上 下
68 / 306
第三.五章 開拓! アマゾーナの里!

貴重な水産資源

しおりを挟む

 俺たちはビショビショになりながら、お互いに顔を見合わせる。
 アンナが俺の身体を支えたくれたおかげで、流されずに済んだ。
 彼女がいなかったら、今頃は激流の藻屑となっていただろう。

 桜色に輝く瞳がじーっと見つめてくる。

「ごめんなさい。すみません。申し訳ございません、許してください、アンナさん」
「別に怒ってないよ、アーカム。あたしが言いだしたんだし」
「目が。目が怒ってます、どう見ても。というか痛い、僕の身体をホールドする握力がリンゴを潰す時のやつになってます、痛い痛い」
「ただあんなに川を持ち上げるとは思わなくて」
「仮説をこねくりまわすより、とりあえず実践したほうがわかることは多いんですよ」

 そうやって天才たちを出し抜いてきた。
 何度だって失敗すればいい。
 それが近道だと俺は信じてる。
 ただ、人に迷惑をかけるのはだめだね。
 
「まあいいよ。アーカムだし特別に許しておくよ」

 アンナは不満げながらも、納得してくれたようでそれ以上は何も言ってはこなかった。

「ん。ねえ、アーカム」
「なんです」
「あれ」
「?」
「なんかいるよ」

 アンナは濡れた髪をかきあげながら、水浸しになった川辺を指さす。
 見やればタコのようなモンスターの群れが川からあがってきていた。
 よく見れば、森のあちこちにタコがいる。
 タコの吸盤にあたる部位には、ちいさな口が付いており、口にはちいさな牙がずらりと並んでいる。
 エイリアンの赤ちゃんフェイスハガーになんとなく雰囲気が似てる。つまりキモい。

「どうやら川の近くに里を作らない理由が分かりましたね。あのキモッシュたちが水のなかに潜んでいるからに違いないです」
「なんでもいいけどさ、アーカム、あたし剣持ってないよ」
「え? さっき持ってましたけど……あ、流されたんですか……武器を失くすなんて仕方ないですね」
「誰のせいかな」
「さて、ここは僕が一肌脱ぎましょうか」

 ちょうど水があるので、俺は《ウォーラ》で水を集積し、操作で鞭のように形状を整えて、発射を使って、水の斬撃を撃ちだした。

 タコは真っ二つになり絶命する。
 俺が攻撃した瞬間、タコたちは蜂の巣をつついたような勢いで襲いかかってきた。
 水辺からさらに追加でタコたちもあがってくる。
 仲間を殺されて、俺を正式に敵とみなしたらしい。

 水の鞭で撫で斬りしていく。
 ただ呑気に鞭をふってる暇がないほどの数になってきた。
 遊びはおしまいだ。
 鞭を捨てて《ウィンダ》で細かく撃ち殺していく。
 毎秒2発の連射で、正確にタコの頭を撃ち抜いていき、1分後には殲滅しきった。
 
「このモンスター、ジュブウバリ族なら、なにか活用法を知ってるかもしれないですね」
「なるほど。流石はアーカム」

 アンナはポンっと手を打つと、俺を抱っこして走りはじめた。
 
 狩人の足に任せるとさほど急がずとも30分掛からずに里に戻れてしまった。
 剣気圧を使えない俺の足が、どれだけ遅いのか痛感させられるタイムだ。

「セーラさん、このタコ足なにかに使えますか?」
「アーカム様、どこに行ってたんですか、もう現場は大変ですよ~!」

 アンナに抱っこされてる俺を、アンナの腕から奪い取り、セーラは頬ずりをしてくる。
 柔らかくて、温かくて、とてもよい。
 
「アーカムからちょっと離れてくれない? 近すぎるでしょ」
「ひぃ、アンナ先生そんな恐い顔しないでくださいよ……っ!」

 アンナのひと睨みでセーラが離れる。
 危ないところだった。
 あれ以上、質量的成長を遂げたセーラの巨乳に圧をかけられていたら暗殺成功されてるところだった。

「っ! これはオクットパスの脚じゃないですか! アーカム様が倒したんですか!」

 セーラは大変喜んでくれた。
 聞くところによると、あのタコたちは群れをなして水辺に住み、集団で狩りをするとても危険なモンスターらしい。
 吐き出す粘液は、木の上にいても届くほど射程が長く、勢いがある。
 その気になればオクットパスたちは木登りもしてくるので、とても厄介だとか。
 
 ちいさくすばしこいので、狩ろうとしても被害のほうが甚大になるので、基本的にジュブウバリはこのモンスターを狩らないようだ。

「でも、オクットパスはとってと美味しいんですよ! 干物にもできます! それに軟骨を抜いて加工すれば薬になります! 繊維として使うこともできます!」

 使用用途が広範囲で、高級な薬になるか。
 資源的な価値は高そうだ。

 俺たちはオクットパスが今なら拾い放題だとセーラに伝えた。
 セーラはこのことをすぐにカティヤに報告した。
 カティヤは精鋭部隊を組織し、オクットパス拾い隊を結成すると、すぐに里を出発した。

 川にたどり着くと、カティヤたちは「これはすごい!」と大興奮でオクットパスを拾いはじめた。

「そなたたち油断はするなよ」

 鼻息荒くカティヤは言うのだった。

「アーカム様、ありがとうございます!」
「流石はアーカム様ですね、こんなにオクットパスが食べられるなんて夢みたいですよ!」
 
 その晩、オクットパスを使った祝宴が開かれた。
 俺たちも参加させてもらい、料理を振る舞われ、その味を知った。
 なるほど。確かにうまい。
 鮮度の良い白身魚のような食感だ。

「これはジュブウバリの里の新しい水産資源になりますね」

 カティヤの話では交易商人たちは、喜んでオクットパスの素材に布ひと巻を差し出すという。
 タコ一匹で、10人分の布の服を作れるレートなのだ、この里は。 
 ぜひとも大漁を実現してあげたい。
 2年半もお世話になったジャブウバリに少しでも恩返しするために。

 翌日、俺は再び川の近くに来ていた。
 もちろん、アンナをタクシーとして移動してきた。

「アーカム、どうするの?」
「この濁った川を里まで引くのはやめた方がいいでしょうね。オクットパスというモンスターは危険ですから。あと現実的に難しいです。世の中にはリスクとコストという言葉があります。川を動かすのはどちらも見合ってないです」

 ジュブウバリ族の健脚なら1時間でこの川にたどり着くのだし、生活用水に彼女たちが困っている様子はない。
 
 ただ、オクットパスは欲しい。
 俺が欲しいというか、ジュブウバリ族にこの貴重な水産資源を自由に利用させてあげたい。

「でも、狩るのは危険なんですよね」

 俺は川辺に立って、濁流を見つめる。
 空を見上げる。
 何か良いアイディアはないものか……。

「ん?」

 空を見ていると月が目に入った。
 異世界の3つの月だ。
 初めの頃は「へぇ、3つもあるんだぁ」と不思議に思っていたあれである。

「3つ……。もしかして」

 視線を足元に向ける。
 川辺を観察すると、昨日よりかなりことに気がつく。

「アーカム、何か思いついたの?」
「オクットパスを安全に捕獲するいい方法を思いつきましたよ」
「流石はアーカム。それでその方法は?」
「月を使いましょう」
「……?」

 アンナは難しい顔をして小首をかしげた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

処理中です...