上 下
67 / 306
第三.五章 開拓! アマゾーナの里!

川を見つけた

しおりを挟む

 闇の魔術師たちの襲撃から10日。
 霊木の破片はさまざまな使い道があった。
 里の瓦礫をすこしずつ木炭に変えて、生活の糧にしたり。
 天然のバリケードを里の周辺に設置して、外敵からの防備を固めたり、ゲンゼの作った岩壁を補強するための建材に使ったりした。
 まあ、地上施設に流用する案をだして、中をくりぬいて、失われた住居を確保したり。

 そうして、俺たちはせわしくなく毎日を過ごしていた。
 
「アーカム、ちょっと」

 朝。
 自室で世話係のセーラに本日の予定を聞かされていると、アンナがひょっこりやってきた。
 「アーカム、ちょっと」それは「アーカム、ちょっとあんたの魔術で大変な仕事をこなしてくれる? あ、もちろん、賃金なんて出ないけどね。やるよね?」というブラック企業を極めた我が同僚の脅迫の省略文である。

「カティヤ様のお勉強、木炭の引き続き生産活動、畑の増設計画、瓦礫撤去作業現場の視察、あ、仮面を無くした子がいるので探してほしいとの依頼も舞い込んでますね!」

 セーラは笑顔で過労を課してくるし。

 なんでこんな俺働いてんの。
 みんな俺が10日前に2年ぶりに目を覚ましたこともう忘れちゃったのかな?
 
「お面の作り方も教えておかないとだなぁ……ああそうですよ、ジュブウバリ印の霊木製お面とか交易商人に売れるんじゃないですか? コミュニティの発展を考えるなら、原価的な価値しか生み出せない第一次産業から、付加価値をつけれる第二次産業に移行するべきだと思うんですよ」
「ちょっと何言ってるかわからないですよ! アーカム様!」
「すみません。働きます」

 とりあえず、アンナの案件から取り掛かろう。

 部屋の前で待機していたアンナに合流し、案内されるがままに地上へ降りてきた。

「走るよ、アーカム」
「いいですよ」

 そのまましばらく走った。
 剣気圧を使えない俺に合わせて加減はしてくれていたが、それでもかなりの速度だった。
 かつてゲンゼが建造したらしい岩の壁まですぐにたどり着く。
 俺とアンナは壁を乗り越えて、さらに進む。
 
 そこから長かった。
 1時間以上走っただろうか。
 普通にクタクタになって「ちょ、ちょっと休憩……っ」と弱音を吐いていると「仕方ないなぁ」とアンナは俺を抱っこしはじめた。

 昔、ゲンゼにお姫様抱っこされたときを思いだす。
 俺って女の子に抱っこされがちだよね。
 肉体派の子が多いからかな。
 
 アンナに運ばれるだけの簡単なお仕事をすることしばらく。
 水の流れる音が聞こえる
 案の定、川が流れていた。
 小川ではない。
 アマゾンの流域地帯のようなデカい川だ。
 幅が10mくらいはあるだろうか。
 走った速度と時間を考えれば、おそらくジュブウバリ族の里から40km以上離れている。
 本日の仕事の大部分はキャンセルだな、こりゃ。

「すごい川ですね。まあ、それよりすごいのは『アーカム、ちょっと』でこんな場所まで僕を連れ出してきたアンナの方ですけど」
「ハイパーモード使えばちょっとでしょ」

 ハイパーモード使ってる時点でちょっと案件じゃないんよ。

「にしても、おかしいですね」
「ん。なにが」
「こんなに豊かな水資源があるのに河川流域に里がない事がですよ」

 世界四大文明の起こりは川にある。
 メソポタミア文明、インダス文明、エジプト文明、中国文明、これらは豊かな水資源を確保できる川の近郊で生まれた。
 四大河文明と呼ばれるくらいだし。

「地政学的な視点で見れば、この川のすぐ近くに里があったほうが、いろいろ便利ですよね」
「たしかに。カティヤたちは葉っぱの露をためる道具と、霊木から湧く水脈の清水で生きてるのは不便そう」
「そういえば、アンナはどうして僕をここに?」
「アーカムと同じことを考えたんだ。ジュブウバリ族の里に川が流れてたほうがいいと思って」
「まあそうでしょうけど。でも、僕がここに来ても出来ることなんて……え、なんですかその目」
「この川を何とかして里の近くに移動できない? アーカムなら出来るはず」
「さては僕を神かなにかを勘違いしてますね、アンナ」

 普通に無理。
 霊木の幹の内には、豊かな水脈が通っていて、そこの水を融通して、畑を潤すくらいは出来なくはない。
 というか、現にそうやってジュブウバリの畑に水を回している。

「水属性式魔術で川の向きを変える、みたいな」
「だから、神と勘違いしてますよね」
「出来ないの?」
「うーん」

 言ってみたあとで考えてみる。
 川の流れを変える……つまり、転流工事ということになる。
 ダムの建設の際などにたびたび行われる大きな工事だ。
 それを俺1人で行えるか。
 《イルト・ウォーラ》で行える水流操作を頑張れば、川の一部を割譲することはできるかもしれない。
 だいたい25mプールの水、つまり25,000リットルくらいの操作なら可能だと、俺の経験上からは言える。
 この倍くらいもたぶん平気。
 さらにその倍は完全に術式の想定外のスケールになるので不可能だと思う。てか試したことない。
 
「…………」
「どう?」
「…………やってはみます」
「やった。出来るってことだ」
「やってみます」
「頑なに出来るとは言わないんだ」
「大人ですから。無謀な責任は取れませんよ」

 俺はコトルアの杖を手に取る。
 先日、ランレイから押収した物だ。
 3等級の杖で非常に品質が良い。

 スペックは以下の通りだ。

 ──────────────
 コトルアの杖
 ・消費魔力軽減 50%
 ・魔力還元 20%
 ・魔力装填量増加 55%
 ・高等魔術最適化 70%
 ──────────────

 ちなみにこれが今までの愛杖トネリッコのスペック。

 ──────────────
 トネリッコの杖
 ・消費魔力軽減30%
 ・魔力還元 10%
 ・魔力装填量増加30%
 ──────────────

 2等級だったトネリッコの杖に比べると、3等級のコトルアの杖は、べらぼうにスペックが高い。1等級あがるだけでこんなに変わるものかと驚嘆する。
 
 魔力還元20%も大きい。
 魔力を使った分の20%が純魔力として、術者に返ってくると言う効果だ。

 最も注目するべきは、高等魔術最適化 70%である。
 『高等魔術最適化』というステータスの効果は、スケールの大きな魔術を使う場合に発揮される。
 デカイ魔術には、必ずと言っていいほど同じ術式の繰り返しと、単純な規模拡張がつきものだ。『高等魔術最適化 70%』は魔力のロスによって失われる魔力を70%をリサイクルして術式に補填する。
 つまり、より少ない魔力で大規模魔術を使えるのだ。
 川の転流工事においては、きっと魔力の消費軽減に大きな貢献をしてくれるだろう。

 なにはともあれ実践だ。
 まずは持ち上げてみよう。

「水の女神よ、清涼なる神秘を与えたまへ
  境界に潜みし者よ、
    深き秘密の渇きを満たしたまへ
     ──《イルト・ウォーラ》」

 完全詠唱水属性三式魔術。
 
 川の水に基礎詠唱式:操作にて干渉して、思いきり川を持ちあげる。
 超質量の水流が、木々を薙ぎ倒しながら辺り一体を更地にしていく。
 水の流れを使い、地面を削り、そのままいい感じに収まるか……いや、収まるわけないか。

 失敗。

「あ。川が落ちてくる」
「アンナ、僕を守ってくれますか」
「え……、これ失敗?」
「失敗ですが?」

 開き直ってそう言うと、アンナは急いで俺の身体を抱きしめてその場に踏ん張った。

 すぐのち、50,000リットルの水が空から落ちてきて、俺とアンナを巻き込んで、あたり一帯の森を水浸しにした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される とあるところに勇者6人のパーティがいました 剛剣の勇者 静寂の勇者 城砦の勇者 火炎の勇者 御門の勇者 解体の勇者 最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。 ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします 本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。 そうして彼は自分の力で前を歩きだす。 祝!書籍化! 感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

処理中です...