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第三章 闇の住まう深緑

決起、オブスクーラの会

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 暗い地下室に石の水槽があった。
 水槽は発光する液体で満たされている。
 なかには、黒い怪人がいる。何本もの管がつなげられ、水槽に浮かばせられていた。
 怪人は、覚醒の時を待っているようだ。

 水槽を満足げな顔で見下ろすのは、30歳後半の二枚目の男だ。皮膚には黒い痣がある。
 彼の名はランレイ・フレートン。
 かつてレトレシア魔法魔術大学にて天才の名を欲しいがままにした魔術師である。
 
「ランレイ卿、『闇に飢える者』の最終チェックが完了しましたぞ」
「ほう! 素晴らしい!」

 ランレイはガバっと顔をあげて天を仰いだ。
 
「今こそ報復の時だ! あの憎きクソガキめ! 私の研究の偉大さも理解できず矮小な脳みそのくせに、この天才ランレイ・フレートンに人の道理を説くなど! 本当に許せんやつだ!」
「まったくでありますぞ。きゃつめは多少属性魔術が達者のようでありますが、しょせんは暗黒の偉大さに気づけない選ばれざる者でありますぞ」
「まさしくその通り!」

 ランレイは部屋を横切る。
 ベッドのうえでぐったりしたジュブウバリの少女を抱きかかえた。
 布を纏っておらず、体中には切り傷が生々しく残っている。
 
 ランレイはすでに事切れた少女に頬擦りし、舌で柔らかい肌と血の味を楽しむと高揚した顔になる。

「ああ、本当の本当に、アマゾーナの戦士は気高く美しい! 全部欲しい! 全部だ! あの里は全部私のものなのだ!」
「ランレイ卿、こちらを」

 部下の差し出してくる黒い指輪を受け取る。

「うむ! 素晴らしい! では、いこうか、諸君! 偉大なる研究の完成だ!」

 ランレイは冷たい地下室の床に少女を放り捨て、高らかに笑いながら歩きだした。

「待っていろよ、狩人め! 貴様に受けた傷の分だけ、痛めつけてやる! 絶望に屈しろ! はっはははははははは!!」

 ランレイはそういうと、黒い指輪をはめた。
 指にはまると、指輪から闇のヴェールがひろがり、彼の手をつつみこんだ。
 黒色の手袋のようになり、根本から触手が生えてくる。
 触手はランレイの手首にまとわりつき、皮膚をやぶって彼の体内に侵入すると、魔力機関と直接に接続された。

 これで純魔力の利用が可能になった。

「大地よ、大いなる力の片鱗を覚ませ、
  源の力をここに、起源の波動で答えたまへ
     ──《イルト・グランデ》」

 ランレイは黒手の腕をおおきくふりあげると、勢いよく床を叩いた。
 闇の拠点が轟音をあげて動きだす。

 轟音が鳴り止んだ。
 彼らは地下室の扉を開け、足を踏みだす。

 視界がいっきに開けた。
 強風に髪の毛がなびく。
 すこし肌寒い。

 それもそのはず。
 ここは遥か天空なのだから。

 闇の魔術師たちは高塔の頂上にいた。
 地下に築かれた部屋を、土の魔術で天まで押し上げたのだ。

 憎き狩人に拠点を制圧されて以来、絶対に見つからないために、拠点は地面のしたに埋めてしまっていたのだ。

「流石はランレイ卿、いまだに純魔力も操れるとは。恐れ入りましたぞ」
「はははは、私の才能をもってすれば、たやすいことだ」

 ランレイは高塔のうえに立つ4人の仲間に呼びかける。

「我らオブスクーラの会は今日まで懸命に励んできた。薄汚い狩人に研究施設を破壊されようと諦めず、研究完成にこぎつけた。さあ、諸君、最終耐久テストの時間だ。行こう!」

 風に乗って高塔へ黒い鳥が4羽やってきた。
 鳥たちは、闇の魔術師たちを背中にまわると、それぞれの肩甲骨へかぎづめを喰い込ませた。
 黒い鳥と魔術師はそのまま融合していく。
 背中に鳥がくっついたようなフォルムになる。
 魔術師たちは空を飛びはじめ、風に乗って空を移動しはじめた。

 驚愕の魔術だ。
 魔術協会が見たら顔をしかめるほどの禁忌だが。

 ランレイだけは違った。
 高塔からとびおりると、黒い霧に体をつつみこみ、そのまま自力で飛行しはじめた。

「ショータイムだ。守れるものなら守ってみたまへ! 狩人」

 闇の魔術師たちが動きだした。
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