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第三.五章 開拓! アマゾーナの里!
川を見つけた
しおりを挟む闇の魔術師たちの襲撃から10日。
霊木の破片はさまざまな使い道があった。
里の瓦礫をすこしずつ木炭に変えて、生活の糧にしたり。
天然のバリケードを里の周辺に設置して、外敵からの防備を固めたり、ゲンゼの作った岩壁を補強するための建材に使ったりした。
まあ、地上施設に流用する案をだして、中をくりぬいて、失われた住居を確保したり。
そうして、俺たちはせわしくなく毎日を過ごしていた。
「アーカム、ちょっと」
朝。
自室で世話係のセーラに本日の予定を聞かされていると、アンナがひょっこりやってきた。
「アーカム、ちょっと」それは「アーカム、ちょっとあんたの魔術で大変な仕事をこなしてくれる? あ、もちろん、賃金なんて出ないけどね。やるよね?」というブラック企業を極めた我が同僚の脅迫の省略文である。
「カティヤ様のお勉強、木炭の引き続き生産活動、畑の増設計画、瓦礫撤去作業現場の視察、あ、仮面を無くした子がいるので探してほしいとの依頼も舞い込んでますね!」
セーラは笑顔で過労を課してくるし。
なんでこんな俺働いてんの。
みんな俺が10日前に2年ぶりに目を覚ましたこともう忘れちゃったのかな?
「お面の作り方も教えておかないとだなぁ……ああそうですよ、ジュブウバリ印の霊木製お面とか交易商人に売れるんじゃないですか? コミュニティの発展を考えるなら、原価的な価値しか生み出せない第一次産業から、付加価値をつけれる第二次産業に移行するべきだと思うんですよ」
「ちょっと何言ってるかわからないですよ! アーカム様!」
「すみません。働きます」
とりあえず、アンナの案件から取り掛かろう。
部屋の前で待機していたアンナに合流し、案内されるがままに地上へ降りてきた。
「走るよ、アーカム」
「いいですよ」
そのまましばらく走った。
剣気圧を使えない俺に合わせて加減はしてくれていたが、それでもかなりの速度だった。
かつてゲンゼが建造したらしい岩の壁まですぐにたどり着く。
俺とアンナは壁を乗り越えて、さらに進む。
そこから長かった。
1時間以上走っただろうか。
普通にクタクタになって「ちょ、ちょっと休憩……っ」と弱音を吐いていると「仕方ないなぁ」とアンナは俺を抱っこしはじめた。
昔、ゲンゼにお姫様抱っこされたときを思いだす。
俺って女の子に抱っこされがちだよね。
肉体派の子が多いからかな。
アンナに運ばれるだけの簡単なお仕事をすることしばらく。
水の流れる音が聞こえる
案の定、川が流れていた。
小川ではない。
アマゾンの流域地帯のようなデカい川だ。
幅が10mくらいはあるだろうか。
走った速度と時間を考えれば、おそらくジュブウバリ族の里から40km以上離れている。
本日の仕事の大部分はキャンセルだな、こりゃ。
「すごい川ですね。まあ、それよりすごいのは『アーカム、ちょっと』でこんな場所まで僕を連れ出してきたアンナの方ですけど」
「ハイパーモード使えばちょっとでしょ」
ハイパーモード使ってる時点でちょっと案件じゃないんよ。
「にしても、おかしいですね」
「ん。なにが」
「こんなに豊かな水資源があるのに河川流域に里がない事がですよ」
世界四大文明の起こりは川にある。
メソポタミア文明、インダス文明、エジプト文明、中国文明、これらは豊かな水資源を確保できる川の近郊で生まれた。
四大河文明と呼ばれるくらいだし。
「地政学的な視点で見れば、この川のすぐ近くに里があったほうが、いろいろ便利ですよね」
「たしかに。カティヤたちは葉っぱの露をためる道具と、霊木から湧く水脈の清水で生きてるのは不便そう」
「そういえば、アンナはどうして僕をここに?」
「アーカムと同じことを考えたんだ。ジュブウバリ族の里に川が流れてたほうがいいと思って」
「まあそうでしょうけど。でも、僕がここに来ても出来ることなんて……え、なんですかその目」
「この川を何とかして里の近くに移動できない? アーカムなら出来るはず」
「さては僕を神かなにかを勘違いしてますね、アンナ」
普通に無理。
霊木の幹の内には、豊かな水脈が通っていて、そこの水を融通して、畑を潤すくらいは出来なくはない。
というか、現にそうやってジュブウバリの畑に水を回している。
「水属性式魔術で川の向きを変える、みたいな」
「だから、神と勘違いしてますよね」
「出来ないの?」
「うーん」
言ってみたあとで考えてみる。
川の流れを変える……つまり、転流工事ということになる。
ダムの建設の際などにたびたび行われる大きな工事だ。
それを俺1人で行えるか。
《イルト・ウォーラ》で行える水流操作を頑張れば、川の一部を割譲することはできるかもしれない。
だいたい25mプールの水、つまり25,000リットルくらいの操作なら可能だと、俺の経験上からは言える。
この倍くらいもたぶん平気。
さらにその倍は完全に術式の想定外のスケールになるので不可能だと思う。てか試したことない。
「…………」
「どう?」
「…………やってはみます」
「やった。出来るってことだ」
「やってみます」
「頑なに出来るとは言わないんだ」
「大人ですから。無謀な責任は取れませんよ」
俺はコトルアの杖を手に取る。
先日、ランレイから押収した物だ。
3等級の杖で非常に品質が良い。
スペックは以下の通りだ。
──────────────
コトルアの杖
・消費魔力軽減 50%
・魔力還元 20%
・魔力装填量増加 55%
・高等魔術最適化 70%
──────────────
ちなみにこれが今までの愛杖トネリッコのスペック。
──────────────
トネリッコの杖
・消費魔力軽減30%
・魔力還元 10%
・魔力装填量増加30%
──────────────
2等級だったトネリッコの杖に比べると、3等級のコトルアの杖は、べらぼうにスペックが高い。1等級あがるだけでこんなに変わるものかと驚嘆する。
魔力還元20%も大きい。
魔力を使った分の20%が純魔力として、術者に返ってくると言う効果だ。
最も注目するべきは、高等魔術最適化 70%である。
『高等魔術最適化』というステータスの効果は、スケールの大きな魔術を使う場合に発揮される。
デカイ魔術には、必ずと言っていいほど同じ術式の繰り返しと、単純な規模拡張がつきものだ。『高等魔術最適化 70%』は魔力のロスによって失われる魔力を70%をリサイクルして術式に補填する。
つまり、より少ない魔力で大規模魔術を使えるのだ。
川の転流工事においては、きっと魔力の消費軽減に大きな貢献をしてくれるだろう。
なにはともあれ実践だ。
まずは持ち上げてみよう。
「水の女神よ、清涼なる神秘を与えたまへ
境界に潜みし者よ、
深き秘密の渇きを満たしたまへ
──《イルト・ウォーラ》」
完全詠唱水属性三式魔術。
川の水に基礎詠唱式:操作にて干渉して、思いきり川を持ちあげる。
超質量の水流が、木々を薙ぎ倒しながら辺り一体を更地にしていく。
水の流れを使い、地面を削り、そのままいい感じに収まるか……いや、収まるわけないか。
失敗。
「あ。川が落ちてくる」
「アンナ、僕を守ってくれますか」
「え……、これ失敗?」
「失敗ですが?」
開き直ってそう言うと、アンナは急いで俺の身体を抱きしめてその場に踏ん張った。
すぐのち、50,000リットルの水が空から落ちてきて、俺とアンナを巻き込んで、あたり一帯の森を水浸しにした。
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