上 下
61 / 306
第三章 闇の住まう深緑

オブスクーラの会、闇の三式魔術師、ランレイ・フレートン

しおりを挟む
 
 ランレイ・フレートンは目を丸くしていた。
 
「馬鹿な……」

 見覚えのない白い肌の外人。
 見るからにアマゾーナではない文明圏の少女が、想像をはるかに超える戦士だった。
 感覚としては三段保有者の剣士の可能性を疑ってはいた。
 しかし、人造怪物オブスクーラ二型がああも、無惨に葬りさられるとなると話が変わってくる。

 もしかして、四段保有者?
 なぜそんな高等な剣士がこんな村に?

「ランレイ卿、も、もしや、あの娘は……」
「あの狩人の仲間? そうか、なるほど……」

 剣術だろうが、魔術だろうが、段階三まで至れる者はごく一握りだ。
 そして、その先の段階四となると、その数はごくごく限られてくる。
 類稀なる天才な領域。そうと呼ばれている。
 それこそ、四段保有者の剣士など狩人協会から声がかかり、日夜怪物と死闘を繰り広げているに違いない。
 
 強くて当たり前だ。

「ランレイ卿、いかがなさいますか?」
「はは……ふはは……ふぁーーはっははははははははははははは! いいぞ、いいぞ、素晴らしいじゃないかね!」

 ランレイは歓喜した。
 
「相手にとって不足なし! そんなに守りたいのなら、お前の力で守ってみせろ!」

 ランレイ黒手で腰から杖をぬいた。
 
「3等級の高級品だ。こいつを試してやろう!」

 ランレイが先日都で買ってきた小杖。
 3等級、コトルアの杖。
 霊鳥コトルアの尾羽を芯にすえて作られた杖だ。
 
「死して礎となれ
      ──《ボラ》」

 紫光が煌めき、闇の魔力が放たれる。
 光弾は異様に速く、短い愛称も相まって、咄嗟の避けることが叶わなかった。
 ジュブウバリの少女戦士が光に撃たれる。

 ふわっと吹き飛ばされた。
 カティヤはすぐさま駆けだし受け止めた。

「大丈夫か?」

 カティヤはまだ幼い少女に問いかける。
 血は出ていない。
 撃たれた箇所も傷ついた様子はない。
 カティヤはホッとする。

 しかし、ふと、少女の表情が固まっていることに気がついた。
 少女は瞬きをしていなかった。
 苦痛に歪み、涙を流したまま──息絶えていたのだ。

 カティヤは目を見開く。

「エクセレント。どうだね、素晴らしい力だろう? これが死の魔術だよ」
「死の、魔術……?」

 アンナはその恐るべき威力に戦慄する。
 当たれば、死ぬ? 
 そんなデタラメな魔術が存在する?

「私も美しい娘を殺すのは心が痛むだが、それも仕方なのないことだ。
  死して礎となれ──《ボラ》」
 
 再び紫色の光が放たれる。
 アンナは剣で斬り払った。
 
 大丈夫、冷静に戦えば対応できる。
 そうアンナが思った瞬間、紫色の光が4つ同時に発射され、4つの命が奪われた。
 5人の闇の魔術師全員が、死の魔術をつかえるのだ。

「殺す」

 冷たい声でつぶやく。アンナは飛びかかる。
 闇の魔術師が次の魔術を唱える前に、首が宙を舞った。

「っ、やはり速い! 距離を取れ! あとはオブスクーラで掃討する!」

 ランレイの号令で闇の魔術師たちは空へ逃げていく。
 
「逃がすわけないでしょ」

 アンナはツリーハウスを繋ぐ吊り橋を切り落として、ツタを手に取った。それを剣の柄に圧で固定、鉤縄のごとく振り回して、空飛ぶ闇の魔術師の背中へぶん投げて、突き刺して、力任せに引きずり下ろす。

 ランレイは殺意の波動に目覚めたとしか思えない残酷な攻撃を繰り出すアンナへ、死の魔術を放った。
 
 アンナは闇の魔術師を盾にして防ぐ。
 屍になった外道を放り捨てて、再び鉤縄のように投げて魔術師の撃ち落とした。

 獣を狩る狩人の俊敏さ。
 状況への適応能力。
 
「やはり狩人……、やはり古代から怪物を相手にしているプロなだけある……。オブスクーラぁあああ!!」

 絶叫にも似た声でランレイが咆哮をあげる。
 それは人の声帯機関ではない。
 喉に植えつけられた狼の声帯と近いものであり、その響きは遠吠えさながらだ。
 アンナは三度《みたび》、鉤縄ならぬ剣縄を投擲しようとする。
 だが、その瞬間、アンナの視界を何かが掠めた。
 物凄い速さでせまる鋭利な爪。
 アンナはとっさに場を飛び退いて、不意打ちを回避した。
 
「がしゅるるる」

 荒い声が聞こえる。
 巨大な影がいた、
 アンナは異臭に眉根をひそめる。

 4本足の四足獣だ。
 そのケンタウロスのような獣には上体がついており、黒い刃を両手に持っている。
 人間の子供ほどある大きな両手剣に目がいくが、より恐ろしいのは上体の背中から生えている無数の触手だろうか。

「ははは、これが我らの合成魔術の大傑作、人類の未来だよ!」

 ランレイは高らかに笑う。

「さあ、殺し尽くせ! 闇に飢える者オブスクーラよ!」
 
 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

処理中です...