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第三.五章 開拓! アマゾーナの里!
貴重な水産資源
しおりを挟む俺たちはビショビショになりながら、お互いに顔を見合わせる。
アンナが俺の身体を支えたくれたおかげで、流されずに済んだ。
彼女がいなかったら、今頃は激流の藻屑となっていただろう。
桜色に輝く瞳がじーっと見つめてくる。
「ごめんなさい。すみません。申し訳ございません、許してください、アンナさん」
「別に怒ってないよ、アーカム。あたしが言いだしたんだし」
「目が。目が怒ってます、どう見ても。というか痛い、僕の身体をホールドする握力がリンゴを潰す時のやつになってます、痛い痛い」
「ただあんなに川を持ち上げるとは思わなくて」
「仮説をこねくりまわすより、とりあえず実践したほうがわかることは多いんですよ」
そうやって天才たちを出し抜いてきた。
何度だって失敗すればいい。
それが近道だと俺は信じてる。
ただ、人に迷惑をかけるのはだめだね。
「まあいいよ。アーカムだし特別に許しておくよ」
アンナは不満げながらも、納得してくれたようでそれ以上は何も言ってはこなかった。
「ん。ねえ、アーカム」
「なんです」
「あれ」
「?」
「なんかいるよ」
アンナは濡れた髪をかきあげながら、水浸しになった川辺を指さす。
見やればタコのようなモンスターの群れが川からあがってきていた。
よく見れば、森のあちこちにタコがいる。
タコの吸盤にあたる部位には、ちいさな口が付いており、口にはちいさな牙がずらりと並んでいる。
エイリアンの赤ちゃんフェイスハガーになんとなく雰囲気が似てる。つまりキモい。
「どうやら川の近くに里を作らない理由が分かりましたね。あのキモッシュたちが水のなかに潜んでいるからに違いないです」
「なんでもいいけどさ、アーカム、あたし剣持ってないよ」
「え? さっき持ってましたけど……あ、流されたんですか……武器を失くすなんて仕方ないですね」
「誰のせいかな」
「さて、ここは僕が一肌脱ぎましょうか」
ちょうど水があるので、俺は《ウォーラ》で水を集積し、操作で鞭のように形状を整えて、発射を使って、水の斬撃を撃ちだした。
タコは真っ二つになり絶命する。
俺が攻撃した瞬間、タコたちは蜂の巣をつついたような勢いで襲いかかってきた。
水辺からさらに追加でタコたちもあがってくる。
仲間を殺されて、俺を正式に敵とみなしたらしい。
水の鞭で撫で斬りしていく。
ただ呑気に鞭をふってる暇がないほどの数になってきた。
遊びはおしまいだ。
鞭を捨てて《ウィンダ》で細かく撃ち殺していく。
毎秒2発の連射で、正確にタコの頭を撃ち抜いていき、1分後には殲滅しきった。
「このモンスター、ジュブウバリ族なら、なにか活用法を知ってるかもしれないですね」
「なるほど。流石はアーカム」
アンナはポンっと手を打つと、俺を抱っこして走りはじめた。
狩人の足に任せるとさほど急がずとも30分掛からずに里に戻れてしまった。
剣気圧を使えない俺の足が、どれだけ遅いのか痛感させられるタイムだ。
「セーラさん、このタコ足なにかに使えますか?」
「アーカム様、どこに行ってたんですか、もう現場は大変ですよ~!」
アンナに抱っこされてる俺を、アンナの腕から奪い取り、セーラは頬ずりをしてくる。
柔らかくて、温かくて、とてもよい。
「アーカムからちょっと離れてくれない? 近すぎるでしょ」
「ひぃ、アンナ先生そんな恐い顔しないでくださいよ……っ!」
アンナのひと睨みでセーラが離れる。
危ないところだった。
あれ以上、質量的成長を遂げたセーラの巨乳に圧をかけられていたら暗殺成功されてるところだった。
「っ! これはオクットパスの脚じゃないですか! アーカム様が倒したんですか!」
セーラは大変喜んでくれた。
聞くところによると、あのタコたちは群れをなして水辺に住み、集団で狩りをするとても危険なモンスターらしい。
吐き出す粘液は、木の上にいても届くほど射程が長く、勢いがある。
その気になればオクットパスたちは木登りもしてくるので、とても厄介だとか。
ちいさくすばしこいので、狩ろうとしても被害のほうが甚大になるので、基本的にジュブウバリはこのモンスターを狩らないようだ。
「でも、オクットパスはとってと美味しいんですよ! 干物にもできます! それに軟骨を抜いて加工すれば薬になります! 繊維として使うこともできます!」
使用用途が広範囲で、高級な薬になるか。
資源的な価値は高そうだ。
俺たちはオクットパスが今なら拾い放題だとセーラに伝えた。
セーラはこのことをすぐにカティヤに報告した。
カティヤは精鋭部隊を組織し、オクットパス拾い隊を結成すると、すぐに里を出発した。
川にたどり着くと、カティヤたちは「これはすごい!」と大興奮でオクットパスを拾いはじめた。
「そなたたち油断はするなよ」
鼻息荒くカティヤは言うのだった。
「アーカム様、ありがとうございます!」
「流石はアーカム様ですね、こんなにオクットパスが食べられるなんて夢みたいですよ!」
その晩、オクットパスを使った祝宴が開かれた。
俺たちも参加させてもらい、料理を振る舞われ、その味を知った。
なるほど。確かにうまい。
鮮度の良い白身魚のような食感だ。
「これはジュブウバリの里の新しい水産資源になりますね」
カティヤの話では交易商人たちは、喜んでオクットパスの素材に布ひと巻を差し出すという。
タコ一匹で、10人分の布の服を作れるレートなのだ、この里は。
ぜひとも大漁を実現してあげたい。
2年半もお世話になったジャブウバリに少しでも恩返しするために。
翌日、俺は再び川の近くに来ていた。
もちろん、アンナをタクシーとして移動してきた。
「アーカム、どうするの?」
「この濁った川を里まで引くのはやめた方がいいでしょうね。オクットパスというモンスターは危険ですから。あと現実的に難しいです。世の中にはリスクとコストという言葉があります。川を動かすのはどちらも見合ってないです」
ジュブウバリ族の健脚なら1時間でこの川にたどり着くのだし、生活用水に彼女たちが困っている様子はない。
ただ、オクットパスは欲しい。
俺が欲しいというか、ジュブウバリ族にこの貴重な水産資源を自由に利用させてあげたい。
「でも、狩るのは危険なんですよね」
俺は川辺に立って、濁流を見つめる。
空を見上げる。
何か良いアイディアはないものか……。
「ん?」
空を見ていると月が目に入った。
異世界の3つの月だ。
初めの頃は「へぇ、3つもあるんだぁ」と不思議に思っていたあれである。
「3つ……。もしかして」
視線を足元に向ける。
川辺を観察すると、昨日よりかなり水位が低いことに気がつく。
「アーカム、何か思いついたの?」
「オクットパスを安全に捕獲するいい方法を思いつきましたよ」
「流石はアーカム。それでその方法は?」
「月を使いましょう」
「……?」
アンナは難しい顔をして小首をかしげた。
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