異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第三.五章 開拓! アマゾーナの里!

旅立ち

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 最後の夜、里の真ん中の広場で盛大な宴が行われた。
 
「ジュブウバリの戦士たちよ! 我らの盟友、アーカム・アルドレアとアンナ・エースカロリを盛大に送り出してやるのだ!」

 楽しい日々だった。
 ふわふわの布団と、年中寒いローレシアの気候が恋しくなることはあった。
 それでもこの地の暑苦しいくらいに純真で、まっすぐな戦士たちが好きだった。

 宴がいよいよ終盤に差し掛かったところ。
 酔い乱れて大変破廉恥なことになっていくアマゾーナの美少女たち。
 オーレア、キャラバンの男性陣が、鼻の下を伸ばして眺めているところ、俺はカティヤに呼び出された。

 宴の賑やかさから離れた霊木の裏へやってくる。
 小川のせせらぎを心癒される静かなロケーション。
 墓から流れて来た死蛍が、青白い光をただよわせていた。
 闇の魔術師によって奪われた者が深淵の渦へと還る時期なためだ。

 俺たちは黙って死蛍を見あげる。

 カティヤは泉のなかへ入っていく。
 霊木の水脈が湧いている場所だ。
 怪物に破壊された霊木の水脈をそのまま湧き出る源泉のように改良した。
 そのため、ちょっとした泉になったのだ。
  
 カティヤは腰まで泉につかると、両手で水をすくった。
 清水を戯れる彼女を見ながら、泉のほとりに腰をおろす。

「ルルクスの河は濁っていて、どこにでもモンスターが潜んでいるものだ。安全な水源はない。我らが先祖の見つけ出したこの霊木だけが、我らに安全な水を与えてくださる」
「だから、川の近くではなくこの巨大な樹に里ができたんですね」

 文明はちゃんと流域に誕生していたわけだ。

「流石はアーカムだ。なんでもすぐにわかってしまうのだな」
「買いかぶりすぎですよ。僕は大事なことはなにひとつわかってなんかいないんです」
「そなたはいつも謙虚だ」

 カティヤはすくった水を飲む。
 
「綺麗な水に浸かるというのはとても気持ちの良いものだ。そなたも入ってみないか」
「泳ぐのは苦手で」
「そう言うな。泳ぐなどいう深さではあるまい」
 
 カティヤに手を引かれて、泉に入る。
 熱帯然とした蒸し暑さを一瞬で忘れられるひんやりとした清水。
 たしかにこれは気持ちが良いものだ。

 神秘的な泉のなかで、彼女の美しさはなおいっそう眩く見えた。
 清らかな雫が少女の暗い首筋をつたう。
 鎖骨のくぼみにとどまり、そして、双丘の内側へと滑り落ちていく。
 俺はごく自然なことのように、目で追っていた。
 

 ────


 翌日、朝、キャラバンは里を出発して帰路に着こうとしていた。
 俺とアンナはジュブウバリの戦士ひとりひとりに別れのハグと頬への接吻を受けていた。
 俺は2人目の暗殺コンビネーションで気絶したので、よく覚えていない。
 ただ、気絶したあともみんなは面白がって、好きなように俺に別れの挨拶をしてくれていたらしい。

 ようやく目覚めた頃には、さあ出発というところだった。
 
「あたしは前を守るよ。アーカムは後ろね」

 アンナはそう言って、キャラバンの先頭の方へ行ってしまう。
 俺とアンナは用心棒というカタチでキャラバンに同行することとなった。
 キャラバンの人たちは、俺たちが狩人候補者であることは知らない。

 キャラバンの前方が動き出し、里を出始める。
 ジュブウバリの戦士たちは手をふって、歓声をとともに、盛大に送り出してくれる。
 俺は昨晩の宴でプレゼントされたアマゾロニアの証だという翡翠《ひすい》の首飾りをもちあげて応答した。
 翡翠には魔除けの効果があるらしい。

「アーカム、これを持っていってくれ」
「カティヤさんの剣じゃないですか」

 カティヤは去り際の去り際というタイミングになって、いきなり木の上からふってきて、俺の手に剣を握らせてきた。
 彼女は双剣使いだ。普段はおそろいの二振りの剣を使っているのだが、今渡してきているのはそのうちの一振りだ。

「『伝説級』の剣アマゾディアだ。そなたは過酷に立ち向かう戦士。この剣もより強大な敵と戦うことを望んでいる」

 伝説級ってたしか凄いクラスだった気がする。
 
 師匠の講義を思いだす。

 六等級 または、神器級
 五等級 または、聖遺物級
 四等級 または、伝説級
 三等級 または、最高級
 二等級 または、高級
 一等級 特に呼び名無し

 市場でまともに流通しているのは『高級』までだ。
 オーダーメイドしたり、高級武器をあつかう専門店に行けば『最高級』の武器を手に入れる機会はあるかもしれない。

 しかし、そのうえの『伝説級』の剣はまずお目に掛かれない。
 歴史に名を刻むような名工にしか鍛えられない大業物であるからだ。

「やたら良い剣だと思ってましたけど、伝説級だったなんて……そんなの受け取れませんよ。ジュブウバリの宝剣でしょう」
「よい。使ってくれ……そして、たまに我のことを思い出してほしい」

 カティヤは頬を赤く染め、剣を押し付けて、無理やり握らせてきた。
 
「アーカム君、なにをしているんだい、行ってしまうぞ~」

 オーレアの声が焦らせて来る。
 「今行きます」と返事をして、カティヤに向き直ると、もうそこに彼女の姿はなかった。

「アーカム様!!! 族長の想い、もらってあげてください!!」

 セーラが真っ赤な顔して言ってくる。
 いや、俺はいいんだよ? こんなすごい剣がもらえるなら、嬉しいに決まってるよ?
 
「人の好意は素直に受け取れってやつですか……わかりました、それじゃあ、カティヤさんにお礼に言っておいてください『剣は確かに受け取りましたって』」

 そう言い残して、すべての日々に終わりを告げる。

 さようなら、カティヤさん。

 俺はキャラバンのあとを走って追いかけた。
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