ウィンダ》で転ばせて、っと。
 《アルト・ウィンダ》でトドメ刺してっと。
 はい、閉廷。
 
 こっちは修羅場乗り越えてるんです。
 今更、脅威度B(笑)なんて狩人さまに歯向かうのすらおこがましいっていうか、おこがマックス。普通にクルーエルサン案件ですよね。

「相棒を探してきます」

 俺はそれだけ言って、アンナっちを探しに行きましたとさ。
 モンスターたちにちょっかいだした悪い子はどこだ~。
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