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第三.五章 開拓! アマゾーナの里!
ジュブウバリの畑事情
しおりを挟む翌日。
俺とアンナとカティヤ、そして、12人の部隊長たちは、虫の息のランレイを尋問していた。
「どこから来た。拠点があるだろう。あれだけの魔獣兵器を製造した拠点が。どこにある」
「クソが……クソの狩人どもが……お前たちさえいなければ……」
カティヤは思いきりぶん殴る。
縛り付けられたランレイの頭が弾かれる。
もはや顔面血だらけで、それありに整っていた彼の顔の面影はない。
ランレイの開発した合成魔術は、彼自身に吸血鬼の細胞の一部を融合させることに成功していた。驚異的な生命力を由来である。
ただ、こちらとて吸血鬼の専門家だ。
「カティヤさん、僕とアンナがやります」
俺はカティヤ含め、アマゾーナたちを監禁部屋を退出させた。
「あたしはカティヤみたいに優しくないよ」
「エクセレント、メスガキが……オブスクーラに食べられそうになってキャンキャン泣いていたくせに、強がるじゃないか、ええ……」
アンナは銀の刃を取りだす。
ランレイはその輝きを見た瞬間、スンっと怯えた表情に変わった。
里にあった銀から刃をつくったのだ。
吸血鬼の細胞にこの刃は致命的なダメージを与える。
「ショック死なんてつまらないことにしないでね」
狩人は戦う技以外に、多くのことを勉強する。
特殊な怪物の倒し方、有効な武器、生態、活動地域、サバイバル、変装、尾行、情報取集、そして、拷問にいたるまで多くの能力を身につける。
俺とアンナは師匠から多くのことを学んでいるのだ。
数時間もしないうちに、アンナはランレイの口を割らせた。
俺とアンナとカティヤは、ジュブウバリの精鋭戦士たちを連れて、オブスクーラの会の拠点を見つけ出し、そこに囚われているアマゾーナを救い出した。
30名以上。
ただ、すべてがジュブウバリ族のアマゾーナではなかった。
他の部族のアマゾーナも混ざっていたのである。
ランレイたちはアマゾーナの6つの部族すべてから拉致していたのだ。
ゆえにジュブウバリ族は拉致されていたアマゾーナの戦士たちを、それぞれの里へと送り届けることになった。
とはいえ、ルルクス森林は広大で、アマゾーナの各部族が住んでいる地域はそれぞれが離れている。
深い森を数日かけて移動することになるのだ。
そのため、今すぐではなく、準備が必要だった。
ただ、オブスクーラの会の襲撃のせいでジュブウバリの里にはとても余裕がなかった。
俺はジュブウバリの里のために出来る限りのことをすることにした。
オブスクーラの会の拠点から帰ってきた翌日、俺は畑を見にいった。
「うぇぇえん! 一生懸命作ったのにぃぃい!」
子供たちがめちゃくちゃになった畑を見て泣いていた。
もともと、ジュブウバリには作物を植えて自分たちでつくるという農耕の概念はなかった。
ルルクス森林の恵みが豊かであり、ちょっと里を出て探せば、果物を見つけることができるからだ。
俺は眠りにつく前、つまりオブスクーラの会とのあの決戦をする前に、ジュブウバリ族に多くのことを伝えた。
彼女たちに信頼してもらうための、ある意味でのずる賢いシャープパワーの一つだったが、今ではそのことを後悔してはいない。
農耕は当時、俺が伝えた知恵のひとつだ。
2年の時を経て、俺が眠っている間に、ジュブウバリ族は畑に関する理解を深め、経験値を積み、独自に発展させてきていたようだ。
「魚を与えるのではなく、捕り方を教えろ」とはよく言ったものだ。
彼女たちは俺無しでも立派にやっていた。
ただ、その成果はすべて破壊されてしまったわけだが。
「アーカム、さま、わたし、たち、ぐすん、いっしょう、けんめい、やってたのに……こーんな、おおきな、かぼちゃ……ぐすんっ」
俺は霊木に押し潰されず生き残ったカボチャを手に取る。
ルルクスの豊かな土壌エネルギーをたっぷりと吸って、バランスボールみたいに丸々と太ったとんでもない巨大カボチャだった。
ルルクス森林の恵み凄すぎません?
「よく出来てますよ。こんな大きなカボチャは初めて見ました」
「ぅぅ、ぐすん、たくさんあったのに……」
「また作り直しましょうか。何度だってやりなおせばいいんです」
人生はやり直せない。
有限のなか、ひたすらに進む時計の針を戻すことは叶わない。
だが、やり直せるモノだってあるはずだ。
「ちょうど霊木の幹が畑のうえにありますね。……もっとカボチャを大きくしたいですか?」
「え? できるの?」
「できます。ジュブウバリの先祖の方達に畑を手伝ってもらいましょう」
「そんなことできるんですか、アーカムさま?」
「もちろん」
あの黒いバケモノ、オブスクーラの暴虐によって砕かれた霊木は2本。
70m級の超巨大な木の一部が、いま目の前で畑をつぶしている犯人だ。
霊木はジュブウバリ族にとって神聖なものだ。
ずっと昔からこの地に住む彼女たちは、先祖の骨を霊木に還すことで、大地と森との調和の中を生きてきた。
俺は霊木の破片に火を放った。
風を送り込み、燃え広がらせて、一気に燃焼反応を加速させる。
やがて巨大な木炭が出来上がった。
地面を蹴って飛びあがると同時に《イルト・ウィンダ》で跳躍高度を20mまで高めて、霊木の木炭のうえに乗る。
木炭のサクサクした感触を足の腹で感じながら、トネリッコの杖をふってザクザクと風を打っていく。
そうして、木炭をバラしていった。
「木炭を土壌にと混ぜて肥料にしましょう」
「肥料?」
「カボチャがもっと大きくなるように土に栄養を与えるんですよ」
「おおぉ~!」
かつてイセカイテック社の農業部門に3ヶ月ばかり左遷させられていた時期に身につけた知識をひっぱりだし、俺は畑事業を新しく展開し直すことにした。
《イルト・ソリス》の余波で禿げ上がった森は、いい感じに土が掘り起こされていたので、そこの土と肥料を混ぜて、整地して、畑の範囲を40倍ほどに拡大した。
最初は畑がこの気候のなかうまく機能するのか確証がなかった。
ゆえに家庭菜園程度のスケールで稼働させていたが、あの立派なカボチャを見たあとならば、自信を持って大規模な栽培に乗り出せる。
こうしてジュブウバリリの畑事情は、大きな挫折をあとで、すこしずつ好転し、前へと進みはじめた。
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